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第14話 恋愛実況解説班

シエナさんの背中を物理的に押した私たち二人は、速やかに再び物陰に隠れました。

シエナさんとカイネさん兄からは見えない位置を陣取ります。


『あれ?二人ともどこに……?』


私たちが姿を消してしまったことで、シエナさんはおろおろしていました。すまない。

そんな彼女の声が耳に届いたのか、店の前に立っていたカイネさんのお兄さんが振り向きます。


『君は、シエナ嬢……!?』


『あ……、カイネさんのお兄様の……』


『ど、どうも、久しぶり。妹がいつも世話になっている』


『いえ、私の方がいつもカイネさんに助けてもらってばかりですから……』


などなど、会話を始めました。




「なんかよく聞こえるよ?」


「魔法で頑張りました」


私たちは見つからないために、彼らからある程度の距離をとったところに隠れていています。そのため、会話を盗み聞くのは悪趣味かもしてませんが、正しく聞き取るために風魔法を用いて音を耳に届けています。

こうもうまくいっているのは、ここは表通りよりも人気がなく、かつ現在風がほとんど吹いていないことから、外乱の影響が少ないためです。


「すごいけど、キーラさんはスパイ活動か何かをやっていたの?」


「都の平和を(勝手に)守っていました」


「そっか……」


だんだんカイネさんの目のハイライトがなくなっていく気がするのは気のせいでしょうか。

気のせいでしょう。

学園の魔法の授業では、実用的な話より理論的な話が多いので、このような使い方はなれていないだけかもしれません。

ただ、ここまでの制御は不断の努力が必要です。万が一、真似されてしまうと、人によっては限界を越えてしまいます。

そこで制御の困難さを示すべく、努力アピールをしました。


「鼻や耳から血を出して頑張りました」


「それは割と危ないよね?脳に深刻なダメージいってない?」


本当にコイツ大丈夫かという目で見られてしまいました。心外です。




『今日はこちらのお店にご用だったんですか?』


『え!?あ、ゆ、友人と……、あれ?』


シエナさんに質問されたカイネさん兄は、あからさまに慌てた様子で言いかけましたが、友人がいないことに気がついて辺りを見回しています。


『どうしましたか?』


『一緒にいた友人が見当たらなくて……』


『あれ?本当ですね。さっきまでいらっしゃったのに……、あ、さっきまでというのはその、お姿を見かけて話しかける前といいますか……』


理由は知らないけど尾行していました、とは言えないシエナさんは苦し紛れに言い訳をしています。


『は、はあ』


これはカイネさん兄もポカンとしたようで気の抜けた返事を返しました。


『ところで!今日はこちらのお店にどんなご用事が!?』


勢いでごまかすと言わんばかりにシエナさんは大きな声です。

しかしその質問には、私たち二人の予想通りか、カイネさん兄は挙動不審になりました。




一緒に物陰から見守っていたカイネさんがポツリと呟きます。


「シエナに手紙を送ってきていた人って、やっぱり……」


その疑問に対し、彼女もたどり着いているであろう予想を口にします。


「カイネさんのお兄さんじゃないですか?」


私の言葉を聞いたカイネさんはがっくりと肩を落としました。


「……うーん、去年、シエナがうちに遊びに来てくれた時、なんかそわそわしてるなあ、って。今思えば、後でやたらシエナのこと聞いてきたよ」


「ひとめぼれでもしたんですね、きっと」


カイネさんはおそらく、シエナさんが園芸好きであることをお兄さんに話していた。そして、裏の花壇で草花の世話をしていることも。


「そして、なんらかの要因によって、裏の花壇までの地下経路を見つけたお兄さんは、シエナさんに手紙を書くようになった……」


「最近手紙を送れなくなった理由は、恋にうつつを抜かして、かねてより得意ではなかった語学の成績が危なかったから。流石にそちらの対応をしなきゃいけなくなった兄は手紙に時間が取れなくなってしまった……。うううぅ、妙にリアルっぽくて嫌だ」


おおむね同意です。成績ピンチは生々しい。




『用事は……その……、ちょっと最近、園芸に興味を持っていてだな』


カイネさん兄の返答にシエナさんは目を輝かせて言います。


『そうなんですか?ここのお店、珍しい品種の品揃えがあって、おすすめですよ』


この言葉にカイネさん兄はガッツポーズを取り、


『……やはりっ』


『やはり?』


『あ、いや、知人から場所については詳しく聞いていなかったが、こういう店があるとはたびたび伺っていたから』


『そうなんですか!その知人の方も園芸お好きなんですか?』



二人の会話とその様子を観察している私たち。

……私たちは何をしているのでしょうね。

そんな虚しさを感じていた私を現実に引き戻すかのように、カイネさんが話しました、


「ここのお店って、たぶんシエナが送ろうとしてた一番最近の手紙に書いてあったところだよね」


「そうでしょう。これは完全に推測ですけど、お兄さんはシエナさんからの手紙でこの店の存在を知った。しばらく忙しくて手紙を書けなかったので、シエナさんの気持ちが離れているのではないかと不安になり、とりあえず探してみて、次の手紙の話のネタにしようと思ったとかですか?」


「確かにあの人、わりとすぐにいろいろ不安に感じるタイプだから、それはありうる……」


私には兄弟姉妹がいないのでよくわかりませんが、兄妹でも性格は結構違うものなのですね。カイネさんは明るくて前向きな印象でしたから。

などなど考えているとカイネさんはこう言ってきました。


「今、私と結構性格違うって思った?」


さすがにこういう考えはお見通しですか。


「そうですね。まだ、出会ってから長い時間は経っていませんが、カイネさんはポジティブな方だなと」


私の返答に彼女は腕を組み、


「えー?これでも私だって悩んだりするときあるよ?……例えば、自分の兄が女子寮に不法侵入している可能性が浮上したときとか」


それはそう。


「お兄さんも地下経路の噂をどこかで件の先輩から聞いて、偶然見つけたのでしょうか」


不法侵入といえば、侵入経路である地下通路です。大まかな予想としては、カイネさん兄がシエナさん・カイネさんと同じ情報筋から噂を聞いたと考えているのですが。

カイネさんは眉をひそめます。


「そんな偶然ある?」


「どうでしょう。偶然か必然か、世の中って予想もしないことが起きるものですから。……彼女とお兄さんは仲良かったんですか?」


「そうだね、兄はよくあの人になついてたから……。あれ、逆だったっけ?」


などなどと私たちが話していると、




『実は……』


『……?どうされました?』


『君に手紙を送っていたのは、私なんだ…………!』


『へ?手紙?……あ、まさか、あなたが……っ!?』




「ゲロったね」


「ゲロりましたね」


我々が雑談をしているうちに事態は大きく進行していました。これでほぼ問題解決です。実際に何があったのかの答え合わせはしていないですけど。


「手紙といえば。カイネさん、手紙の字体はどうだったんですか?あの段階で気がつかなかったということは字を変えていたのですか?」


「うん。普段の兄の字とは違った。変なところで手が込んでるよ」


字体を変えるのは私もよくやるので人のことは言えませんが、もし今回カイネさん兄がわざわざそのようなことをしなければ、すぐに手紙の主がわかりましたね。

おそらく、手紙が自分の妹の目に入ることを恐れてのことだったのかもしれません。

カイネさんがふうと溜息をつきます。


「とりあえず言えることは……」


「?」


「兄の不法侵入が学園側に今のところバレてないみたいで本当に良かった……!」


そうカイネさんが魂の叫びをすると同時に、カイネさん兄がシエナさんを抱きしめていました。


何があったんだろう。


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