第13話 テリトリー内では生き生きと
「いやあ、今僕が待ってるのは君のお兄さんなんだよ!」
「そうなんですか?兄がご迷惑を……」
なんたる偶然。この男子学生はどうやらカイネさんのお兄さんの友人のようです。
突如話しかけてきた女子学生3人組のうち、1人が自分の友人の妹であることに気が緩んだのか、あとはホイホイ喋ってくれるようになりました。
・カイネさんのお兄さんは今何か問題ごとか悩み事があるようで、それに付き合うために都に来た
・男子部自体には、今これといった問題やトラブルはない
・誰かがやらかした話も聞かない
・男子部にも女子部同様色々な噂話がある
・カイネさんのお兄さんは最近新しい趣味ができて、その代わり授業がおろそかになった
・おかげで、直近の休日は苦手科目の語学のリカバーに追われ、今日カイネさんのお兄さんは久しぶりの休日
などなど、聞いたことから聞いていないことまで、喋ること喋ること。たぶんこの人、口は軽いほうですね。さらっと友人の妹に授業態度や成績のことまで喋りましたよ。
カイネさんは若干あきれたような顔をしています。
ただ、現在男子部に特にゴタゴタはないという話で、手紙の主がなぜ送るのをやめてしまったかの謎の解明が遠ざかってしまいました。もし仮に手紙の主が不法侵入で捕まっていたとしたら間違いなく罰則ですので、内部ならどんなに隠蔽しても噂程度は流れるでしょう。
カイネさんは、この男子学生を待たせている自分の兄のことが気になったようで、
「昨日兄に連絡したんですけど、返事がなくて伝言を頼んだんですが……。それって成績関連のせいで忙しかったからですか?悩み事って兄はもしかして卒業が危ういんですか?」
確かにお兄さんが留年してしまったらと考えると心配ですよね。
でも、ある程度まともに学園生活を送って、相当なやらかしを起こさない限り、留年はありえないでしょう。
「ああ、卒業は大丈夫。実は……、あ、これ僕がばらしたのは秘密な。アイツ今、都にあるかもしれないある店を探しててさ。なんでかっていうと」
男子学生は私たち3人にそう言いかけて、そのまま私とシエナさんをみて固まりました。
「そういえば、別にこれを聞くのは特に意味はないんだけど、君たち3人って友達なんだよね?」
その聞き方は絶対何かありますよね。
「はい」
彼は私とシエナさんを交互に見て、シエナさんの顔をまじまじと見ました。
……ところどころ偶然にしちゃあ出来すぎないか、と突っ込みをいれたくなる出来事があるのですが。
私の頭の中には、ある予想が浮かび上がってきました。
おそらく、この件に関しては私よりも情報を持っている彼女もその予想がついたのか、アチャーまいったな―とした顔になっています。
たぶん、そういうことなんでしょう。
私たちは適当な理由をつけて、カイネさん兄の友人と別れました。
そして今は物陰に隠れて、彼を見張っています。
都は私の庭なので、どこに隠れれば尾行しやすいかも私は把握しています。完璧です。
「ど、どうしたの?二人とも」
「まあまあ」
「ちょぉーと、静かにしててね」
見張ってどれくらいが経ったか、カイネさんとどこか雰囲気の似た、1人の男子学生がやってきました。
「あ!あれ!」
「カイネさんのお兄様ですね?」
「そうそう」
私たちがこそこそと話していると、合流した二人は移動を始めました。
困惑しているシエナさんの手を引いて、私たちも静かに尾行します。
「ここ、裏路地だけど通って大丈夫なの?」
「いえ、問題ありません。このあたりがどうなってるかは完全に把握していますから」
見つからないよう細心の注意を払って尾行ルートを選択しながら、私はカイネさんとシエナさんを先導していきます。
「今すれ違った人たち、キーラさんの顔見たら逃げて行ったよ?」
「なんででしょうね」
尾行対象の二人は何かを探しながらキョロキョロして歩いています。
あっちへ行ったりこっちへ行ったりと、目的地はあるものの、そこまでのルートが分からないようですね。
そうこうしているうちに彼らは大通りの市場に辿り着きました。そして、再びあっちへこっちへ小道を覗いて、最終的に大通り手前の小道へと入って行きました。
「あれ、この道って……」
「キーラさん、今すれ違った人吹っ飛んでいかなかった?」
「勢いよく転んだだけじゃないですか?」
その小道は、園芸関連の店が多く並ぶ一画のようで、花の苗や土の入った袋が並んでいました。
カイネさん兄はそのままずんずんと進んでいき、慌てるように友人がついていきます。
そして、目立たないところにある、小さな店の前で足を止めました。
「シエナ」「シエナさん」
「へ?どうしたの二人とも」
「「いってらっしゃい」」
私とカイネさんでシエナさんの背を押しました。そして、速やかにカイネさんの兄の友人を回収します。
「キーラさん、やけに手馴れてない?」
「気のせいじゃないですか?」
「な、なんだ!?君は……!?」
「今殴らなかった?」
「跡は残りませんし、気を失わせただから大丈夫です」
「それは大丈夫って言うのかなぁ……」