第10話 暗闇に負けず好奇心にも負けず
なんだか謎が解明されそうな機運が高まり、あれやこれやと花壇を見てみたものの、特になにも見つからず。
花に影響がない範囲で試しに土を掘ってみても、特に何もありません。
「そんなに物事、都合良くは行きませんか……」
「さっきは、きた!って感じだったのにね」
「ううう、二人ともちょっと土で服が汚れちゃってる……ごめんなさい」
「まーまー、乗りかかった船なんだし」
仕切りや建物の外壁、それに花壇はもう見ました。
あと、私たちが見ていないものは……。
「物置はまだ見ていませんよね」
スコップを借りたときに開けましたが、しっかりとはまだ探索していません。
物置は寮の裏の片隅にあり、小さな木造の小屋となっています。中には乱雑に掃除用具が置かれていますが、園芸用具は整理整頓されています。
物置のなかに入って歩き回ると、コツコツと私の足音が響きました。
しかし、一ヶ所だけはわずかに音が違います。
「どう、キーラさん、何かあっ……え、何やってるの」
私がしゃがみこんで床に耳を近づけている姿を見た二人が、え、この子どうしたの、という視線が刺さります。
「……そうですよね」
「なにが?」
「床下には何かあるのは定石です」
私はずっと持っていたスコップの先を床板の隙間に差し込み、ぐっと持ち上げます。
すると、そこまでの負荷もなく床板を持ち上げることに成功しました。
「え!?床の板はずしちゃったの?」
そう言ってカイネさんが近寄ってきます。シエナさんも来て、私の手元を見ました。そして、彼女は息をのみ、
「この物置、下にこんなものが……?」
どこまで続いているかわからない深い穴が、そこにはあったのです。
私は、水魔法や風魔法といった、波に関する魔法が得意です。どこで習ったそんなことと言えば、良い子は真似しないでね的自己鍛練を重ねたためで、人一倍水や空気の流れや振動を感知することが可能です。
だからこそ、床下の音の変化に気がつくことができました。
さすが未来の権力者の私です。どんな音も聞き逃さない、スーパーイヤー持ち。これがあれば、怪しい話をしている声も拾うことができるでしょう。
穴にははしごがあり、それを使っていけば下に降りられそうです。シエナさんは茫然として、
「なんか実物を見て、ものすごくビックリしてる自分がいる……」
と言いました。
「もしかしたら、寮の裏の花壇を世話する人たちに、密かに受け継がれていたのかも知れませんね」
わざわざ、裏の花壇で花を育てているような人しか使っていないと思われる物置に出入口があった訳ですから。ただ、カイネさんの言った通り、この寮が昔軍事施設だったりしたならば、他にも出入口が存在していそうな気もします。
「ここ、キーラさんとカイネさんがいたら、私気が付けなかったよ」
「噂話で伝えられてもねぇ……。それにこの穴、どこに繋がってるんだろう?」
「私、軽く降りてみます」
空気の流れから深さを概算した私は、そのまま飛び降りることも考えましたが、はしごを使って降りてみました。
「へ、ちょっとキーラさん!?」
「上で待っていてもらえますか?」
万が一、誰かに出入口をふさがれてしまっては強制突破しなくてはならないので、大きな音を出してしまいます。そうすれば、この秘密の通路も公になってしまうかもしれません。
そんな展開は面白みに欠けて、私好みではないのです。
まあ、二人に少しの間見張ってもらえれば安心でしょう。
「すぐに戻りますから」
しばらく下ると底に到達しました。穴は手掘りではなく、しっかりと舗装されています。照明はないので、火魔法で熱を発生させることによって明かりをつけることも考えましたが、魔法がセンサーに引っ掛かってしまうかもしれないのは問題です。
視界は大変悪い、というか真っ暗ですが、空気の流れは感じられます。これでどちらの方向に道が繋がっていそうかだけ調べれば、今回は良しとしましょうか。
どうやら降り立った地点から先には一本道が続いています。しかし少し進んでみると、いくつに道が分かれているようでした。……そのうちの一つは男子部の方角です。
地上での建物の位置を考慮すると、男子部まで行くにはそれなりの距離があることが考えられます。あまり進みすぎてしまうと帰りが遅くなってしまいますので、ここで一旦探索を中断して、私は引き返すことにしました。
帰りは最近誰かがこの道を通った痕跡がないか、注意して歩いていきます。明かりがなければ壁づたいに歩いていくでしょうから、同様に壁を触りながら引き返して行きます。
すると、私よりも高い身長の人物が手を付くであろう位置に、若干量の土がついていました。付着した時期は不明なので、ずっと昔にここを通った者の痕跡かもしれませんし、最近のものかもしれません。いずれにせよ、ここを使った者がいるのは間違いないでしょう。
さすがに明かりもなしに最近の使用痕跡を見つけるのは無謀でしたね。
はしご登って再び地上に戻ってきた私の姿を見つけた二人は、ほっとしたような顔をしています。
「あ!よかった、帰ってきた!大丈夫だった?」
「はい。道が男子部の敷地の方向に続いているようでした」
「いやそうじゃなくてね、何か危険な目に合わなかったとかなんだけど……、そのぶんだと大丈夫みたいだね」
シエナさんはやや困惑しつつもそう言いました。
私は力、知、権力を手に入れる女。むしろ危険な目に合う側ではなく合わせる側です。
「なんだかキーラさんがどんな人かわかってきた気がする……」