第9話 わくわく侵入経路
「うわっ、キーラさんはなんでスコップ持ってるの?……えっと、なんか兄が全然呼び出しに応じてくれなくて。仕方がないから、最近男子部の方で何か事件とか面白い話ない?って伝言してもらったよ。ごめんね、遅くなっちゃって」
カイネさんは私たちのもとへ駆け寄ってくると、頬をかきながら言いました。
それにシエナさんは申し訳なさそうにしながら返します。
「ううん、むしろわざわざ連絡とってもらって、ありがとう。こちらのほうこそ、ごめんなさい」
「じゃあ、今度シエナのおいしい手作りお菓子、御馳走してよ!それで貸し借りなしっ」
「うん!カイネさんもキーラさんも喜んでくれるよう頑張る!」
さらっと私にもお菓子をくれる発言をしてくれるシエナさんも、相手が気にしないようにあえて交換条件を出すカイネさんも、根がいい人なんだなと思いました。
しかし私はお菓子につられて、目的を見失う女ではありません。しっかりとさっきの話に軌道修正します。
「つい先ほど、シエナさんからこの寮には秘密の経路があると聞いたんですが、カイネさんはその噂を詳しく聞いたことはありますか?」
「……あー、思い出した!その噂ね。先輩から聞いたことあるよ」
そう言ってカイネさんは語り出しました。
* * *
ここの寮が、すっごく古い建物だって話は前にしたよね?
……そうそう、頑丈に造りすぎて取り壊せないから、そのままっていう。
で、実は造られた当初は学校の寮じゃなくて、軍事基地だったとか。
だから地下に脱出用の通路がいくつもあるんだって噂。
まあ私も、先輩から一回、あっ!あと、兄からもだ!たった二回だけ噂を聞いただけだし、自分でその地下通路を見つけたこともないんだけどね。
本当にそんな道があるんだったら、男子部との行き来だって可能かもしれないけど、この噂自体、今キーラさんに言われるまで忘れてたくらい、全然耳にしないから嘘だと思ってたよ。
どこにその道の入口があるか?
さすがにそこまでは聞いたことないなー。
この学園、歴史が古いだけあって、噂話は他にも色々あるけど。そういう噂も探せばあるのかなぁ。
え?キーラさん、こういう噂話興味あるの?
うーんと。他には学園の図書館には世界に数冊しかない魔導書がひそかにあるとか、聖女伝説の品が今はもう使われてない旧校舎に置いてあるとか……。隠し部屋があって、そこで死者蘇生の実験を行っていた者がいたとか、ちょっとホラーな話もあるけど。
ふふふっ、こういう噂話ってどきどきワクワクするよね。
* * *
秘密の地下通路。
もしも本当にそれが存在して、かつ、学園側が把握していないとすれば。
この女子部敷地内にも外部の者が侵入は可能。
正直他の噂話も後でじっくり聞きたいですが、手紙男の怪という先約があります。
「通路の噂を話してくれた先輩とは会えますか?」
「いや、もう卒業しちゃってるし、何より留学してるから厳しいかな。そういえばシエナは誰から聞いたの?私、学園で色々な人と喋っててこの話題が出たの、先輩を除いたら初めてじゃないかな」
カイネさんの質問にシエナさんは必死に思い出そうとしていますが……。
「うーん、どなただったっけ……。全然顔も思い出せない」
顔すら……?
このとき、私の頭の中にある考えが浮かびました。
「……もしかしたら、思い出せないのではなく、そもそもしっかりと見ていないのかもしれません」
私の言葉にシエナさんは、
「それってどういう……、あ、もしかして」
「はい、シエナさんなら、花壇をいじってるときに喋っていたのかもしれません。そうすれば、花壇に意識を集中しているわけですし、顔を見ていないことも考えられます」
全ては可能性の域を出ません。ただ、強引ですが辻褄はあってきます。
そこで、
「じゃあ、園芸をやっている誰かが通路の噂を……あああああ!」
「カイネさん?」
「どうしたの!?」
何か思いついたように叫んだカイネさん。少し驚きました。
「地下通路の話してくれた先輩!よく花とかの世話してたよ!」
……点と点が線で繋がってきましたね。
「もしも、シエナさんとカイネさんに地下通路の噂話をした人は同一人物だったら」
「地下通路を使ったかもしれない手紙の人と何かつながりがある……?」
「おおお!なんかワクワクしてきた!」
まあ、そもそも地下通路が存在してなければ全て振出しに戻りますけど。とりあえずはこの方向で調べていきましょう。
「その先輩はどんな人なんですか?」
「家の領地が近かった影響で、もともとは小さいころお姉さんみたいに遊んでくれてたの。そのつながりで学園に入学してきた私に良くしてくれてたんだ。そうそう、よく花壇のところにいたなぁ」
私が件の先輩がどのような人なのか聞いていると、
「今思い出したんだけど、噂話を聞いた場所、ここだった。この寮の裏の花壇で聞いたんだった……」
シエナさんがそう言って、あたりを見回しました。
「ここには何か秘密があったり……なんて」
案外、そうかもしれませんね。
どこかにまだ、しっかり見ていないところがあるのかもしれません。