飼育員のおっさん
「グッピー…エンゼルフィッシュ…ネオンテトラ…コリドラス…うんうん、全部元気そうだ。」
リストに書いてある名前の熱帯魚を見ながら、彼は項目にチェックを入れていく一人の男。
胸に『青空水生ショップ』と刺繍されたエプロンを着て、名札は『店長』としか書かれていないすこし物寂しい名札である。
「さて、今日も営業だ。」
今日もカーテンを開け、いざ開……て……
「……ん?」
___ドアを開けるとそこは何時もの商店街ではなく、別の風景が広まっていた。
「……何じゃここ…」
一人でそう呟きながら、目の前の風景に驚いていると…
「ん?ないだ、やっと店が開いたのか?って、男が営業しているのか…」
と、一人の女性が話してきた、褐色肌の女性だった。
「あ、え、えぇ、少しばかり準備に手間どっていまして、今日から開店できるんですよ…と言っても、売り上げは期待していませんがね。」
と言い、中へ入ろうとすると、腕を掴まれ
「そんなの、見ないと分からないじゃん?ちょっと見せてくれない?おじさん」
と言われ、少し戸惑いながらも『見せる位なら…』と言う軽い気持ちで
「分かりました、ようこそ青空水生ショップへ」
そう言い中へと案内する、恐らくそれが間違っていたのかもしれないがな…。
____Now loadihg...____
「え、ちょっとなにここ!」
彼女の第一声がそれだった、中は少し広めの部屋で、左右には水槽と
「ぇ!この魚超綺麗なんだけど!」
優雅に泳ぐ熱帯魚がいた。
「おじさんはこの魚達をどうするの?」
「ん?売るんだ、だが、どんな人に渡るか分からない…だからこの店に入ってきた人を見定める…とまでは行かないが、あまり雑に扱って欲しく無…おい、なに見てんだ?」
お客様第一号である女の人は何かを見つめている…
「おじさん…この機械って何?」
見つめるのは二つ、ヒーター&サーモスタットとろ過装置だった。
「まずはヒーターだな、この魚達は普通の水温じゃ生きていけない、だからヒーターで水温を適温まであげるんだ、だけどヒーター単品だと逆に水温が上がり続けて死んでしまいます」
「つまりそれを調整する機械も必要ってこと?」
以外と理解能力に長けてる子だ…と思いながら
「その通り、だからこそサーモスタットと言う機械があるんだ。」
そう言いながら彼女を客として顔を見る。
「__合格だな。」
「え?何?」
「いや何でもない、買うのなら買うで飼い方を教えるが、金がかかる、今のお前さんの財産じゃあ足りないだろうな。」
「そ、そんなにかかるの?」
彼女は質問をしてくる、当たり前だ、金はかかるとも。
「最低でも一万二千はかかる」
「一万…二千……そ、そんなにかかるんですか?」
少しおどおどし始める、やはり高いのだろう。
「だが設備をしっかりしたいのなら、二万五千はかかるぞ」
「二万…五千………」
落ち込んでいる、少し物欲しそうにグッピーを眺めている。
「んまぁ…此処で働くんなら…なんて、そんなこと出来な」
「良いんですか?!」
食い付きよくない?と思いながらも話をしてみる
「待て待て落ち着け、話を聞けって…お茶を出してやるから椅子に座ってくれ。」
椅子に座らせ、お茶を用意する。
「粗茶だが熱いぞ、気ぃつけろ。」
「………そちゃ?私が飲んでる紅茶とは違うのね…けど何か落ち着く良い香り…」
ふぅ…ふぅ…と冷ましながらお茶を啜る、ホッコリした様な笑みを見せた。
「よし、じゃあ話をする、確かに働いてもいい、それは構わないが…お前さんに払う金が無い。」
「それは大丈夫です、お金は問題ありません、お魚を見られるのならそれで。」
何か申し訳ない…此処で金を稼ぐことが出来たから旨い飯を食わせてやりたいな。
「じゃあ後は…此処に来るのは初めてでな、少しばかり此処の場所について教えてくれないか?」
「え?う、うん…良いけ…ど…?」
少し不思議な目で見られているが、取り敢えずはこれで大丈夫だろう。
「まぁ…しがないおっさんとでも思ってくれ、仕事の内容はシンプルだ、メモ用紙だ、ペンはあるか?」
「い、いえ…持ってきてないですが…綺麗な紙ですね…」
ただの白紙に感動をもつ彼女、此処はそんなに酷いのか?
「いつもどんな物で記すんだ?」
「えぇっと…例えば羊の皮を鞣した物とかです、水に濡れても破れることはありませんし丈夫なので、ギルドとかでもよく使われるんです。」
ギルド…ふむ、どうやら此処はただの街…と言うことでも無さそうだな。
「成る程、じゃあペンを渡しておくよ、羽ペンか?それとも万年筆か?」
「じゃあ万年筆で、お願いします。」
万年筆を渡し、仕事の内容と注意事項を説明した。
『 一つ ガラスを丁寧に拭くこと。
二つ 一日三回種類ごとに決められた餌を決められた量を与えること。
三つ どんなときでもお客様には優しく接すること。
四つ マナーのなっていないお客様は注意する、もしそれで文句や行動を慎まない場合は追い出すこと。
※注意※必ず手洗いをして、水槽の中に手をいれるときは手袋を着用すること。
以 上』
「これが主な概要だ、わかったか?」
「は、はい!」
成る程…字は日本と同じなのか、それは安心だ。
「よし、じゃあ後は…っと…七日間にどれだけ行けんだ?」
「え?えっと…だ、大体行けるよ?」
何故疑問系なのだ…まぁいい、もう少し話を進めよう。
「分かった、それと、行けないときは要件を教えてくれ、言いたくなければそれで構わん、何せタダ働きだからな。」
「わかりました。」
「じゃあ最後に名前を聞かせてくれ、名札を作りたい。」
「あぁ…?えぇっとぉ…マリア!私マリアって言うの!」
この戸惑い方…名前を知られちゃいけないことでもあるのか?いや良い、人の事情を知って得することなんて一つもない。
「残るのは調査した虚しさと後悔だけだからなぁ…」
「え?」
「いや、何でもないよ安心してくれ、それよりもマリア、ここの営業は十時から始まるからな、しっかり準備をしてから来なさい、まぁ明日必要なものと言うと特に無いがね。」
マリアは『分かりました、よろしくお願いします!』と元気な声でお礼をされ、店を出ていった。
「さて…と、頑張りますかぁ」
そう意気込む午前十二時、店長は椅子で背伸びをして意気込んだ。