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エルフとエルフィアン


「――何、それ欲しいの?」


 エルダが若干の気持ち悪さを顔に出しながら言った。それでも一応は声をかけてくれるのは、彼女なりの優しさなのだろうか。そう思いたい。


「あ、ああ」

「そんな不気味な物を欲しがるなんて変わった趣味ね……欲しいなら、どうぞ。あげるわ」

「あ、ありがとう。もらうよ」

「……本当に貰うのね」


 その小声! 蔑みと共に小声! やめて!

 まあ、俺のような奴がいたら、なんだこいつとは俺も思うだろし、いいさ。

 どういう力が詰まった仮面なんだろうか。正直、不安もある。知識の仮面をつけたとき、相当な衝撃だった。また同じようなことになると思うと、抵抗がある。

 剣士の仮面のような反応であれば、身体的には問題ないんだが。衝撃はあっても痛みはないかな。

 今すぐつけようかとも思ったがやめておく。剣士の仮面のように変質したら問題だ。あんな姿をエルダに見せるわけにはいかない。余計に変な奴だと思われるだろう。

 いや、なんでエルダの心証を気にしているんだ俺は。別に気にしないでもいいだろう。

 なんてことを考えていると、視界に何かが見えた。

 村人達が家の中から次々と出てきたのだ。魔物が倒されたことに気づいたのだろう。

 しわくちゃの顔の老人が奥まった場所からこちらへ歩いてきた。威厳を感じる。村長的な人だろうか。

 村長らしき人物がエルダのもとまで移動した。そのまま何か話すのだろうと思ったのだが、なぜかエルダを素通りして、俺の眼前で立ち止まった。

 あまりに想像していなかった反応に俺は狼狽する。

 村人達が集まって、なぜかエルダではなく俺を囲った。


「あなたは冒険者殿ですな! いやはやありがたい。魔物を倒してくださって!」

「は? え、え? な、なに?」

「ありがとう、冒険者様!」

「本当に助かりました。ありがとうございます!」


 俺の手を握り、ぶんぶんと振る村長。

 村人達も俺を称賛し、嬉しそうに顔をくしゃっと歪め、家族達と喜び合った。

 魔物を屠ったエルダは離れた場所でぽつんと立ち尽くしている。

 なんだ。なんなんだこれ?

 意味がわからない。どう見ても俺じゃないだろ。こんな普通の、というか周りから見たら浮いている服装をしている貧相な身体の俺が、武器も持たない俺が、あんな魔物を倒せるはずがないだろう。まあ森の中では倒したけど。

 それはそれとして、だ。

 エルダを見れば戦いの術を持っていることは明白だ。どう見ても彼女が立役者であるのに、どうして俺が魔物を倒したと思える?


「ち、違う! 俺じゃない! 彼女だ! 彼女が倒したんだ!」


 俺は必死に否定して、エルダを指差した。

 するとエルダは信じられないといった顔を俺に向けてきた。

 なんだよ、その反応。どうして当の本人がそんな反応をするんだよ。


「ははは、ご冗談を。汚らわしいエルフがそんなことをするはずがありませんぞ!」


 柔和な表情なのに、目の奥は笑っていない。濁った、ほの暗い感情がそこにはあった。

 村長だけではない。他の人間も同じようにエルダの存在を無視している。

 俺は背筋が凍った。人間の暗い感情を垣間見た気がした。

 耳の長い人のことをエルフというのか?

 そしてエルフは……この村の人達に嫌われている?

 いや嫌いなんて軽いものじゃない。嫌悪、差別。そんなレベルの対応だ。

 再びエルダを見た。彼女は俺と目が合うとすぐに視線を落とした。無表情のまま佇んでいたが、やがて俺達に背を向けて、どこかへ行こうとする。

 理由はわからない。もしかしたら何か深い理由があるのかもしれない。事情を知らない俺が簡単に批判するのも無責任だと思う。

 でも彼女は俺を助けてくれた。

 変な奴だと言いながらも、質問には答えてくれた。

 だから放っておけなかった。


「俺はエルフがどういう風に見られているか知りませんが、エルダは、彼女は優しいと思います。俺を助けてくれたので」


 俺が言うと、エルダはピタリと足を止めた。

 村人達は笑顔を凍らせて徐々に表情を変化させる。鬼の形相。どうすればそこまで誰かを憎むことができるのかと思うほどの、負の感情が俺へと向けられた。


「貴様、エルフィアンか!」

「とっとと、この村から出ていけ!」


 人生で感じたことがない、濃厚な憤り。恐ろしさと同時に俺は悲しさを感じた。

 村人達が俺達を糾弾し始める。何も悪さはしていないのに、一方的になじられ続けた。


「エルフに与する者は敵だ!」

「そうだ! 敵だ!」


 この場にいるのは危険だ。今にも武器を持ち出して、俺を殺しそうだ。

 血走った目を俺に向ける村人達から逃れるように、俺はエルダの下へと走る。


「い、行こう」

「え? あ、ちょっと」


 俺はエルダの手を引き、村を離れた。

 後ろからはずっと俺達への罵詈雑言が投げつけられていた。

 批判されたり、否定されることには慣れている。

 別段、何か不幸な目に遭ってきたわけじゃない。どこかで生きるということは、そういうことなんだと俺は知っている。だからこそ思うんだ。正しいことをした誰かを否定しちゃいけないって。

 例え、それが世界中から嫌われている人でも、その人が為したことはなくならない。優しくされた、助けられた、だからその人を信用して、何かあったら助けたい。そう思うことは人間として当たり前で、そんな心をなくしてしまったら、それはもう人じゃないと思う。

 エルフがあれほどに嫌われている理由はわからない。

 もしかしたら村人達の反応が自然で、正しいのかもしれない。

 でも俺は後悔しない。俺の行動は、俺だけは正しいって思わないといけない。

 戸惑った表情で俺に手を引かれているエルダを見て、俺はそう思った。

 

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