92 援軍
リリアンを倒した蓮と氷華は、ボロボロの体ながらに安堵感を感じていた。
そして、氷華は檻に囚われていた一般人を解放し、蓮は何とか起き上がる。
あとはこの地下鉄構内から出る……それだけのはずだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コツ……。
一般人達の喜びの声以外にも、構内から聞こえる不穏な音があった。
硬い足で床を歩く音に、ガルル、という獣の唸り声だ。
一般人達はそれに気づかずに手を取り合って喜んでいるが、蓮と氷華は違う。
二人は構内の奥深くに視線を向けると苦い顔をしながら互いに確認しあった。
「氷華!」
「うん。分かってる」
「……」
二人は奥深くを見つめたまま微動だにしない。
迫り来る脅威を感じ取っている。
もちろん。通常時なら多少は強い化け物とも渡り合えるであろう。
しかし、現在の二人はリリアンとの戦闘でボロボロである。
氷華は自身の武器である剣が折られ、蓮はスキルを発動する事が出来るのか怪しい。
そんな満身創痍の二人は一般人に向かって叫んだ。
「「逃げろ! 出口へ向かって走れ!!」」
合わせてもないのに綺麗に重なった二人の声は、一般人達の耳にも入った。
彼らはキョトンとした表情で二人を見つめて、その場に立ち尽くしている。
状況が理解できていないようだ。
「え? どういうことですか。化け物はもう倒して……」
一般人の一人がそう尋ねようとした、その時だった。
構内奥深くから聞こえていた足音と唸り声が、ハッキリと聞こえるようになったのだ。
猛スピードでこちらに向かってくる複数の足音……その正体はすぐに分かる。
「「ワオオオオン!!!」」
雄叫びを聞いた一般人達は、一目散に出口へ向かって走っていった。
「に……逃げろぉおおおおお!」
逃げ惑う民衆をエサのように見つめ、ヨダレを垂れ流す正体。
雄叫びをあげながら、姿を現したのは五匹程のケルベロスである。
三つの顔を持ち、強靭な牙を有している。
リリアンと戦闘する前に殲滅したモンスターであった。その際はスキルを発動させて軽々と倒した蓮であったが、今回は違う。
苦い顔のまま氷華の方向を見た。
「戦えんのか?……」
「それはこっちのセリフよ。蓮は私よりボロボロじゃないの」
「それもそうだな。まぁ、スキルは使えないが足止めくらいは出来るだろう」
「ムチャしないでよ」
氷華の言葉に蓮は少し微笑んでこう答えた。
「ムチャしないと、止められねえだろ!」
(俺の体はこれ以上、スキルに耐えられないだろうな。でも……)
蓮が目を瞑ってスキルを発動しようとしたその時。
後ろから聞き覚えのある声がしたのだ。懐かしいその声。つい先刻まで互いに争いあっていた男の声である。
「フッ。貴様、苦戦しているのか?」
「その声は……」
そう。キザな口調に、漂う冷気……後ろから現れたのは遅れてやってきた西園寺だったのである。
「どういう状況かよく分からないが、助太刀しよう!」




