89 決死の覚悟
皇女リリアンの攻撃は続く、一撃一撃が重い上に速い。
足と拳を自在に繋げて連撃を行ってくる……。
ダンフォールさんはもう……限界だ――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「アハハ! かつて奴隷王と呼ばれたダンフォールが、こんなものなの?」
「うるさいわい」
ダンフォールはリリアンを睨みつけて、攻撃を捌いているが所々綻びが出てきた。
数回に一回はリリアンの攻撃が届いてしまっている。
肩に足、それに横腹……致命傷は避けれているが、ダンフォールの限界は目に見えていた。
「はぁ……はぁ……」
「息が上がってきたんじゃないの?」
「大丈夫じゃよ」
「ふぅん。なら、ちょっと本気だすわよ」
リリアンはそう言うと攻撃対象を変えてきた。
俺の体ではなく、防御している腕に対して蹴りを当ててきたのだ。
ガッ、と鈍い音が響き、俺の腕は弾かれてしまった。
「なんじゃと?」
「ほんと、衰えたわね」
「くっ……」
防御する肩腕が弾かれてしまった事によって、腹部がガラ空きになってしまった。
このまま放置すれば確実にリリアンの一撃が入る。
(ヤバい……)
俺はこの時、初めて身の危険を感じた。
リリアンに本気を出される前に、油断しきった瞬間に、勝負を決めたかったがその前に俺が意識を失っては意味がない。
だが、遅かった。
「じゃあね。ダンフォール」
【ゴッ……】
鈍い音が構内に響く。
リリアンの掌底が腹部に直撃したのだ。後ろに数メートル吹き飛ばされると、ダンフォールは床に叩きつけられた。
まるで人形のように力なく飛ばされた瞬間を見て、氷華や囚われた一般人達は息を飲んでいる。
もう驚きの声を出すほどの力も残っていないようだ。
ただ、彼らは倒れた俺と笑うリリアンを見つめている。
ただ、呆然と見つめている。
「アハハ! まさか、こんなに弱くなっちゃってるなんてね。昔だったら今の攻撃もはね返せたでしょうに」
「……」
「もう、減らず口も叩けないのね」
「……」
ダンフォールは床に仰向けのまま目を瞑っている。意識を失っているようだ。
もちろんHPは0になっていないが、体がもたない。
沈黙……そんな中で足音が聞こえた。
涙を拭って駆けつけるのは氷華だ。俺に駆け寄ると膝を地面につけて抱きついてきた。
「蓮! ごめんなさい。私がもっと早くリリアンを攻撃していれば……」
「折れた剣で攻撃したとしても無駄よ」
リリアンの冷たい言葉に反応して氷華はリリアンを睨みつけた。
そして、ゆっくりと立ち上がって折れた剣を上段に構えた。涙を一筋流しながら。
「約束は守るよ……蓮……」
氷華は一呼吸置いた後、剣を上段に構えたままリリアンに走っていった。
蓮との約束を守る為に……化け物に抗う為に……。




