83 麗しの皇女
職業【王】でしかダメージを与えられない強敵、リリアン。
スキルを使い攻撃系の能力値を限界まで上げても、攻撃の通じないリリアンを相手に苦戦する蓮であったが、【キング】である氷華が現れた事によって情況が一変する。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ここからが反撃だ――。
俺の力強い声が氷華とリリアンに届いたようだ。氷華の表情は少し明るくなり、リリアンは逆に曇った。
「蓮。なるほどね、こうすればあの化け物相手でも戦えるね」
「うん、氷華。二人で力を合わせれば……」
俺が一呼吸おいて言葉を途切らせると、氷華がともに声を出した。
静かに、そして力強く目を見開いて。
「「戦える」」
俺たちの真っ直ぐな瞳はリリアンを見つめていた。
その瞳に映るリリアンの顔は少し歪んでいる。俺の力と氷華の職業、この二つが重なる脅威を感じているのだろう。
歪んだ口元のまま笑い出したリリアンは、不安を誤魔化すかのように大きな声で威嚇する。
「お前らザコどもが力を合わせても無駄だよ! 大人しく死ね」
この時はまだ、リリアンの足を剣で受け止めている情況だ。
少しずつその足に力を込めてくるのが分かる。
大きな声で吠えた後、リリアンが本気を出したのだ。赤く輝くリリアンの瞳がさらに真っ赤に染まっていく。
まるでルビー、宝石のようだ。
その殺気に触れたのか、氷華が不安な声を出した。
「ちょっと蓮。大丈夫なの?……」
「安心してくれ」
「これからどうするつもり?」
「氷華が剣を自由に動かしてくれ、俺がその度に剣の持ち手に触れて補助する」
「え、そんな無茶苦茶な……」
「大丈夫だ。今の俺には氷華の動きは止まって見えるから、リリアンの動きはギリギリだけどな」
氷華は俺の発言に半信半疑のようだ。
しかし、曇った表情のまま剣の持ち手に力を入れて、リリアンの足を押し出した。
そこに俺の力を加える……。
【ガキィィン!!!】
「なんだと?!」
リリアンの足が足が押し出され、後退せざるを得なくなった。リリアンを後ろに引かせたのはこれが初めてだ。
氷華の表情が明るくなったほどだ。
「蓮。これなら勝てるかもしれないね」
先程までの絶望に満ちた表情とは大違いである。口元が緩んでいる。
しかし、それは長くは続かなかった。
少し距離を取ったリリアンの様子がおかしくなったからだ。
リリアンは先程までに見せた下品な笑いではなく、真顔であった。幼い表情ではなく、どこか大人びた様子で。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん。二人の力を合わせるなんてずるいよ」
「何言ってるんだリリアン。お前の能力の方がずるいだろうが! 自衛官もこんなに殺しやがって」
「黙ってよお兄ちゃん。それはおじちゃん達が弱すぎただけでしょ」
「なんだと?……」
「まぁ、いいや。お兄ちゃんとお姉ちゃんが本気を出すなら、私も本気を出そうかな」
真顔のリリアンは少し顔を傾けると、それと同時に自身の身体を両手で抱きしめた。
そして、ニッコリと笑ってこう言ったのだ。
「成人の儀」
そう唱えると、幼い体のリリアンを深淵の闇が包んだ。どうやら魔法のようである。
その闇は徐々に大きくなり、成人女性ほどの身丈に広がるとゆっくりと消えていった。
そして、そこにいたのは成長した姿のリリアンだったのだ。
真っ黒なドレスを纏ったリリアンは丁寧にお辞儀をして、俺たちの方を見て微笑んだ。




