81 王様と皇女
「今は手を貸してくれ……氷華」
俺と石黒大将で止める事が出来なかったリリアン。
しかし、その少女の突進を全身鎧の氷華はいとも容易く防いだ。
大剣で彼女の進路を塞ぎ、全力で足止めをしている。
「分かったわ蓮。確かにこの女の子……おかしなステータス
ね」
「あ……ありがとう」
氷華の言葉に、正直俺は驚いたよ。
自衛官が傷つき倒れ、多数の一般人が牢に閉じ込められ泣き叫ぶ状況。
そんな中でも、彼女は逃げ出さずに俺と戦う事を選んでくれたんだ。
俺は嬉しくて思わず微笑んでしまった。
やっぱり氷華は変わらないな……どんなに困難な状況でも諦めず立ち向かう。
彼女のその姿勢は、俺と出会った幼稚園の頃から何も変わらない。
俺とは正反対だ。
常に色んな出来事から逃げてきた……俺とはな。
「ちょっと蓮! 早く手を貸して!!」
「え?……」
俺が昔の事を思い出していた時に、氷華の声が構内に鳴り響いたんだ。
何か緊迫感を感じさせるような勢いのある声。
俺は、すぐに彼女の方向を向いたよ。
すると……リリアンが氷華の大剣を素手で掴んでゆっくりと動かしていたんだ。外側に向けてね。
もちろん氷華も、両手を使って対抗しているが力負けしている。
グググ……。
「なんで私の事、無視するの?」
「はっ! その手を止めてくれたら会話してあげるのに」
グググ……。
「じゃあ無視してもいいや。あっ……お姉ちゃんって、やっぱり王なんだ」
「なんで分かるのよ……」
「私に触れるなんて、王以外ありえないから」
「えっ……」
「私に触れられるのは、王様だけなんだよぉおおお!」
ガッ!!
大剣が宙を舞う……。
遂に氷華が耐えられなくなった。大剣が完全に外側へと押し出されたのだ。
「嘘でしょ」
「氷華! 避けろ!!」
驚く氷華と叫ぶ俺。
緊迫した声の中で、リリアンはジャンプしながら体を回転させる。
いつも通りに蹴りを入れるつもりなのだろう。
彼女は悪魔のような笑みを浮かべながら、右足を氷華にぶつけようとした。
俺も止めようと彼女達の方向に手を伸ばす。
でも、ダメだ……。
――間に合わない。
俺が顔を歪めても、何も変わらなかった。
リリアンの右足は無慈悲にも氷華の頭に、横一線……強烈に叩き込まれる。
ドガッ!……。
嫌な音が鳴り響く。
しかし……。
カンッ……カンッ……。
リリアンの右足は彼女の頭を捉えたわけでは無かった。
氷華の兜部分の装備を巻き込んだだけだったのだ……そう、彼女は咄嗟に後ろに座り込んでいたのである。
「ハァハァハァ……」
兜が吹き飛ばされた氷華。
そこには、いつもの冷静沈着な表情などない。恐怖で引きつった素顔が露わになった。
「氷華……大丈夫か?……」
氷華が怯えているところを、俺は見た事が無かったんだ。俺は……いつも彼女の笑顔に助けられてきたからね。
だから、彼女の怯えている姿を見て何て言えばいいか分からなかったんだ。
でも大丈夫。氷華が現れた事によって、絶望は希望に変わった。
今度は俺が彼女を安心させる番だ……。さっきから見ていて思ったんだよ。
俺と氷華が力を合わせれば、リリアンに必ず勝てるって。
あの方法を使えば……。




