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79 効かない

 

 ボッ……ボッ……ボッ……。



 天井からゆっくりと落ちる火の粒……それは、全方向からリリアンという少女に向かって襲いかかった。

 そこには逃げ場などない。

 少女の近くにいた俺も巻き込まれそうになる程だ。



「少女から離れろ……巻き込まれるぞ!」



 石黒大将が警告を発する。

 しかし、俺はその場から一歩も動かなかった。

 ただじっと、炎に包まれる少女を見つめていたんだ。赤く広がる炎の海を。



 まぁ、俺もその炎の波に巻き込まれていたんだけどね。

 涼しい顔をしながら……だけどさ。



 ゴォォォオオ……



 火の魔法か……。

 俺には関係ないけどな。スキルで防御値を1000万まで吊り上げているんだから。

 この程度の魔法なら問題ない。



 そう思いながら俺は、腕を組んで前を向く。

 目に入るのは、燃え盛る炎と絶え間なく少女に降り注ぐ火の粒。

 俺はそれらを黙って見ていたんだ。



「ハハ……」



 すると炎の中から少女の笑い声が聞こえてきた。

 彼女は業火に包まれても、全く熱さを感じていないようだ。軽い調子の言葉が地下鉄内を響く。



「ハハハハハ! 面白いスキルだね。まさか私に攻撃を当てちゃうなんてさ」



 先ほどと変わらない口調。

 それを聞いて俺は炎に向かって話しかけた。

 正直、この程度の攻撃で彼女を倒せるとは思っていない。俺は驚かずに淡々とリリアンに尋ねたんだ。



「お前……攻撃が効いていないのか?」

「そうよ。火遊びには、ちょうどいいかもしれないけど」


「これが火遊びか……」

「それはお兄ちゃんも同じでしょ? 平気な顔しちゃってさ」


「ん? なぜ俺が火の中にいると分かる……」

「ハハ。だってさ……」



 ――目の前にいるじゃん。



 少女の言葉の後、目の前にある炎の壁から黒い影が勢いよく炎を割って姿を現したんだ。



 ボォッ……。



 俺の目の前から現れたのは、悪魔のように微笑むリリアンの姿。

 そして、彼女はジャンプをすると俺の首元を掴もうと手を伸ばしてきたんだ。



「ハハ! お兄ちゃんが声を出してくれたから、すぐに場所が分かったよ。さっきから邪〜魔! おじさん達を殺してから相手してあげようと思ったのに」

「……俺が黙って見てるとでも思ってるのかよ」


「うぅん……そんな事思ってないから」



 俺の首を掴みながら、顔を近づけるリリアン。

 その表情は大きく口角を吊り上げ、目を見開いたまま俺をしっかりと見つめている。

 彼女はそのまま、俺の口元で近づくと(ささや)いた。



「……だから、先に相手してあげる」

「ふっ……やってみろよ」



 俺が少女を(にら)み付けると、彼女は微笑みながら俺の首を力強く絞めてきたんだ。

 そして、すぐに目を大きく見開き少女は叫んだ。



「面白いなぁぁああああ!」

「……化け物め」



 スキルで防御値を大幅に上げている俺にとって、彼女の首締め攻撃は大した脅威ではない。

 でも、彼女の狂気に溢れる姿を見ていると自然に顔がこわばるんだ。



 それに……やっぱりだ。

 俺は彼女に触れる事すら出来ない。彼女の腕を掴もうとしても通り抜けてしまう。



「お兄ちゃん。そんな事しても無駄だよ」

「俺をこれからどうするつもりだ?」


「ハハ! 今から教えてあげるよ!!」



 ガッ! ガッ! ガッ!



 その言葉の後、俺は猛スピードで後ろに押し出された。

 リリアンは両手で俺の首を絞めながら改札口の方向……つまり、自衛官と反対の方向へと突き進み始めたんだ。



 でも待てよ。これっておかしくないか?

 彼女は、俺の首を絞めながら動いている……と言う事は、身長的に彼女の足は床についていないはずなんだ。

 それなのに俺を押し出している。



 ガッ! ガッ! ガッ!



 先程から聞こえるこの音。

 恐らく彼女は、空気を蹴って前に進んでいるのだろうか。炎の圧を背中で感じ取ることが出来る。



 ボァァア!



 そうこう考えている間に、俺達は炎の海から飛び出てしまった。

 俺の目に写るのは、激しく燃え盛る炎によって断絶された通路と、少女を追いかける大量の火の玉だ。


 

 自衛官達がどうなってるのか見えねぇ……。

 最初の地点からどんどん離れていく……どんどん改札口まで近づいていくようだ。



 俺が顔をしかめていると、少女が舌を出しながら挑発してきた。



「お兄ちゃん。観客が居なくなって寂しい?」

「観客……だと……」


「うん! 今から呼んであげるからね!」

「…………」



 彼女の奇妙な笑顔は俺を無口にさせた。

 口元は笑っているが、目の奥は何も笑っていないんだ。冷酷な目にしか見えない。

 俺は嫌な予感がした。



「ここでいいかな?」



 ドガァ!!



 彼女はそう呟くと、俺を床に勢いよく叩きつけた。

 猛スピードの勢いそのままで頭から叩きつけられたので、流石に意識が飛びそうだったよ。



 何だこれ……。めちゃめちゃ痛いじゃないか。

 何でだ?

 防御値に1000万割り振っても足りないのかよ。



「どうなってんだよ一体……」

「ハハ! 痛そうだね」


「…………」

「無視か……。ねぇ……お兄ちゃん」



 いつまでも床で寝ているわけにはいかない。

 俺は彼女を睨みつけながら、頭を押さえつつ何とか起き上がろうとしたんだ。

 すると、そんな俺に向かって彼女は先程の会話を続けだした。



「お兄ちゃん達ってさ、ここにいる人間達を探しにきたんだよね?」

「それがどうした。もう生きている人間はいないって言いたいのかよ」


「うぅん。違うよ……」



 彼女は真顔のまま顔を傾けて、俺をただじっと見つめてたんだ。まるで感情の無い人形のように。



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