78 一分の一
――守り神の力……見せてやろうかの……
石黒大将は少女を睨みつけていた。
その表情はまさに鬼。怒りの感情が外に漏れ出ているような光景である。
それを冷ややかな目で見つめるのは、リリアンという少女であった。
少女は俺から目を逸らし、石黒の方を見つめる。
「守り神って……あなた達はただの人間でしょ? 人間はやがて老いて朽ちる……それだけの存在じゃない」
「違うぞ。お主は何も分かっていない」
「ははは。何が違うの? ほら。人間はこんなに脆い。守り神なんて冗談でしょ」
グググッ………。
少女の腕が、自衛官の腹部に近づいていき……。
「…………ガハッ……」
ゆっくり貫通していく。
俺はそれを止められなかったんだ。少女の体に触れようとしてもすり抜けて、何も掴めない。
まるで空気に触れているみたいな……そんな感覚だった。
彼女に貫かれた自衛官はグッタリとして動かなくなる。
そして、徐々に体が薄くなっていくんだ。HPが0になったんだろう。
「全く……。人間なんてこんなものよ……。脆くて弱い。こんなんじゃ何も出来ないよ?」
少女は消えていく自衛官を、どこか悲しそうな表情で見つめていた。
それとほぼ同時に、残った隊員達が掌を一斉に石黒へ向け、言葉を発した。
「「転移魔法……」」
この魔法は俺が以前、火憐にかけてもらった魔法だ。
術者のMPを、任意に選択した相手に移譲する事が出来る魔法。
隊員達は石黒の命令通りにMPを移譲するつもりなのだろう。
すると彼らの掌が輝き出し、石黒大将の口元が緩んだ。
これでMPの移譲が完了したという事なのだ。
「最後の悪あがきかな? まぁ……足掻いてみせてよ」
その光景を少女は、腕を組みながら見ている。
俺はそんな少女を見つめる事しか出来なかったんだ。触れようとしても何も掴めない。
体ごと前に進んでも、少女の体全体を通り抜けてしまうからだり
「リリアン。お前、どうなってんだよ」
「あ! やっと名前で呼んでくれたねお兄ちゃん」
少女は、俺を不気味な笑顔で見つめてくる。
そんは少女はある異変に気付いたようだ。
「あれ? 暑くなった?」
少女の言う通り。確かに暑くなっているような気はしていた。
すると、石黒大将が少女を見つめて言葉を発したんだ。
「上を見ろ」
俺と少女が天井に顔を向けると、一面炎に埋め尽くされていた……このフロア全ての天井が赤く燃えている。
俺らが呆然と上を見て、立ち尽くしていた時に石黒大将は小さく呟いた。
「いくぞ……魔法・炎雨……」
ボボボ……。
天井に溜まっていた炎の粒が徐々に落ちてゆく。
まるで雨のようだ。
しかし、迫り来る炎を目の当たりにしても、少女は涼しい顔で石黒をあざ笑っている。
「馬鹿じゃないの? こんな広範囲の攻撃……味方まで巻き込むわよ」
「それなら心配に及ばんよ。儂のスキル……一分の一があるからな」
「一分の一?」
「あぁそうじゃ……」
続けて石黒を言葉を続けた。
これまで見た事のないような冷たい表情で、振りかざした腕を振り下ろしながら。
――攻撃の命中率は常に100%。先程のように通り抜けるかのぅ?
ボボボボボボ!!!
石黒の動きに反応し、加速した炎の雨が少女を襲う。




