77 皇女戦開始
パパパパパパパパパパ!
耳障りな銃撃音が地下鉄構内に響き渡る。
しかし、人の悲鳴も血しぶきが上がる音も聞こえない……聞こえるのは、自衛官達の困惑する声のみだった。
■□■□■□■
「い……石黒大将! これからどうしますか!」
俺が脇腹を抑えている間、自衛官の一人が石黒大将の判断を仰いでいる。
リリアンという少女が刻一刻と前に進んでいるのからだ。
少女は、その状況を楽しんでいるように見える。
両手を広げながら自衛官達と会話をしていた。
「おじさん達。いつまでもそのオモチャに頼ってないで、肉弾戦しましょうよ」
「黙れ! ふざけたステータスしやがって!」
「私のステータス見えたの? へぇ。もうそんな位置まで近づけたんだぁ」
「あぁ。バッチリ見えてるさ!」
「でも、あなた達ほんとうに逃げ出さないんだね」
「言っただろ……俺らは守り神。何としても国民を守らなきゃならねぇ! お前みたいな奴はここで食い止める!」
「「おおっ!」」
自衛官一人のセリフに、他の隊員も同調する。
それを白けた顔で眺めていたのは少女であった。
「元気だね〜。じゃあ、もうそろそろ本気を出させてもらおうかな?」
コツ……。
少女は銃弾の中、目を瞑り静かに立ち止まった。
階段側からくる吹き抜ける風が、彼女の金色の髪をたなびかせる。
そして……。
「じゃあ、まずは、そのおじさんから行こうかな」
少女は、目をゆっくり開けると真ん中の自衛官を指差した。ニッコリとした笑顔で。
バッ……!
「ふふっ。こんにちは」
すると急に、指を指された自衛官の目の前に少女が移動してきたのだ。
「「え?……」」
パパパパ……パ……
自衛官達全員の視線が、真ん中の少女へと集まる。この時に彼等は銃撃するのを諦めてしまった。
もう無駄だと悟ったのだろう。
その視線の先にいる少女は、笑顔のままゆっくりと手を自衛官の腹に近づける。
ゆっくり……ゆっくりと……。
少女の手が自衛官の腹に触れそうになる、その時。
黒い影が少女に迫っていた。
………俺は、スキルを発動したんだ。
【ALL CHANGE発動します】
【HPから防御値へ1000万ずつ移動します】
何とか間に合った……少女に迫り来る黒い影……それは。
――俺だ。
「やめろよ……これ以上殺すな……」
俺は少女の背中まで飛んで、勢いよく脇腹を殴ってやろうと思った。さっきのお返しだ。
力を込めて右拳を振り抜く……。
しかし……。
スカッ。
右拳は少女を通り抜けた。彼女の髪にすら触れることが出来ていない。
驚く俺……それを見る彼女は、微笑んでいる。
「お兄ちゃん。バカなの? 私に物質攻撃は効かないから」
そう言うと少女は、俺の横腹に回転蹴りを食らわせてきたんだ。
勢いよく……俺の腹に命中したよ。
でもね。もうあまり効かないんだ……。
スキルを発動しているから。
ガッ!
鈍い音が鳴り響く。
それを聞いた少女は驚いた顔をしていたよ。
何で吹き飛ばないんだ? って顔でさ。
「お兄ちゃん。何したの?」
「さぁね」
「ふ〜ん。でもさ、どうするの? 私はお兄ちゃんを倒せないみたいだし……お兄ちゃんは私を倒せないよ……」
「攻めは、守り神にお願いするさ」
「え? あのザコ達に任せる気!?」
「あぁ。そうだ!」
「ハハハハハ! 人間って本当に面白いなぁ!」
嘲笑う少女……俺は、その先にいる石黒大将を見つめていた。
すると、彼は地面に向けた顔をゆっくりと上げて、部下達に指令を下したんだ。
「総員! 儂にMPを!」
「「イエッサー!」」
隊員達の返事を聞いて、石黒大将は微笑む。
しかし、その表情はどこか寂しげだったんだ。恐らく、先程殺された自衛官を思っていたんだろう。
そんな石黒大将は、少女を睨みつけながら呟いた。
――守り神の力……見せてやろうかの……。




