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75 スローモーション

 

 自衛官達が苦戦したケルベロス……。

 それを、いとも簡単に討伐した少年を見て彼等は驚いていた。



 何しろその少年の職業が【奴隷(スレイヴ)】だと言うのだから、信じられないだろう。




 ■□■□■□■□■




「え?……」



 顔をしかめる自衛官達。



 俺が【奴隷(スレイヴ)】だって、正直に話したらさ。

 自衛官達は口を開けて驚いていたよ……嘘だろ?、って表情だった。



 でも、しょうがないだろうけどね。

 奴隷(スレイヴ)は最弱……これが常識なんだから。



 驚きを隠せない自衛官が、何度も確認してきたほどだ。



「ほ……本当に奴隷(スレイヴ)なのか?」

「はい。そうですけど」



 俺は、その確認に対して笑顔で答える。

 何度も確認されるのは正直良い気分ではない。

 けど、そんな事で一々腹を立てていてはこの先やっていけないからな。



 それに、まだ安心できる状況じゃないんだ。

 ケルベロスが数匹残っている。



 実際、俺の後ろからはケルベロス(あいつら)の声がまだ聞こえているんだ。

 先程よりも大きい(うな)り声……仲間を殺され、荒ぶっているのだろう。



 そう思っていると自衛官の一人が、後ろを指差して叫んだ。



「危ない! ケルベロスが走ってきたぞ!」

「ガルルルルルル!」



 ダッダッダッダッ!!!



 確かに……こちらに向かってきているのだろう。

 足音が聞こえる……。でもそんな事、俺にとってはどうでもいいんだ。

 どうせ、噛み付かれても痛くも何ともないのだから。



「少年ッ! 避けろ!」



 声を荒げる自衛官。みるみるうちに顔が険しくなっていく。

 しかし俺は動かなかった。



 待っていたんだ。

 向こうからこちらに来るのを……そして……。



「ガルルルルルル!」



 俺の耳元で呻き声が聞こえた後、ケルベロスの牙が肩に突き刺さろうとしているのが少し見えた。



 まぁ……こんなの効かないけどね。



 パキパキッ……。




 やっぱり、俺の予想通りケルベロスの歯は飴細工のように粉々に砕けた。

 俺が振り向くと、ケルベロスはその赤い目を大きく開けたまま空中で固まっている。



「じゃあな……ケルベロス……」



 パッ……。



 俺は、拳でケルベロスを貫いた。貫かれたケルベロスは一瞬のうちに消える。

 さっきと同じだ。いや、今回は足に力を入れてないので床に穴が空いていないな。



 攻撃していて思ったんだが、力を入れる必要がないらしい。

 少し拳を当てるだけで、化け物は消失しそうだ。




「おい……嘘だろ?……」



 消え去るケルベロス……それを見ている自衛官の声だ。



 目の前にいる少年には、ケルベロスの牙も効かず……一瞬で化け物を葬り去っている。

 そんな光景を見た自衛官は困惑の表情を浮かべていた。



 小さな声で呟いているのが聞こえる。



「あれは、魔法か?」



 彼等は魔法だと思っているようだ。でも、すまないな。俺には魔法なんて使えない。



 しかし、俺は誤解を解くよりもまず、残ったケルベロスの討伐を優先させた。

 あと数匹しか残っていないんだ。どこかに逃げられるよりも今片付けたい。



 コツコツコツ……。



 俺はケルベロスに向かって歩き出した。

 ゆっくり……ゆっくりと……要するにケルベロスに襲いかかって欲しいんだ。

 そうした方が穴を増やさなくて済むしな。



 (りき)んで床を蹴ったら、このエリア自体が地下に沈みかねない。

 ただでさえ穴だらけだっていうのに。



 コツコツコツ……。



「どうした? かかってこないのか?」

「ガルルルルルル!」



 俺は歩きながらケルベロスを挑発する。

 腕を組み、ニヤつかせるその表情は、(はた)から見れば異常者かもしれない。



 しかし、俺にとってケルベロスは最早(もはや)化け物でも何でもない。

 (こぶし)に触れれば消えてしまう、(はかな)い存在なのだ。



 まぁ……今の俺の攻撃値は1000万以上あるのだから、当たり前の感情なのかもしれないが。



「ガルルルルルル!」

 ダッダッダッダッダッ……。



 そう思っていると、ついにケルベロス達が襲ってきた。

 一斉にだ。

 でも、能力を上げたお(かげ)か、化け物の動きがスローモーションに見える。



 遅い……遅すぎる……これじゃ、止まっているのと同じじゃないか。



 俺は歩きながら拳を当てていった。力を込めて貫く必要なんてない。



 パッ……。パッ……。パッ…。



 拳に触れるたび……ケルベロスが消えていく……。

 最初からそこには何もなかったかのように、俺が歩いた跡には何も残らない。



 そして………。



 コツ………。



 俺が立ち止まる時には、ケルベロスは一匹たりとも残っていなかった。

 もう終わりか……。俺はどこか物足りなさを感じつつも、体を回転させる。

 自衛官達の元へ戻るために。



 振り向くと自衛官は各々(おのおの)、独り言を呟いていた。

 その一つを聞いてみると、どうやら彼等には俺の動きが見えなかったらしい。




「何が起きていた? あの少年が歩くと、化け物が一瞬で消える……」



 自衛官達は口を開け、また固まっていた。

 状況を理解できていない……そういったように見える。しかし、俺も状況が理解できていないんだ。



 驚いているところ悪いが、自衛官達に質問させてもらったよ。

 何であなた達がここに来たのかって。



「あの……すみません。ちょっといいですか?」

「…………ん、質問かな?」



「はい……。何で突入してきたんですか? 俺は石黒大将から、二人でここを制圧するって聞いてましたけど」

「え……? 私達はそんな事聞いてないぞ……」



 首を傾げる自衛官……。いや、首を傾げたいのは、こっちだよ。

 何で連絡がうまくいってないんだ……。



 俺が呆れた顔でボーッとしていると、一つの疑問が湧いてきた。

 あっ……そういえば……。



「石黒大将はどこにいるんですか? 銃撃を始める前に注意してたの俺だけだったじゃないですか」

「あぁ……大将なら、ほら。あそこにいるけど」



 自衛官が指をさすのは、改札口近くの柱だ。

 でも、そこに石黒大将はいない……ん?……。

 いや……柱のネズミ色より少し明るい箇所がある。



 俺が柱を眺めていると、自衛官がその方向に向かって大声で叫んだ。



「大将〜! こっち終わったんで、早くきてください!」

「分かった! 今いくぞ!」



 柱から聞こえる大将の声……もしかして、石黒大将のスキルって柱になるスキルなのか?

 俺は腕を組んでジッと見ていた。



 だが、もちろんそんなスキルは無い。

 しばらくすると分かったよ。石黒大将は盾を構えていたんだ。



 自らの体を覆い隠すほどの巨大な盾。

 その盾の色彩が、柱のそれと酷似していたため、俺は気づく事が出来なかった。



 石黒大将は。その盾のサイズを小さくして(てのひら)に収めると、こちらに向かって歩いてきた。

 その顔は、少し不機嫌そうだ。



「お主ら! いきなり銃撃を開始するな! 儂が防具を装備していない事を知っとるじゃろう!」

「いやいや。大将が盾を持っている事も知っているので。――それよりも、何で勝手にこの出口に入ったんですか? 俺達、何も聞かされてないですよ」



「もしお主らに言ったら付いてくるじゃろう。一人で制圧するなんて危険すぎる、とか言ってな」

「まぁ……それはそうですけど」



 コツ……。



 石黒大将は、こちらに辿り着くと突入してきた自衛官に指示を出している。




「無線を使って、地上に連絡してくれんか? 制圧完了と」

「イエッサー!」



 敬礼をして無線で連絡を始める、自衛官。



 はぁ……やっとだ。

 やっと落ち着ける……。そう思うと、俺は床に座り込んだ。

 いくらステータスの値が高くとも、精神的に披露する事は免れない。



 何も考えずに改札口の方を見ていた。



 すると……。

 足音が聞こえてくる。



 コツ……コツ……。



 今度は複数じゃない……単体だ。

 またケルベロスか?……この場にいる誰もがそう思ったと感じる。



 しかし、違ったんだ。

 改札口から出てきたのは小学6年生くらいの少女。荷物を持たず、赤いワンピース姿でフラフラと歩いてきた。



 それを確認すると、俺は後ろを振り向いて自衛官達に呼びかけたんだ。



「あの! 女の子がいます!」ってさ。



 後は自衛官に任せよう。

 そう思って再び、改札口の方向を向いた。



 すると……。



「お兄ちゃん……」

「………え?……」



 びっくりしたよ。

 さっきまで遠くにいたはずの女の子が目の前にいるんだから。

 しかも、変な事を言ってくるんだ。





「何で?……」



 ――私のペットを殺したの?


 って。


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