72 無線から始める現状把握
――戦車に乗り込むのじゃ!
石黒大将の言葉で、俺達は戦車へと走った。
地下鉄構内に残された人々を救出するために。
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キュララララララ……
俺達は分かれて戦車の中へと入ったんだ。
そして、俺は1人で乗り込んだ車内の中、座り込んで黙っていた。
そうすると聞こえてくるんだ……俺達以外にも戦車が多く出ていると。
石黒大将は10人程度で突入すると言っていたが、恐らく他の地下鉄内にも化け物達が出たんじゃないだろうか?
しばらくすると、外から聞こえる戦車の走行音は、先程より遥かに大きなものへとなっていた。
キュラララララララ!!
これを聞いて思ったよ……これじゃあ、まるで戦争みたいじゃないかってさ。
〈ジジッ……〉
この音は無線で通話する時の音だ。
さっきから聞こえるが……どうやら、他の救出作戦は上手くいってないらしい。
〈こちらチームα! 自衛官数名を残し……全滅……撤退もできません……どうか救援を………〉
〈ジジッ……〉
〈こちらチームβ! 先程から先遣部隊との連絡が……取れなくなっており……混乱しています………どうかご指示を……〉
「了解! α、βじきに追加の部隊を投入する! 各自それまで身を隠せ!!」
〈プツッ……〉
そうやって無線を切ったのは、受付で俺を馬鹿にした自衛官だった。
どうやら彼……ただの下っ端ではないようだ。
石黒大将に確認を取らず、自らの判断で応答していたからだ。
俺は近くにいた石黒大将に話しかけた。
「石黒大将……彼も指揮官なんですか?」
「ん?……あぁそうじゃ。まだ若いんじゃがのう。――優秀じゃよ。指揮官クラスで作戦に参加するのは、あいつと儂くらいじゃ」
「そうだったんですか……」
俺が、その男に目を向けると彼も気づいたようだ。
前を向きながらだが、こちらに話しかけてきた。
「まさか、君が救出作戦に加わるとはねぇ。受付であった時は思ってもみなかった」
「俺もですよ。まさか、あなたと一緒に作戦を実行するなんて」
「ハハッ! 世の中何が起こるかなんて分からねぇなぁ」
「そうですね……でも、なんで指揮官クラスのあなたが、作戦に参加するんですか?」
「あなた……じゃねぇ! 俺の名前は、新田だ! ……実はな……1回目のダンジョン突入の際には……自衛官である妻も加わっていたんだ……」
「……もしかして………それで亡くなって……」
「いいや! あいつはそんな事で死ぬような奴じゃねぇ! 俺が……俺が、ダンジョンを這いずり回ってでも探してやる」
「………………」
そうやって覇気を吐く新田隊員。
しかし、彼の背中はどこか寂しげだった。
彼も心の何処かで思っていたんじゃないかな……多分、もう生きていないんじゃないかって。
俺が彼の背中を見つめていると、落ち込んでいく気持ちに気付いたのか、石黒大将が話しかけてきた。
「……蓮君。この救出作戦について、もうそろそろ説明してもよいかのう?」
「……あ!……はい! お願いします」
「まず、先程の無線で分かったと思うが、地下鉄の全ての区画で怪物が発生しておる……そして、各駅毎に自衛隊が突入しておるのじゃが……結果はご覧の通りじゃ」
「………全ての駅でって事ですか……じゃあ、俺達はどの駅に向かうんですか?」
俺の質問に石黒大将は、よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに顔をニヤつかせた。
「儂らが突入するのは、最も人の出入りが多い区域……帝都駅じゃ。幸いなことに数カ所の出入り口は、依然として自衛隊が制圧しとる」
「数カ所の出入り口?……」
「あぁ……制圧出来んかった駅の出入り口は、爆破して封鎖したのじゃ」
「………そんな……そんな事をしたら、何も知らずに逃げようとした人が……」
「大丈夫じゃよ……まだ生きとる人間は、主要な駅しかおらんはずじゃ……警察に助けを求める電話は、それ以外からは来ておらんらしいからの」
石黒大将は、悲しげな表情を見せた後も会話を続ける。
「とりあえず、帝都駅から突入するわけじゃが……儂らの任務は、帝都駅の奥………線路付近に逃げた者達の救出じゃ。――現在、自衛隊は少しずつ制圧領域を広げる事で、救出しようとしておるのじゃが……全く前に進まなくてのぅ」
「つまり……制圧部隊と救出部隊に分かれてるって事ですね」
「その通りじゃ……しかし………先程のチームαもβも救出部隊なのじゃが……ほとんど機能しとらん」
「…………………」
俺は言葉を失ってしまった。
想像以上に状況が悪い……まさか、地下鉄全域にまで化け物が現れたなんて。
そう思って、俺が下を向いたその時だった。
〈ジジッ……〉
「石黒大将! チームαから無線です!!」
〈…………………………………………………〉
「こちら新田だ! おい返事しろ! チームα!!!」
〈……………に………げ…………………て……〉
「おい! どうしたんだ!!」
新田隊員が無線機に向かって、怒鳴ったすぐ後だった。
チームαからの無線から変な声が聞こえたんだ。
〈………ウゥゥゥゥゥ………ワォォォオオーン!……〉
「何があったんだ! 答えろ!!! チームα!!!!」
〈ブツッ…………〉
「………………無線………切れました………」
震える新田隊員の声が、戦車内に響く。
その後、チームαから連絡が来る事は無かった。




