71 選抜部隊
――地下鉄構内じゃ。
石黒大将の放った言葉に俺達は固まっていた。
だって、信じられないだろう……ダンジョン以外にまで化け物が現れるなんて。
しかも、一般人が化け物達に囲まれているなんて。
■□■□■□
「……………」
石黒大将の言葉の後には暫しの沈黙が訪れた。
俺だけじゃない。
後ろにいる氷華やグリーシャさん……それに、隣にいる西園寺も驚いている様子だ。
「ふむ……」
それを見た石黒大将は自ら会話を再開させた。
先程の演説時に見せた柔らかな表情ではない……気迫に迫るような、真剣な瞳で。
「……本来なら王である彼女のみに頼むじゃろうが……先程の戦闘を見て分かった。――蓮君や西園寺君にも是非、救出作戦を手伝って欲しい」
「……石黒大将」
「何だね? 蓮君」
「……どのくらいの人数で、突入するつもりですか?」
「ほぅ……」
驚く石黒大将の顔……俺が断るとでも思っているのだろうか?
全く……俺の心は、もう決まっているんだ。
救出作戦へ、参加するに決まってるじゃないか……自衛官の力を侮っているわけじゃないけどさ。
多分……大勢死ぬだろう。
俺はそれを見て見ぬ振りなんかできないんだ。
そう。……俺はクラスメイトとは違う………俺が虐められている所を、ただ黙って見ていたクラスメイトとは。
俺は決意を秘めた目で、石黒大将を見つめていた。
すると、その思いが彼にも伝わったようだ。少し微笑むと質問に答えてくれた。
「恐らくじゃが、儂を含めて10人程度で行こうかと思っとる。――場所が狭いでな。戦車も入らんじゃろう」
「なるほど………ありがとうございます……。 ――で、どうする? 氷華と西園寺は参加するのか?」
俺と石黒大将が会話をしている間、氷華と西園寺は口を挟んでこなかったんだ。
この救出作戦に参加するのか、まだ悩んでいるんじゃないかな?
そう思って2人の方に目を向けると、思わず笑ってしまったんだ。
「ははっ……何だよお前ら……」
俺は2人の顔を見て確信した。
――決意が固まっている。と
氷華も西園寺も、しっかりと石黒大将の顔を見つめていたんだ。
そして、そのまま2人とも口を開けた。
「私も行くわよ! 王としての役割を果たさないとね」
「……ふふっ。やはりそうですか……氷華様が行くところ……僕がお供いたします」
「……カッコつけてるとこ悪いんだけどさ……西園寺……お前、その刀で行くの?」
「………あっ!」
俺が言うべき事じゃないと思うけどさ……西園寺の刀は、まだ折れたままなんだ。
俺との戦闘中に折れたやつね。
西園寺は折れた刀を悲しそうに眺めていたよ。
「僕は……ついていけないのか………」
「安心しろ……さっきの約束は必ず守る……氷華を危険な目に合わせないからさ」
「……蓮と西園寺君。石黒大将が来る前から聞いてたけど、私そんなに弱くないわよ?」
「「……………」」
氷華は、腕を組んでニッコリとしていた。
たしかに……改めて見てみると、大剣を背中に装備して鎧もしっかりとしている。
むしろ、こちらの方が助けられそうだ。
なにも言い返せねぇ……。
俺と西園寺が何も言い返せないでいると、石黒大将が西園寺に話しかけてきた。
グリーシャさんを指差しながらね。
「西園寺君……刀は、彼女が用意してくれると思うのじゃが。――なぁ、グリーシャさん?」
「……あ……あなた……なぜ私の名前を知っているのデスカ?……」
「君の上司と話は通しているからのう。……自衛隊に協力すると。――お主は、ロシア軍の諜報部隊におるんじゃろ? 期待しておるぞ」
「……あの上司! 何、勝手に決めてるんデスカ!!」
グリーシャさんは顔を引きつらせていた。
恐らく……休暇で日本に来たつもりが、実は仕事もしなければならないと分かったからだろう。
石黒大将は笑いながら会話を続ける。
「ははは。まぁ……グリーシャさんには、救出作戦を手伝ってもらうつもりじゃよ。――あと、西園寺君に新しい装備を与えてくれないかのう? スキルの事は上司から聞いたんじゃ」
「……Oh……救出作戦は分かりマシタが……流石に、装備をロシア軍の倉庫から持っていくのは危険デース……」
ザッ…………ザッ……
あのグリーシャさんが後ずさりをしている。
アイテムならまだしも……装備を勝手に持っていくと、バレた場合が相当マズいらしい。
しかし、石黒大将は引かなかった。
「確か……日本にいる間の滞在費は、自衛隊が負担する事になっているんじゃが。――西園寺君に装備を貸してくれれば、渡せる金額が増えるかもしれんのぅ〜」
「私もなめられたものデスネ……。お金でつろうとするナンテ……」
そう言うと、グリーシャさんはこちらに背を向けた。
流石の彼女も、危険を冒してまではスキルを発動しないという事なのだろう。
俺は、その背中を見てなんだか不安になったんだ。
日本人は金で物事を解決する、なんて思われたから嫌だからね。
「グリーシャさん。嫌なら無理しなくていいですよ……西園寺も大人しく帰るでしょうし」
「……ん? 何言ってるんデスカ?」
「……………」
カチャッ……。
振り向いたグリーシャさんを見て、俺は絶句したよ。
彼女の手は刀があったんだ。
要するに、スキルを使って装備を取り出したって事さ。
ロシア軍の倉庫からね。
グリーシャさんは、笑いながら石黒大将に声をかけていた。
「HAHAHA! この事は上司に秘密デスヨ!」
「もちろんじゃグリーシャさん! 救出作戦後にしっかりとお礼をするからの!!」
「ありがとうございマース!!」
カチャ………。
グリーシャさんは石黒大将に向かって微笑むと、その刀を西園寺に渡した。
「どうぞ! 大事に使ってくだサイネ!! さっきのと似たのを選んでキマシタカラ!」
「ありがとうございます……これで僕も………戦える…」
チャキッ!
西園寺は、刀身を鞘から抜いて眺めている。
これでとりあえず決まったんだ。
俺と氷華、西園寺にグリーシャさん。
そして石黒大将。
この5人に、あと数人の自衛官を加えたチームで救出作戦を実行する。
そして石黒大将は、西園寺に刀が渡った所を見ると戦車を指差してこう言った。
――では………戦車に乗り込むのじゃ! 詳しい事は、現場で説明する!
と。




