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70 向かう先は

 

 ――え?………



 俺と氷華は、グリーシャさんの顔を見つめていた。

 だってそうだろ? ロシアの保管庫から勝手にアイテムを出すなんて……正気じゃない。




 ■□■□■□




 俺と氷華の困惑する顔を見て、グリーシャさんは首を傾げていた。




「ん?……どうかしまシタカ?」

「グリーシャさん。勝手に……って聞こえたんだけど。――まさか俺の手にかけたのって」



「YES!!ロシア軍の倉庫から拝借してきたんデス!」

「え……でもさっき、グリーシャさんは自分で探索してきたって言ってませんでしたっけ?……」



 血の気が引いていくのが分かる。

 俺の顔、だんだん白くなっているのかなって思ってたよ。



 軍隊……しかも外国の軍隊だぞ。

 そんな所から勝手に取ったら俺、犯罪者になるんじゃないかって不安なんだよ。



 でも俺のひきつる表情を見ても、グリーシャさんは笑っていたんだ。




「HAHAHA!ジャパニーズは心配性デスネ!!確かに私がアイテムを取ってきましたけど、所有権は軍隊にありマス!――私、ロシア軍に所属してますカラ!」

「……って事はグリーシャさん………あなた軍人なんですか!?」




 俺は思わず声をあげてしまった。



 グリーシャさんが軍人とは思えなかったんだ。

 勝手なイメージだけど、筋肉ムキムキの(いか)つい男のイメージが強いんだよな。



 俺はひどく驚いたが同時に心の何処かで安心していた。

 何でかって? それは彼女が軍人だからさ。


 

 自らが所属している軍隊からアイテムを取るなら、特に問題ないと思ったんだ。




「なんだ……じゃあ特に問題はないんですね」

「イエ〜ス!バレなければ何も問題ないデス!!」



「………………」



 グリーシャさんの答えに言葉の詰まる俺。

 そんな俺に向かって、氷華が肩を叩いてきたんだ。




「ま……まぁ、よかったじゃない。傷も治ったことだし」

「……え………俺、ロシアから命狙われないよね?……」



「多分ね……」

「……まぁ最悪。スキルを使って逃げるよ」



「HAHAHA!大丈夫大丈夫!どうせ気づきまセーン!」




 高らかに笑うグリーシャさん。

 彼女は、ずいぶんとポジティブな性格のようだ。

 表情が一切曇っていない。



 俺には真似できないな……と歪んだ顔で彼女を見ていると、後ろから足音が聞こえた。





 ザッザッザッ……




「おい!氷華様の幼馴染!!」



 この声は……西園寺の声だ。

 後ろから聞いていても分かる。

 恐らく、石黒大将の治療が終わったんだろう……元気な声だったんだ。




 それを聞いて一安心した俺は、ゆっくりと振り向いて会話を続けた。




「回復したみたいだな。西園寺……」

「あぁ……自衛官の方に治療していただいたよ」



「全く……もうこれに懲りて、氷華にはつきまとうなよ」

「………分かった……今回は僕の負けだ。――氷華様……ファンクラブは解散させて頂きます」



「は……はい」




 西園寺は氷華に向かってお辞儀をすると、悔しそうに拳を握りしめていた。

 想像していたよりもあっさりと負けを認めたので、氷華は驚いていたよ。



 俺もさ。

 そんな姿を見ていると少しやりすぎたかな……って感情が湧いてきたんだ。



 でも、そんな心配する必要なかった。

 西園寺は勢いよく上半身を上げると、また勝手に約束を作ったんだ。




「……ただし!!僕は、また(きみ)に戦いを挑むだろう!その時に勝てば……ファンクラブを復活させていただきます!」

「西園寺……お前、やっぱ懲りてないだろ……」



「ははは。懲りているさ!次に戦うまでにレベルを上げておくよ。――あっ………ちなみに僕は第2班の班長だ。よろしく!」

「へぇ……班長なんてあるんだな」



「君……受付で聞いてないのかい? 班の番号が低ければ低いほど、その班全体の戦力が大きくなるんだ」

「え?……てことは俺らの班が1番強いのか……」



「それはもちろんさ、(キング)である氷華様がいるからね。――でも……君も相当強いね」

「あ……ありがとう」



「ダンジョンで何かあったら……氷華様を頼むよ……僕も近くにいたら援護するけどさ」

「ははは。氷華がピンチになる場面なんてないだろ!」



「うん。そうだと思うんだけどね……氷華様を慕う身としては心配なんだよ」

「安心しろって!大丈夫だ。何かあったら西園寺(おまえ)を倒したスキルで氷華を守るからさ」



「ははは。君も言うねえ!」

「………悪かったよ……まぁ、でも大丈夫だろ。今回はダンジョンで装備を見つける事が目的なんだし」



「それもそうだな……もうそろそろかな? ダンジョン探索が始まるのは」




 西園寺がそう言って腕を組んだ……その瞬間だった。

 拡声器を使って、1人の自衛官が驚くべき事を口にしたのだ。 



 〈えー。皆様、申し訳ございません。本日は中止とさせていただきます〉



 〈えー。繰り返します………〉




 突然の中止の報告に会場全体がどよめく。

 もちろん、俺達も動揺していた。



 先程、あれだけの演説をしておいて……なぜ中止するのか? 

 俺には理解出来なかった。



 そんな困惑する俺達の前に、石黒大将が歩いてきたんだ。

 悲しそうな顔をしながら手を後ろに組んで。




 ザッザッザッ……




「どうしたんですか!なぜ中止に……」



 俺は声を荒げた。

 でも、言葉を言い終える前に、石黒大将が軽く頭を下げてきたんだ。



 ――君達の力を貸して欲しい、と。



「どうしたんですか一体……」

「実はな……今しがた政府から連絡があってな……一般市民が怪物達に囲まれたらしいのじゃ。――今の所は身を潜めておるらしいが、早く救出せねばならん」



 石黒大将の言葉に、俺は血の気が引いていくのを感じた。



 一般市民が怪物達に囲まれるという事はつまり……ダンジョンの外へ怪物が出てきたという事だ。



 遅かったか……ダンフォールさんが言ってたみたいに、怪物達が地上に出始めたのか……



 俺は、地面を見つめながら石黒大将に確認した。

 もう手遅れなのかと。



「………そんな……怪物達が地上に出たって事ですか?」




 俺の質問に対して石黒大将は即答しなかったんだ。

 しかし、少しの間を置いて答えてくれた。




「…………いいや、違う。儂らが向かうのは……」



 ――地下鉄構内じゃ。


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