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66 【敗北】を受け入れろ

 

 ーー次は、こっちの番だ



 俺の飄々(ひょうひょう)とした態度に、西園寺は驚いていた。



 いや、態度だけじゃない。

 俺が生きている事や、自力で氷魔法を解いた事に驚いているんだ。




 ■□■□■□




 ――グラウンドの一角。



 俺の立つ辺りには氷のカケラが散らばり、光が反射している。

 俺を封印する為に使われた氷のカケラだ。



 それを見る西園寺は驚きを隠せず、地面に突き刺した刀を支えに立ち上がった。




「…ハァハァ……なぜ、自由に動ける?」

「俺のスキルが勝ったって事さ」



「そんな馬鹿な……」

「信じられないようだけど、ほら!現実に俺は自由に動いているんだぜ」



「………く……そうだな。だが、これで終わりじゃない!――戦いはまだ終わってない」

「あぁ……こっからは俺の番だからな」



「何?」



 バッ…!!




 俺は体を前のめりに出して、右足で地面を蹴り上げる。



 よし。狙い通り。

 一瞬だ。

 これで一瞬の間に、西園寺(やつ)の間合いへと入れた。



 ――そして



「西園寺ィィ!」



 俺の右拳が西園寺の顔面を捉えようとした。


 しかし、西園寺(やつ)も無抵抗で攻撃を受け入れるほど馬鹿じゃない。




 キンッッ……!




「ふっ、どうだ!僕の魔法は攻撃だけじゃない!!」

「……なに?…………」



 俺の拳は、西園寺に届かなかった。

 薄い氷の膜で止まっていたんだ。



 体を守れる程の大きさを持つ氷の膜……それは、俺の前に立ちはだかっていた。



 いや、氷の膜を挟んで、西園寺(やつ)の左の(てのひら)に止められている……と言った方が正しいかな。



 まぁ結局のところ、俺の攻撃は止められたんだけど、それは想定の範囲内なんだ。

 なぜなら攻撃値を5000に抑えているからね。



 ――だったら



ALL CHANGE(オール・チェンジ)発動……】

【物理攻撃値を6000に……7000に……8000に……】



 スキルで攻撃値を上げればいいだけだ。



 次第に上がっていく俺の攻撃値。

 それに伴って、西園寺を守る氷の膜にヒビが入っていく。




 ピキッ……ピキ……ピキ………




 その割れていく氷の膜を、西園寺は悔しそうに見つめていた。



「なぜだ……なぜ、平民ごときに」

「西園寺。お前、負けた経験ないのか?」



「あるわけがないだろう!僕は学業もスポーツも、常に勝ってきたんだ!!」

「……なら一回、負けてみろ」



「なんだと?」

「俺は負け続けてきた……」



「は!なら、余計負けられないじゃないか!そんな負け組に、この僕が!!」

「負け組か……」



「そうだ!!僕は負けを知らない……いや、知っちゃダメなんだ!――西園寺家には、勝ち続ける事しか許されていないんだ」

「勝ち続ける……か。負けてもいいと思うんだけどな」



「どういう事だ?」

「さぁな」



 ピキピキッ……



 話している間に、俺達を隔てる氷の膜は壊れようとしていた。

 全体にヒビが広がり今にも崩れそうだ。



 そんな状況で西園寺は刀を右手に取り、左手を自らの足元へと向けた。



「くそっ!(アイス)!!!!」


 ピキィ!




 西園寺(やつ)は自らの足を凍らせて、そのまま後ろを振り向いて(すべ)っていく。



 ――そして



 まるでスピードスケートのような速さでグラウンドを駆け抜け、弧を描いて俺の元へと戻ってきた。



「ははは。この速さ!貴様には防ぎきれんだろう!!」



 西園寺は(つか)に両手を添えて刀を横に寝かせる。



 恐らく、俺を真横に切るつもりなんだろう。



 それにしても速い。

 足を凍らせて滑っている、というのもあるが何より体重移動が上手いんだ。



 体を前のめりにして低姿勢を維持している。




 そこから真横へと一閃………確かにこれなら、何でも切れそうだ。



 ――俺以外ならな




 パキィ!!!



 氷の刃が粉々に砕ける音がグラウンドに響き渡る。



 そう。俺は、右拳を迫り来る刀にぶつけたんだ。



 結果はご覧の通り。

 俺の拳が(まさ)った。




「貴様は……何者なのだ?」



 その衝撃で止まってしまった西園寺は、氷のコーティングが解けた刀を右手に持ち俺を見つめている。



「【奴隷(スレイヴ)】だよ」

「…ありえない……」



 驚く西園寺。

 その一瞬の隙を、俺は見逃さなかった。




 ガッ…………ピキィ………



 俺の左拳が、西園寺の腹部を捉える。

 単なる拳がぶつかる音だけではない。



 西園寺(やつ)の装備に施された、薄い氷のコーティングがパラパラと崩れ落ちていく。



「カハァッ!」

「…………」



 突然の攻撃に、人は俺の事を卑怯だと言うかもしれない。

 でも、止まっている間に攻撃したかったんだ。



 あのスピードについていく事はできるけど、他のダンジョン参加者を戦闘に巻き込んじゃうかもしれないからね。




「き……貴様」



 刀を地面に突き刺し、膝を地面につけて腹部を抑える西園寺。

 彼の口元からは血が垂れていた。



 今の俺の物理攻撃値は……1万ってところかな。

 まぁ、それだけの攻撃値なら、西園寺が装備をしていたとしても、それなりのダメージは与えられる。



 たとえ、冬将軍(ホワイト・ジェネラル)が発動していたとしてもね。



 そんなボロボロの西園寺に向かって俺は声をかけた。

 手を後ろに回して、頭をポリポリと()きながら。


 もう勝負はついたからな。

 早く終わらせたかったんだ。



「なぁ、十分だろう。負けを認めるんだ」

「………まだだ!!まだ………俺は負けていない!!!まだ戦える……ゴホッ!ゴホッ……」



「全く……負けを恐れない事と、認めない事は違うんだけどな」

「貴様に何が分かる!!」



「俺は負け続けてきたから、勝ち続けてきた者の気持ちはよく分からない。けど、1つだけ分かるよ」

「何だ!言ってみろ!」



「………負けを認めたくないって気持ちだよ」

「は!何を言っている。貴様は負け続けていたのだろう?」



「あぁそうさ。でもな。負けている時は、それを認めていなかったんだ―――嘘をつき続けて、誤魔化し続けてきたんだよ。周りにも、自分自身にさえね」

「訳の分からん事を!!」



 ザッッッ……



 西園寺は、そのダメージを受けた体を無理矢理起こして立とうとしている。

 地面に突き刺した刀を支えに、膝に手を乗せてゆっくりと立ち上がる。



 ハァハァハァ………



「負けを認めろ……負けを認める事で視野が広くなるぞ。上だけじゃない。下も横も……全ての方向を見つめる機会になるんだ」

「ふざ……けるな。僕は……上しか………見ない」




 息も絶え絶えの西園寺。

 フラフラになりながらも、折れた刀の切っ先をこちらに向けてくる。


 チャキ………



「もうやめろ!これ以上ダメージを受けたら、お前死ぬぞ」

「死な……ない。僕………は…負け…ない」



 どうやら西園寺(かれ)は、負けを認めないようだ。



 どうする?

 このまま、戦いを続けても終わらないぞ。

 ダンフォールさんに代わってもらうまでもないしな……どうしよ。



 その時だ。


 俺が顔をしかめた瞬間。

 俺と西園寺の間に、真上から大きな十字架が落ちてきた。



 大型のトラックほどの長さを有する十字架……その十字架の横棒部分には人影が見える。




 ドゴォォォン!!!!!



 地面に突き刺さった際の轟音。

 そして、その後に続く男性の声……どこかで聞いたことがあるような声だった。



「そこまでじゃ!」



 俺は十字架の上部分を急いで見上げる。

 すると、そこにいたのはダンジョンで出会った石黒大将という、自衛隊のお偉いさんだったのだ。



 彼は、俺の視線に気づくと優しく声をかけてきた。

 ダンジョンの時と同様に微笑(ほほえ)みながら。



「ダンジョンの時以来じゃな。たしか……蓮君、じゃったかな?」






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