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65 チートスキルvsチートスキル

 

 カチャ……



 氷の(やいば)が俺へと向いている。

 西園寺はトドメを刺すつもりなんだ……右足を氷で固定されて、身動きができない俺に対して……



 まぁ正直、スキルを発動した俺にとっては固定された氷なんか今にでも破壊できるんだけどな。

 でも、そうしない。



 俺は西園寺(やつ)の全力を受けきるんだ。

 そして、俺の力を見せてやるよ。



 俺の鋭い眼光は、目を瞑ったままの西園寺を捉えていた。





 ■□■□




 ヒュオォォ……



 目の前にある氷の刀の切っ先から、冷気がこぼれている。

 もうそろそろ攻撃が来るか……そう思うと、俺は自然に西園寺へ声をかけていた。




「どうした西園寺。まだ攻撃しないのか?」

「……黙れ……すぐに楽にしてやる」



「はは。楽にしてやる……か」

「なんだと?」




 驚きの声を上げる西園寺。

 目を開けて、刀の持つ手をブルブルと震わせている。

 どうやら平民の俺が、生意気に見えたみたいだ。




 カチャカチャ……


「き……貴様ッ!僕を愚弄(ぐろう)するつもりか!!」

「……そんなつもりはない。ただ、俺もスキルを発動したんだ――お前のスキルは、もう通用しない」



「ははは。平民の分際で面白い事を言うな……いいだろう。本気を見せてやる!――僕のスキルの方が上だって事をね!!」




 そう言うと西園寺は、もう片方の手も(つか)に添えて深呼吸をしだした。



 スー……ハー……スー………



 しかし、普通の深呼吸ではない。

 彼の口から出る息は真っ白に変わり、体も氷に(おお)われていく。


 頭、肩、胴……そして、足へと、氷の薄い膜は形成されていった。



 スー……



 深呼吸を止める頃には、西園寺の肌や装備品は氷で白くなり、体表からは冷気が流れ出している。


 準備は終わったようだ。



 西園寺は俺に向かって微笑(ほほえ)むと、刀を片手に持ち直して俺の顔面ギリギリまで近づけてくる。




「どうだこの姿。これが僕のスキルだ……上位の氷属性魔法を、常に発動し続ける事で可能となる姿――まさに将軍(ジェネラル)だろう?」




 自身満々の表情……西園寺から伝わるのは、西園寺(おれ)は最強なのだという、絶対の自信だった。


 西園寺(やつ)の狙いは、その奇怪(きっかい)な姿を見せつけて、俺に恐れ(おのの)いて欲しいようにみえる。



 でも、ごめんな……全く怖くないんだ。



 俺は、ひょうとひょうとした口調で西園寺に言ってやったよ。


 ――そうだな、って。



 そうしたら西園寺の奴、笑って言い返してきたんだ。

 もう終わりだって……そんな表情をしながら。




「その減らず口も最期だ……いくぞ!!」




 西園寺はそう叫ぶと、思い切り刀を上へと放り投げた。

 それは垂直に上がった後に一回転し、そのまま地面へと深く突き刺さる。


 ヒュオォォォォ………ガッッッ!!!



 ちょうど西園寺と俺の間に、突き刺さった氷の刀。



 西園寺は、その(つか)に右の(てのひら)をかざした。

 そして一呼吸置いてから、俺を圧倒するであろうはずの魔法を繰り出したのである。




「【封印魔法(シールド・マジック)………永久凍土 (パルマ・フロスト)】」




 西園寺が叫ぶと、彼の右手……いや、刀から流れ出る白い冷気が俺を包み込んだ。


 一見すると、白くキラキラとした冷気は美しく見えるが…上位魔法なのだろう。




 体の表面だけじゃない。

 体の内側から、内臓が凍っていくのが分かる。




 俺は驚いたよ。

 魔法防御値に数十万の数値をまわしても、対処できないなんて。


 まぁ……数十万の防御値じゃ足りないなら、増やせばいいだけだけどな。




 白く輝く冷気に包まれた俺は、目を瞑ってスキルを発動した。

 今回は数万とか数十万じゃない。



 ――1000万だ


【……ALL CHANGE(オール・チェンジ)発動】

【HPの数値から、1000万、魔法防御値へと移動します】



 目の前にスキルが実行されたという画面が表示されると、西園寺に凍らされた内臓が元に戻っていくのを感じた。



 体の表面は氷で凍てついたままだけどな……いやむしろ、ちょうどいいか。



 俺は西園寺の魔法が終わるまで、この茶番に付き合ってやることにした。



 魔法の途中で、反撃する必要なんてないからな……全部受け切ってからで問題ないし。

 何よりも西園寺の驚く顔が見たい。


 俺を馬鹿にしたうえ、氷華に迷惑をかけてるみたいだし、お灸を据えてやらないと。

 自分の全力が通じない……その気持ちを西園寺に味あわせてやる。


 それから反撃でも遅くはないだろう。



 俺はわざと魔法を受け続け、西園寺の刀から冷気が出なくなるまで待った。

 数十秒ほどだろうか。


 俺の体が完全に白くなるまで冷気を吐き出すと、西園寺は、刀の(つか)に両手を乗せてしゃがんだ。



 はぁ……はぁ……はぁ……




 口から吐き出す白い息、西園寺は相当疲れたようである。

 彼は、呼吸が整うまでしばらく地面を見つめていた。




「はぁ……どうだ?……僕の……スキルには、敵わないだろう?――あぁ………そうか。もう僕の声は聞こえていないか……」




 疲れた表情で俺を見上げる西園寺。



 でも、俺は聞こえてるし、返事もできる。


 そんなに教えて欲しいなら教えてやるよ。

 西園寺(おまえ)のスキルに勝ったってな。




 俺は、凍って動かない口を小さく動かして西園寺に現実を教えた。

 本当に小さな声しか出せなかったけど。




「……聞こえてるよ」

「……………え?」




 ピキッ………………パァン!!


 氷が砕け散る音が響く。

 俺の体に(まと)わり付いていた、氷の音が。



 そして、その砕け散る氷を西園寺は見ていた。

 ただ呆然(ぼうぜん)と地面に膝をついて、俺の体が氷から解き放たれる姿を……彼は見ていた。



 信じられないといった表情で。



 まるで、夢でも見ているかのような西園寺。

 俺は、そんな西園寺(やつ)に向かって言ってやった。



「スキルは俺の勝ちだな………じゃあ、次はこっちの番だ」



 ――と。




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