64 冬将軍
――見せてやるよ……僕のスキルをな!!
俺に刀を折られた西園寺。
しかし彼の目は死んでいなかった……いや、むしろその目は赤く輝いてたんだ。
やっと、本領を出せる……そう思っている様子だった。
■□■□
カチャッ…
折れて短くなった刀。
その粉々に砕けた切っ先を俺に向けて、西園寺は笑う。
「僕のスキルは、チート級なんだ」
「そうか。奇遇だな……俺もだ」
「はっ!平民と西園寺家、どちらのスキルが上位か……雌雄を決しようじゃないか」
「……面白そうだな」
西園寺のスキルに対する発言。
それを聞いて、俺も思わず微笑んでしまった。
だって仕方ないだろう、俺の保有するスキル…【ALL CHANGE】に匹敵するほどのスキルなのか、気になるんだからさ。
いや、気になるのは俺だけじゃないようだ。
西園寺の方に視線を向けると、俺に刀を向けたまま目を瞑っている。その表情はどこか嬉しそうだ。
そして、一言。
彼は目を瞑りスキルを発動させた。
「スキル……【冬将軍】発動」
ヒュオオォ…
西園寺がスキルを発動させると彼の周りを冷たい風が囲み、特に刀を持つ右手に冷気が纏わり付いている。
パキッ……パキッ…
その冷気は彼の右手を凍らせるだけではなく、刀の刀身部分にも氷を形成させていく。
しばらくすると、氷は刀の折れた部分を完全に補い。
まるで、氷の刀と言わんばかりの武器が完成した。
西園寺はゆっくりと目を開けて、自慢気に俺の方を向いた。
「どうだ?これが僕のスキル【冬将軍】――氷属性の魔法を常時、MP消費無しで使用できるうえ、身に纏う事も出来るんだ」
「MP消費無しで、魔法を使用できるのか」
「ふっ。まさかダンジョンに入る前に使う事になろうとは思っていなかったがな……で、貴様のスキルはどうなんだ」
「俺のスキル?……それは、戦ってみたら分かるさ。じゃあ、いくぞ!!」
ダッッ!!
俺は足に力を込めて西園寺へとダッシュした。
先手必勝――これまで戦った事がないタイプの相手だ。
先に出鼻をくじいてやる。
あと、一応……
【……ALL CHANGE発動】
【物理攻撃値を5000残して、HPに移動させます】
俺は、スキルを発動して攻撃値を5000に抑えたんだ。
殺すつもりは無かったし、何より殺人事件を起こせばダンジョン攻略部隊への加入なんて不可能になる。
5000程度の攻撃力なら、装備品を有している西園寺も耐えられるだろう。
俺は走りながら右腕を後ろに振りかぶり、西園寺の顔面に向かって拳を貫く。
――しかし
カッ!!
グラウンド上に響く、硬い物質がぶつかり合った音。
西園寺は氷の刀で俺の拳を弾いたんだ。
クソ。攻撃を防がれた……いや、違う。それだけじゃない。
パキパキパキ…
西園寺の刀で弾かれた拳が、みるみるうちに凍っていく。
そして手の表面が完全に凍った後、俺は自由に手を動かせなくなっていた。
「なんだよこれ!」
「ははは。氷属性の魔法で動かせなくしてやったわ――この氷の刀に触れるモノは全て凍てつくぞ」
「何!?」
驚く俺を見て笑う西園寺。
彼は氷の刀を肩に乗せて、余裕そうな表情を見せ挑発してくる。
「貴様、早くスキルを見せんと……体全てを氷づけにされるぞ」
「ははは………やってみろよ!」
「ふっ。後悔するなよ……」
ザシュッ!……ザシュッ……
まず上段を横に一閃………そして、そのまま体を回転させて下段へと一閃。
身のこなしが軽く攻撃の間が小さい。
それに自らの足場を凍らせて、回転をよくしている。
一撃目の上段攻撃は、体を下げて避けることができたがニ撃目は無理だった。
俺の右足に当たる氷の刀。
パキパキパキ……
右足が氷で地面に固定されていく。
「俺を動けなくしてどうするんだよ」
「……すぐに分かるさ」
西園寺はそういうと、氷の刀の切っ先を俺に向けて目を瞑った。
その切っ先からは、ヒンヤリとした冷気を感じる。
恐らくだが西園寺は、魔法を打ってくるだろう。
ならば俺のする事は1つ。
【……ALL CHANGE発動します】
【HPから魔法防御値へ100万、移動させます】
魔法防御値を高めればいいだけだ。
正直言って、今すぐにでも氷の固定を破壊する事はできるのだが、西園寺に力の差を見せつけたい。
自身の力に溺れる奴に現実を知ってもらいたいのだ。
だから俺は、西園寺の全力を受けきる。




