62 鮫島の影
いきなり、俺に刀を突きつけてきた男……西園寺。
彼はどうやら氷華と同じ高校らしいが、仲は良くないみたいだ。
氷華の話を聞いてみると西園寺が、勝手に彼女のファンクラブを作っているらしい……
■□■□
「もう、やめてって言ったでしょ西園寺君!私のファンクラブは作らないでって!!」
グラウンドに響き渡る氷華の声。
それと同時に、西園寺と俺は困惑の声をあげていた。
「氷華……高校に、お前のファンクラブあるのか?」
「私が知らない間に勝手に出来てたのよ!!」
「へ……へぇ。そうなんだ」
「部活の試合にも応援に来るし、困ってるの……」
「あはは。そんな事になってたのか」
俺は、苦笑いを浮かべて彼女を見つめた。
確かに氷華は可愛い……でもまさか、ファンクラブまで出来ているとは思いもしなかったよ。
あと、氷華が俺を試合に呼ばない理由が分かった気がした。
気をとりなおして西園寺の方を向くと、先程も震えていた刀がさらに震えている。
氷華の発言に余程のショックを受けているのだろう。
【カチャカチャカチャ】
「氷華様!私のファンクラブは作らないで、というのはそういう振りなのでは、なかったのですか?」
「違うわよ!私は、お笑い芸人じゃないのよ!!」
「そんな……じゃあ僕が今までしてきた事は………」
「この際だからハッキリ言うわ!め・い・わ・く・よ!!――だから、ファンクラブなんて解散して」
「………それは、振りですか?」
「違うわよ!」
「……分かりました」
「本当?!」
「ただ、1つ条件があります」
「何よ」
「この男と勝負させて下さい」
「え?」
「失礼ながら先程までの、お三方の会話、盗み聞きしておりました。――彼、氷華様の幼馴染らしいですね」
「…………」
西園寺は会話を中断すると、俺に向かって鬼の形相で睨みつけてきたんだ。
この時には、俺の首元に位置する刀の震えは止まっていた。
「西園寺だっけ?、お前、俺と勝負してどうするんだよ」
「黙れ!貴様のような馬鹿が、氷華様の幼馴染であって良いわけがない!」
「はぁ?」
「よって、この者と戦わせて下さい氷華様。――もし、この男が勝てばファンクラブを解散すると約束しましょう」
西園寺の顔はニヤついていた。
恐らく俺に絶対勝てると思っているのだろう……何の装備もしていない、この俺に。
人を見下すような顔……その顔が、どこか鮫島を思い出させたんだ。
そして、ふつふつと湧き上がる負の感情。
俺は、首元に突きつけられた刀を右手でしっかりと掴んで、西園寺を睨みつける。
「いいぜ。この勝負のってやるよ……馬鹿の力を試してみるといい」
と挑発しながらね。
しかし、鋭い眼光で挑発する言葉とは裏腹に。
スキルを発動していなかった為、刀身を握る俺の右手からは、ポタポタと血が流れていた。




