61 サムライ
俺は、自衛官に怪訝な顔をされながらも、何とかダンジョン攻略部隊に参加する事が出来た。
王を付けるという条件付きで……
そして、その王とは、やはり……そうだった。
俺とグリーシャさんが振り分けられた第1班には、王である氷華がいたのだ。
彼女は、ダンジョンの時と同じく、その小柄な体を全身鎧に身を包んで大剣を地面に突き刺している。
――自身の胸元まで届く大剣を
■□■□
氷華の鎧姿を、興奮した眼差しで見つめるグリーシャさん。
その強い眼差しは、氷華を気づかせたんだ。
氷華は、こちらに向かって振り向くと手を振って声をかけてきた。
「蓮じゃん!ダンジョン攻略部隊に参加するの〜?」
「うん!ちょっと待ってて!!そっちに近づくから!」
「市谷。あの人、知り合いデスカ?」
「はい!あいつとは、幼馴染なんですよ」
「オサナナジミ?」
「小さい頃から仲が良いって事……です。多分」
「Oh!!なんとなく分かりマシタ!」
「ははは。じゃあ、近くまで行きましょう。付いてきてください」
「ハーイ!付いていきマース!」
俺とグリーシャさんは、駆け足で氷華の元へ向かった。
といっても離れているわけでもないし、他の班も番号順に横一列に並べられているので、氷華の元へはすぐに辿り着くんだけどね。
「おーい氷華。今日もその鎧をつけてきたんだな。ははは」
【ガシャッ】
「もう〜からかわないでよ〜」
氷華は、頭に装備されている兜を脇に抱えると、はにかんで応えた。
突然、姿を見せた鎧の中身。
まさか……女子高生が、全身鎧に身を包んでいるとは思えないだろう。
他の参加者達から、お〜、という響めきが聞こえる。
いや、驚いているのは後ろに付いてきたグリーシャさんも同じようだ。
俺を押しのけて氷華の前まで出てきた。
「アメージング!!騎士の中身は、可愛い女の子だったんデスネ〜」
「あはは……ちょっと。蓮……この人、誰なのよ?」
「同じ仲間さ。彼女はグリーシャさん、俺と一緒に1班に振り分けられた商人なんだ」
「そうデース!グリーシャと言いマース!」
「よ……よろしくお願いします。って……蓮も1班なの!?」
「うん。そうだよ!よろしくね」
「なんか照れるわね……」
「私も混ぜてくだサーイ!」
照れる氷華と、はしゃぐグリーシャさん。
そんな微笑ましい光景を、俺は笑いながら見ていた。
平和だな。
このままダンジョンなんかに入らずに、グリーシャさんに日本の観光案内したい……って思うくらいほのぼのとしたよ。
でも、外からの一言が現実を突きつけるんだ。この場にいるのは俺達3人だけじゃないって。
同じ高校生くらいの男の声が……俺のすぐ後ろから近づいてきたんだ。
怒りに震えた声が。
「お前の制服、この馬鹿高校の生徒だな」
「……なんだと?」
男の挑発するような言動に、俺は急いで振り返ったよ。文句を言おうと思ってね。
でも、文句を言う余裕なんかなかった。俺は刀を突きつけられていたんだ。
【カチャッ……】
「うっ……」
「おっと……動くなよ。首を落とすぞ」
俺の首元までつきつけられた日本刀。
その刀の主は、武家の着物のような装備を身に纏い、俺を睨みつけていた。
そして、声を荒げながら俺に向かって、怒りをぶつけてきたんだ。刀を持つ手を震わせてね。
「なぜ貴様が氷華様の班に……僕がそこにいるべきなんだぁ!」
「ん?氷華様?……お前、氷華の知り合いか」
「氷華様を呼び捨てにするなぁ!!氷華様は、我が超進学校のアイドルにあらせられるのだぞぉ!」
「アイドル?」
俺は訳が分からず、後ろにいる氷華の方を向いた。
恐らくこの男の発言からして、氷華と同じ高校なんだと思うけど……
この男の発言は正しいのかな?……
本当に氷華がアイドルをやっているとは思わないけど……面白そうだし、からかってみるか。
そう思って俺は、少しニヤけながら氷華に質問した。
「氷華。お前、学校でアイドルやってるの?」
「――――ちがう――」
表情を隠す為に地面を向いている氷華。
だがその頰は赤く火照っていて、照れてる様子は隠せていない。
地面を向いたまま、彼女はこう言ったんだ。
「もう、やめてって言ったでしょ西園寺君!私のファンクラブは作らないでって!!」
「「え?……」」
氷華の発言に静まりかえるグラウンド……その中で唯一、声を出してはしゃいでいたのは、グリーシャさんだった。
西園寺という男を見ながら――
「Oh!!!サムライじゃないデスカ!」
と目を輝かせていた。




