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60 小さな騎士王

 

 ――君、奴隷(スレイヴ)なの?やめた方がいいよ。



 ダンジョン攻略部隊に応募した俺に向かって放たれた、自衛官の心無い言葉。



 いつもの俺だったら、物怖(ものお)じして引き下がったかもしれない……でも今は違う。

 ダンジョンの化け物も、(キング)である鮫島だって倒したんだ。心の余裕はあるさ。



「俺、普通の奴隷(スレイヴ)じゃないですから」



 俺の自信に満ちた言葉に対して、自衛官は疑念の眼差しを向けた。




 ■□■□




 受付の前に立つ俺と自衛官……俺の発言は予想外だったのだろう、自衛官は苦い顔を見せた後ゆっくりと口を開けた。

 少しダルそうに頭を()きながら。




「本当は奴隷(スレイヴ)商人(マーシャント)が来たら、追い返せって言われてたんだけどな」

「……けどな?…」



「いいよ。今回は特別だ。貴重な(キング)も、今回のダンジョン攻略部隊に応募しているんだ。彼女に感謝しろよ」

「―――え――」




 自衛官の言葉に俺は動揺してしまった。



 (キング)で女性といったら……彼女しかいないじゃないか。

 幼馴染の氷華が、俺とグリーシャさんに加わってダンジョンに突入するのか……



 いや、まだ氷華と決まったわけではないが。

 この地区に存在する(キング)など彼女以外にいないのではないか。



 奴隷(スレイヴ)と同じく、(キング)は特殊な【職業】。



 自衛官もさっき言ってたけど(キング)は、貴重な存在なんだよな。

 奴隷(スレイヴ)も貴重な部類には入るだろうけど……




 俺がそんな風に考えて首を傾けていると、自衛官の方から声をかけてきた。




「ほら。君と商人(マーシャント)の班は第1班だ……グラウンドに石灰で『1』と書いてあるはずだから、自分達で探してくれ」

「分かりました」




 雑な対応だ……手をシッシッと降って、まるでこちらを追い払うかのような動作を取っている。



 少々イラつきはしたが、まぁいい。

 ダンジョン攻略部隊に応募する事は出来たわけなんだから。



 気を取り直して自衛官に一礼をすると俺は振り向いて、グリーシャさんの元に駆け寄った。



 対する彼女は心配そうにこちらを見つめているけど…キチンと受付処理できたのか心配しているのだろう。



 手を合わせてこちらに顔を近づかせている。




「ジャパニーズ……どうデシタカ?」

「安心して下さい。受付、ちゃんと出来ましたよ」



「Oh!!ありがとデース!」

【ムニュ】


「ちょ、ちょっとグリーシャさん!!」




 グリーシャさんは、相当喜んでるみたいだ。

 喜びのあまり俺に抱きついてきた……柔らかい感覚が伝わってくる。



 全く……外国人は体で感情を表現するって、どこかで聞いたけど本当みたいだな。

 それにしても。



 か……火憐のとは全然違う……大きい………



 急な出来事に、鼻血が出そうになってしまったよ。

 慌てて片手で鼻をつまんで残った手でグリーシャさんの肩を掴んで引き離した。危なかったよ。



 後もう少しで、鼻血が出るところだった。



 急に引き離されたグリーシャさんは、驚いた様子で俺に話しかけてきたよ。

 鼻を手でつまんでいる俺に向かってね。




「私、においマスカ?」

「ははは。違いますよ、これは鼻水を止めるためにやってるだけですから」



「そ……そうデスカ」

「あっ!言い忘れてましたけど俺達、同じ班になりました。よろしくお願いします」



「嬉しいデース!!ジャパニーズの名前はなんて言うんデスカ?」

「俺の名前ですか?……市谷(いちがや) (れん)です」



市谷(いちがや)!!よろしくデース!」

「ははは……あっ、俺達は1班って言われたので、その場所に移動しなきゃならないみたいです。付いてきて下さい」



「ハーイ!かしこまりマシタ!!」




 俺が歩き始めると、グリーシャさんはスキップしながら後を付いてくる。

 本当に元気な人なんだなって事が伝わってくるよ。



 ただ俺も、よそ見しているわけにはいかない。

 1と書かれている位置に行かなければならないからな。恐らく、そこに(キング)がいるんだろうけど……



 普通なら、その1と書かれている地面を探すために下を向くだろう。

 しかし俺は違う。




 俺は、下を見ずにただ辺りを眺めているんだ。氷華が待っているとしたらすぐに見つける事が出来るからな。



 氷華(あいつ)は、全身鎧に身を包んで来ているはずだから。

 ダンジョンで装備していたあの鎧を。




 案の定、しばらく歩くと全身鎧姿の小さな騎士を見つけたよ。

 もちろん、俺だけじゃない。

 グリーシャさんも気づいたようだ。




「市谷。あれはコスプレデスカ?」

「あはははは。そう見えますよね、でも、違うんです……俺達もダンジョンで、あの装備品を探すんですよ」



「Oh!!私も着たいデスネ!」




 グリーシャさんの視線の先には、大剣を地面に刺し、前方をジッと見つめる全身鎧姿の騎士が写っていた。



 その視線に気づいたのか、小さな騎士はこちらを振り返りこう言ったんだ。



「蓮じゃん!あんたも参加するのね!!」



 と。






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