60 小さな騎士王
――君、奴隷なの?やめた方がいいよ。
ダンジョン攻略部隊に応募した俺に向かって放たれた、自衛官の心無い言葉。
いつもの俺だったら、物怖じして引き下がったかもしれない……でも今は違う。
ダンジョンの化け物も、王である鮫島だって倒したんだ。心の余裕はあるさ。
「俺、普通の奴隷じゃないですから」
俺の自信に満ちた言葉に対して、自衛官は疑念の眼差しを向けた。
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受付の前に立つ俺と自衛官……俺の発言は予想外だったのだろう、自衛官は苦い顔を見せた後ゆっくりと口を開けた。
少しダルそうに頭を掻きながら。
「本当は奴隷や商人が来たら、追い返せって言われてたんだけどな」
「……けどな?…」
「いいよ。今回は特別だ。貴重な王も、今回のダンジョン攻略部隊に応募しているんだ。彼女に感謝しろよ」
「―――え――」
自衛官の言葉に俺は動揺してしまった。
王で女性といったら……彼女しかいないじゃないか。
幼馴染の氷華が、俺とグリーシャさんに加わってダンジョンに突入するのか……
いや、まだ氷華と決まったわけではないが。
この地区に存在する王など彼女以外にいないのではないか。
奴隷と同じく、王は特殊な【職業】。
自衛官もさっき言ってたけど王は、貴重な存在なんだよな。
奴隷も貴重な部類には入るだろうけど……
俺がそんな風に考えて首を傾けていると、自衛官の方から声をかけてきた。
「ほら。君と商人の班は第1班だ……グラウンドに石灰で『1』と書いてあるはずだから、自分達で探してくれ」
「分かりました」
雑な対応だ……手をシッシッと降って、まるでこちらを追い払うかのような動作を取っている。
少々イラつきはしたが、まぁいい。
ダンジョン攻略部隊に応募する事は出来たわけなんだから。
気を取り直して自衛官に一礼をすると俺は振り向いて、グリーシャさんの元に駆け寄った。
対する彼女は心配そうにこちらを見つめているけど…キチンと受付処理できたのか心配しているのだろう。
手を合わせてこちらに顔を近づかせている。
「ジャパニーズ……どうデシタカ?」
「安心して下さい。受付、ちゃんと出来ましたよ」
「Oh!!ありがとデース!」
【ムニュ】
「ちょ、ちょっとグリーシャさん!!」
グリーシャさんは、相当喜んでるみたいだ。
喜びのあまり俺に抱きついてきた……柔らかい感覚が伝わってくる。
全く……外国人は体で感情を表現するって、どこかで聞いたけど本当みたいだな。
それにしても。
か……火憐のとは全然違う……大きい………
急な出来事に、鼻血が出そうになってしまったよ。
慌てて片手で鼻をつまんで残った手でグリーシャさんの肩を掴んで引き離した。危なかったよ。
後もう少しで、鼻血が出るところだった。
急に引き離されたグリーシャさんは、驚いた様子で俺に話しかけてきたよ。
鼻を手でつまんでいる俺に向かってね。
「私、においマスカ?」
「ははは。違いますよ、これは鼻水を止めるためにやってるだけですから」
「そ……そうデスカ」
「あっ!言い忘れてましたけど俺達、同じ班になりました。よろしくお願いします」
「嬉しいデース!!ジャパニーズの名前はなんて言うんデスカ?」
「俺の名前ですか?……市谷 蓮です」
「市谷!!よろしくデース!」
「ははは……あっ、俺達は1班って言われたので、その場所に移動しなきゃならないみたいです。付いてきて下さい」
「ハーイ!かしこまりマシタ!!」
俺が歩き始めると、グリーシャさんはスキップしながら後を付いてくる。
本当に元気な人なんだなって事が伝わってくるよ。
ただ俺も、よそ見しているわけにはいかない。
1と書かれている位置に行かなければならないからな。恐らく、そこに王がいるんだろうけど……
普通なら、その1と書かれている地面を探すために下を向くだろう。
しかし俺は違う。
俺は、下を見ずにただ辺りを眺めているんだ。氷華が待っているとしたらすぐに見つける事が出来るからな。
氷華は、全身鎧に身を包んで来ているはずだから。
ダンジョンで装備していたあの鎧を。
案の定、しばらく歩くと全身鎧姿の小さな騎士を見つけたよ。
もちろん、俺だけじゃない。
グリーシャさんも気づいたようだ。
「市谷。あれはコスプレデスカ?」
「あはははは。そう見えますよね、でも、違うんです……俺達もダンジョンで、あの装備品を探すんですよ」
「Oh!!私も着たいデスネ!」
グリーシャさんの視線の先には、大剣を地面に刺し、前方をジッと見つめる全身鎧姿の騎士が写っていた。
その視線に気づいたのか、小さな騎士はこちらを振り返りこう言ったんだ。
「蓮じゃん!あんたも参加するのね!!」
と。




