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06 二人の【王】


――蓮は【奴隷(スレイヴ)】だぞ!



 山中に響き渡る鮫島の声。

 そう。鮫島のやつ……氷華の目の前で………俺が『奴隷(スレイヴ)』だっていう事をバラしたんだ。

 


 ■□■□■□




「終わった……」



 顔が徐々に崩れてゆくのが分かる。

 それと同時に身体が地面へ崩れ落ちていく……立つ事が出来ないんだ。



  職業が【奴隷(スレイヴ)】.という事実がバレてしまったのだから……仕方ないだろう?



 俺は、ずっと地面を見ていた。



 怖くて氷華の方を見る事ができない。

 あいつは今、どんな顔をしているだろうか?



 騙されたことに怒り、眉間にしわを寄せてこちらを睨んでいるのか。

 それとも『奴隷(スレイヴ)』と聞いて、憐れみの目でこちらを見ているのか。



 どちらにせよ……今までの関係を続けることは出来ないだろう。



 ――俺は、目の前が真っ暗になった。



 憎しみの黒色だ。



 鮫島め……俺の人生で唯一の楽しみだったんだぞ。

 氷華と話す事が……唯一の……



「ゔぅ……」



 俺は誰にも聞こえない大きさで泣いた。

 顔を下に向けたまま、片手で涙に濡れた顔を(こす)る。




「何よそれ……」



 (かす)かに聞こえる彼女の声。

 だけど……俺が思っているほど、氷華は薄情じゃなかったんだ。



 俺は地面に顔を向けていたので彼女の表情は分からない……けど大きく張り上げた声は聞こえた。



 それは、俺に対する軽蔑(けいべつ)ではなく……鮫島に対する怒りの咆哮だったんだ。





「……そんなの…………知ってるわよ!」



 彼女も鮫島と負けないくらい大きい。

 山中に響き渡る音だ。



 鮫島も突然の反撃に顔を歪めて驚いているようだが、1番驚いたのは俺だった。



 俺は顔をすぐさま上げて彼女の表情を確認したよ。

 本当に氷華が言った言葉なのかって。



 俺が嘘ついてた事知ってたのか……



 氷華の視線は、鮫島を睨みつけていた。

 あんな怖い表情を俺は見た事がない。



 対する鮫島は、顔を歪めながら首を傾げていた。

 まるで、氷華が嘘をついていると言わんばかりの口調で話しだしたんだ。



「なんで蓮の職業が分かるんだ……他人のステータスを見る魔法は、【(キング)】にしか与えられてないんじゃねえのか?」

「………簡単よ。私、【(キング)】だから」




 そう言うと氷華は、自身の胸に手を置いてステータスを空中に表示させた。



―――――――――――――――――――――――

 ●基本ステータス

 ・名前…安藤氷華

 ・性別…女

 ・年齢…17歳


 ●能力ステータス

 ・Lv.1

 ・職業→『(キング)

 ・魔法攻撃→『8000』

 ・物理攻撃→『1000』

 ・魔法防御→『9000』

 ・物理防御→『6800』

 ・知力→『9000』

  ↓↓↓↓↓ ―――――――――――――――――――――――



 氷華の職業にはしっかりと【(キング)】と記されていた。



 俺はそれを見て驚いたよ。

 登校中に教えてもらったとは言っても、直接見るのは初めてだからね。



 でも、驚いているのは俺だけじゃなかった。

 松尾も鮫島も驚いている様子だ。




「おいおいマジかよ。()()()(キング)』か……ここで一戦しとくか?」

「……いやいいわ。ダンジョンの方が優先だからね」



「あと!! 私達が先にダンジョンを攻略する。そして、安全にしておくから」

「ふん! 好きにしろ」






 氷華達は再びダンジョン内へと入ろうとしたが、氷華だけは俺の方を振り向いて叫んだ。




「蓮〜! 何で朝、嘘ついたの! また明日聞くからね」



 その元気な声で、俺の気持ちは軽くなっていった。



 なんだ……氷華は、俺が『奴隷(スレイヴ)』でも全く気にしないじゃないかって。




「分かったよ!!」

「そう……じゃあ、またね!」



 俺の声を聞いた氷華は、ホッとした表情をみせて再びダンジョンへと進んでいった。




 ――ダンジョンの中へと。




 ■□■□■□



 そして、その10分後に鮫島、松尾、俺の3人がダンジョンへと挑戦する事になる。



 意気揚々で乗り込む鮫島達だったが、この時はまだ誰も知らない。

 通常の『(キング)』ですら、ダンジョン攻略には全くの力不足であるということを。


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