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55 夢会談

 

 鮫島を倒した後、俺は意識を失ったんだ。

 戦闘後すぐにじゃないよ、火憐に松葉杖で叩かれた事がキッカケでね。



 でも……ただの気絶じゃなかった。

 気がついたら俺の目の前に………




 ――ダンフォールさんがいた。



 しかも……彼は王の姿をしていたんだ。



 一体なにが起こっている?いや、目の前のダンフォールさんだけじゃない。

 この場所はどこなんだ?……



 俺が今いる空間……そこには数メートルもあろうかという長方形型のテーブルに、豪華な椅子。

 しかも周りには金銀財宝が散らばっている。



 目が醒めると、俺はその豪華な椅子に座っていたんだ。

 状況が理解できない俺は、そのままゆっくりと辺りを見回した。



 まるで……何処かの国にある王様の宮殿じゃないか、ってくらいの豪華な室内であったのを覚えている。




 ■□■□■□




 俺が困惑の表情を浮かべながら、ここはどこ?、と声を発したらダンフォールさんは答えてくれた。




 ――少年の意識の深淵じゃよ、と。




 でもさ。そんなの答えになってないじゃないか。

 意味が分からないよ。



 要するにここは、俺の夢だって事なのか?……じゃあ目の前にいるダンフォールさんは本物か?……



 俺は目の前のテーブルを見つめて目を泳がせていた。

 要するに、混乱しているのだ。



 じっとテーブルを見つめて、早く目が覚めないかな、と考えているとダンフォールさんが声をかけてきた。




「少年よ。驚いておるようじゃな」

「当たり前ですよ!」



「ははは。すまんのぅ……これでも飲んで落ち着いてくれ」




【カチャッ】



 ダンフォールさんがこちらに手を向けると、俺の目の前に紅茶の入ったティーカップが現れた。

 もちろん、高級そうなティーカップである。



「遠慮せずに飲んでくれ」

「じゃ……じゃあ…」



【ズズ…】



 俺は差し出された飲み物を飲んでみた。



 毒でもあるまいし、まぁいいかなと。



 軽率な判断だと注意されるかもしれないが、ここは俺の夢の中だろ?

 なら、何の問題もないじゃないか。

 夢の出来事で死ぬわけないからな。




 俺は半分ほど飲み終えると、テーブルの上にティーカップを置いて会話を続けた。




「ダンフォールさん……その姿はなんですか?」

「想像もつかないだろうな……儂は『奴隷(スレイヴ)』という職業でありながら1国の王じゃった……」



「え……何で王になれたんですか……」

「……まぁ待て。この話は長くなる。今は少年を呼び出した理由について話したいのじゃ」



「呼び出した…この場所に?……」

「そうじゃ。この場所は以前、儂が暮らしておった宮殿をイメージしておる。話すのにはもってこいじゃろ?」



「雰囲気は出ますね。で、なぜ俺を呼び出したんですか?」

「実はな……儂の意識が、以前よりもハッキリとしているんじゃ」



「ん?……それだけですか?」

「いや、これは重要な事じゃ。この世界と儂のいた世界……ゲーム世界とが完全に混ざりつつあるという事だと思っての」



「混ざり合ったら、どうなるんですか」

「それはな少年よ……ダンジョンから化物達が出てくるという事じゃ……儂のいた世界では、毎日のように村が襲われていた」



「そんな……化物が街を襲うって……」

「だからな少年よ。主にはダンジョン攻略を勧めるのじゃ。――以前、石黒大将が言っておったダンジョンの封印……無謀とは思うがやるしかない」



「ダンジョンを封印……ですか?………」

「そうじゃな……」



「…………」

「…………」



 俺とダンフォールさんの間に、(しば)しの沈黙が訪れた。



 想像もしていなかった提案。

 俺は、以前のダンジョンでの出来事について思い返していた。



 何回死ぬと思ったか……数え切れないほど、死を覚悟したんだ。

 正直、もう二度とダンジョンには入りたくないと思っていた。



 ――でも



 俺はテーブルの上に肘を乗せてから拳を握り、それを見つめる。

 鮫島との戦闘を思い返していたんだ。




 (キング)をも圧倒する俺のスキル……この力なら、化け物からみんなを守れるかもしれない。




「ダンフォールさん……」

「覚悟を決めたか?」



「はい……俺……ダンジョンの封印に協力します」

「……そうか。勧めた儂が言うのもおかしな事だが、なぜじゃ。――化け物達の恐ろしさは身に染みているじゃろう?」



「だからこそですよ……あんな思いをするのは俺達だけでいい。――化け物達(あいつら)は外に出しちゃダメだ」

「ははは!そうじゃな」



「え?……」

「いや、すまんのう。愚問じゃった!――ささ!!残りの紅茶も飲んでくれ、冷めてしまうからな」



「あ……ありがとうございます」





【カチャ……】



 俺は会話を中断してティーカップに手を伸ばした。



 ダンフォールさん……紅茶が冷めてしまうって思うなら、もう少し早く(うなが)して欲しかったです。



 伸ばした手から伝わってきたんだ。

 紅茶の生温い温度が。



 俺はぬるくなった紅茶見つめて……一気に飲み干した。

 残すなんて失礼だし、ゆっくりと飲んでもいられないしな。



 そして、俺はダンフォールさんの顔を再び見つめたんだ。




「もうそろそろ、意識を戻してもらえませんか?」

「ん?………ははは……突然、呼び出してすまなかったな。では、さらばだ少年よ」




 ダンフォールさんの言葉が終わると視界が徐々に白くなっていった。



 そのぼやけた視界でも分かる。

 ダンフォールさんは、険しい表情でこちらを見ていたのだ。



 ――まるで、これから先の悲劇を予想するかのように。 



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