55 夢会談
鮫島を倒した後、俺は意識を失ったんだ。
戦闘後すぐにじゃないよ、火憐に松葉杖で叩かれた事がキッカケでね。
でも……ただの気絶じゃなかった。
気がついたら俺の目の前に………
――ダンフォールさんがいた。
しかも……彼は王の姿をしていたんだ。
一体なにが起こっている?いや、目の前のダンフォールさんだけじゃない。
この場所はどこなんだ?……
俺が今いる空間……そこには数メートルもあろうかという長方形型のテーブルに、豪華な椅子。
しかも周りには金銀財宝が散らばっている。
目が醒めると、俺はその豪華な椅子に座っていたんだ。
状況が理解できない俺は、そのままゆっくりと辺りを見回した。
まるで……何処かの国にある王様の宮殿じゃないか、ってくらいの豪華な室内であったのを覚えている。
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俺が困惑の表情を浮かべながら、ここはどこ?、と声を発したらダンフォールさんは答えてくれた。
――少年の意識の深淵じゃよ、と。
でもさ。そんなの答えになってないじゃないか。
意味が分からないよ。
要するにここは、俺の夢だって事なのか?……じゃあ目の前にいるダンフォールさんは本物か?……
俺は目の前のテーブルを見つめて目を泳がせていた。
要するに、混乱しているのだ。
じっとテーブルを見つめて、早く目が覚めないかな、と考えているとダンフォールさんが声をかけてきた。
「少年よ。驚いておるようじゃな」
「当たり前ですよ!」
「ははは。すまんのぅ……これでも飲んで落ち着いてくれ」
【カチャッ】
ダンフォールさんがこちらに手を向けると、俺の目の前に紅茶の入ったティーカップが現れた。
もちろん、高級そうなティーカップである。
「遠慮せずに飲んでくれ」
「じゃ……じゃあ…」
【ズズ…】
俺は差し出された飲み物を飲んでみた。
毒でもあるまいし、まぁいいかなと。
軽率な判断だと注意されるかもしれないが、ここは俺の夢の中だろ?
なら、何の問題もないじゃないか。
夢の出来事で死ぬわけないからな。
俺は半分ほど飲み終えると、テーブルの上にティーカップを置いて会話を続けた。
「ダンフォールさん……その姿はなんですか?」
「想像もつかないだろうな……儂は『奴隷』という職業でありながら1国の王じゃった……」
「え……何で王になれたんですか……」
「……まぁ待て。この話は長くなる。今は少年を呼び出した理由について話したいのじゃ」
「呼び出した…この場所に?……」
「そうじゃ。この場所は以前、儂が暮らしておった宮殿をイメージしておる。話すのにはもってこいじゃろ?」
「雰囲気は出ますね。で、なぜ俺を呼び出したんですか?」
「実はな……儂の意識が、以前よりもハッキリとしているんじゃ」
「ん?……それだけですか?」
「いや、これは重要な事じゃ。この世界と儂のいた世界……ゲーム世界とが完全に混ざりつつあるという事だと思っての」
「混ざり合ったら、どうなるんですか」
「それはな少年よ……ダンジョンから化物達が出てくるという事じゃ……儂のいた世界では、毎日のように村が襲われていた」
「そんな……化物が街を襲うって……」
「だからな少年よ。主にはダンジョン攻略を勧めるのじゃ。――以前、石黒大将が言っておったダンジョンの封印……無謀とは思うがやるしかない」
「ダンジョンを封印……ですか?………」
「そうじゃな……」
「…………」
「…………」
俺とダンフォールさんの間に、暫しの沈黙が訪れた。
想像もしていなかった提案。
俺は、以前のダンジョンでの出来事について思い返していた。
何回死ぬと思ったか……数え切れないほど、死を覚悟したんだ。
正直、もう二度とダンジョンには入りたくないと思っていた。
――でも
俺はテーブルの上に肘を乗せてから拳を握り、それを見つめる。
鮫島との戦闘を思い返していたんだ。
王をも圧倒する俺のスキル……この力なら、化け物からみんなを守れるかもしれない。
「ダンフォールさん……」
「覚悟を決めたか?」
「はい……俺……ダンジョンの封印に協力します」
「……そうか。勧めた儂が言うのもおかしな事だが、なぜじゃ。――化け物達の恐ろしさは身に染みているじゃろう?」
「だからこそですよ……あんな思いをするのは俺達だけでいい。――化け物達は外に出しちゃダメだ」
「ははは!そうじゃな」
「え?……」
「いや、すまんのう。愚問じゃった!――ささ!!残りの紅茶も飲んでくれ、冷めてしまうからな」
「あ……ありがとうございます」
【カチャ……】
俺は会話を中断してティーカップに手を伸ばした。
ダンフォールさん……紅茶が冷めてしまうって思うなら、もう少し早く促して欲しかったです。
伸ばした手から伝わってきたんだ。
紅茶の生温い温度が。
俺はぬるくなった紅茶見つめて……一気に飲み干した。
残すなんて失礼だし、ゆっくりと飲んでもいられないしな。
そして、俺はダンフォールさんの顔を再び見つめたんだ。
「もうそろそろ、意識を戻してもらえませんか?」
「ん?………ははは……突然、呼び出してすまなかったな。では、さらばだ少年よ」
ダンフォールさんの言葉が終わると視界が徐々に白くなっていった。
そのぼやけた視界でも分かる。
ダンフォールさんは、険しい表情でこちらを見ていたのだ。
――まるで、これから先の悲劇を予想するかのように。




