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53 深淵もまた、こちらに手を伸ばす

 


王の裁定(ジャッジメント)』が発動して、俺のHPは0になった………はずだった。

 しかしまだ生きている………その現実を鮫島は受け入れられない様子だ。顔を震わせながら、一歩…また一歩と後ろに下がっていく。



 ―――まるで、幽霊でも見ているかのように




「何で………何で生きてるんだよぉ!!」

「儂が生きていると、不都合な事でもあるのか?―――それに、お主の好きな戦闘が続けられてよいじゃろ」


「……お…俺は、戦闘が好きなわけじゃない…」

「ほぉ…それは困ったなぁ。お主には、永遠に戦い続けてもらおうと思っとるのに」


「な……何言ってるんだよ。蓮君……俺達、友達じゃねぇか」

「怖いのか?」


「…こここ…怖くなんかねぇよ………てかお前、また喋り方おかしくなってねぇか?…いい医者を紹介してやるからよ」

「ははは…いらぬ心配じゃ……では、もうそろそろ参るか……」



 ダンフォールさんはそう言うと、目を瞑って呟いたんだ。『呪怨』って……


 するとドス黒い霧が、俺の右手を覆うように集まってきた。

 前に俺が使った『呪怨』とは別の種類なのだろうか?…あの時は敵全体を黒い霧で囲んで終わりだったはずだ。



 それに、今回は使用するMPの値が多い。前は250消費したがダンフォールさんは今回、1000消費している。

 機械音が教えてくれたんだ。



〈プレイヤー『蓮』は『呪怨』を発動いたしましたので、MPを1000消費します〉



 もちろん、この機械音は鮫島にも聞こえているはずだ。顔を青くしながら俺に向かって話しかけてきたよ。助けてくれって……

 全く……自分勝手すぎるだろう。流石の俺も怒りの感情が湧いてきたよ。



「今回も装備を破壊するだけだよなぁ!……なぁ!!!」

「おめでたい奴じゃ。前回のが最期のチャンス……今回は直接いかせてもらうぞ」



【ガッ!!!】



 ダンフォールさんが勢いよく前に飛び出すと、そのまま黒いオーラを纏った右手で鮫島の頭を鷲掴みした。


 鮫島は、ただ目を開けて固まっているだけで抵抗しない。

 体が動かないのだ。


「な…なんだこれ?……体が動かねぇ」

「『呪怨』が発動されたからじゃよ。しかもこれは、特別じゃ」


「なんだよ特別って」

「…知らない方がよい………」


 ダンフォールさんの声には、憐れみの感情が含まれていたと思う。静かに呟いたんだ。

 すまぬ、って………



 その瞬間、轟音とともに鮫島の後ろから大きな門が出現した。

 扉を支える両翼の柱は人間の骨で作られており、扉は真っ黒な霧が集まって形作られている。



【ギィィィィィィ……】



 扉がゆっくりと開かれるとそこには何も無い。ただの暗闇があった……光すらない深淵の空間が。

 そして、それを確認するとダンフォールさんは静かな言葉で唱えた。



「『呪怨……異次元への扉(ニュー・ゲート)』発動……亡者達よ。この者を深淵へと連れて行け……」



 ダンフォールさんの言葉に反応したのは鮫島ではなく、機械音だった。

 いつものような淡々とした口調ではなく、甲高い化け物のような声で高笑いをしている。

 気持ち悪い……亡霊の叫び声みたいだったよ。



〈キャハハハハハハ!!!〉



 その機械音を聞いている鮫島の顔は、白くなっていく。

 恐怖で声も出せずに、鮫島は俺の顔を見つめて、これからどうするつもりだって訴えかけているようだ。



 ――でも、俺には、どうなるかなんて分からない。



 ダンフォールさんも無言で鮫島の頭を掴んだままだ。異様な光景……異様な状況……それを目の前にして、クラスメイト達の中には気絶して倒れる者もいた。



 まぁ……俺がクラスメイトの立場なら気絶するかな。



 機械音の笑い声がした後、門の中から真っ黒な長い手が大量に伸びてきたんだ。

 その手が鮫島の肩、腕、足、腰などを一つ一つ掴んでいく。


 この時には、鮫島は涙を流していた。これが、単なる恐怖から来るモノなのか。それともこれまでの事への後悔なのかは分からない。



 ただ分かる事は、鮫島が門の中へ……深淵の中へとゆっくり引きずられているという事実だけだ。

 門から伸びる黒い手は、ジリジリ…と、着実に鮫島を深淵へと引きずり込んでいる。



 それを見ながらダンフォールさんは鮫島に語りかけていた。鮫島の頭から右手を外して―――よく見ると、右手にあった黒い霧が全て、鮫島の顔全体に移っていた。



 恐らく、この霧によって幻術にかかったのだろう。

 鮫島の発言がおかしくなっていた。



「鮫島と名乗る者よ。まだ聞こえておるか?……」

「――はっ!何だよ。驚かせやがって。普通に戦闘が続いているだけじゃねぇか―」


「――あぁ、そうだな―――せいぜい戦いを楽しめ」

「何言ってんだよ。お前をさっさと殺してやるよぉ!!」



 鮫島がそういいながら指をさす場所に、俺はいない。いや、そもそも現実が見えるわけないのだ。

 真っ黒な霧が顔全体に(まと)わり付いているのだから。



 哀れな鮫島はゆっくりと門の中……深淵へと引きずり込まれ―――遂に体全体が入ると門がゆっくりと閉まった。




【ギィィィ……バタンッッ】




 門が完全に閉まりきった。鮫島の声はもう聞こえない…静かな空間がそこにはあったんだ。



 やっと、終わった……そう思いながら門を見つめていると、徐々に門が消えていく。薄っすらと透明になっていくんだ、まるで、そんな物無かったみたいに。

 門が完全に消滅すると……虚無感が襲ってきた。悲しくも罪悪感も無いのに何でだろう。



 虐めっ子を倒したって事実に、達成感でも感じているんだろうか………そう思っていると機械音が鳴り響いた。



 そうだ、まだ戦闘終了の言葉は聞いていなかった。



 俺は機械音に集中したよ。鮫島が、どうなるのか分かるかもしれないって思ってさ。



 それで分かったんだ、鮫島がどうなったのか。

 彼は……存在自体が無かった事になるらしい………




〈プレイヤー『鮫島』が消滅したため、戦闘を強制終了いたします〉


〈なお、この世界から消滅した『鮫島』のデータは、『消去(デリート)』されます〉










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