52 最期のターン
――目の前には、満面の笑みを浮かべる鮫島がいる。
俺を殺せると確信しているのだろう。笑顔のまま話しかけてきた。
でも残念、目の前にいるのは俺じゃ無い。俺の体を操るダンフォールさんなのだから。
「奴隷、最期に言い残すことは無いかぁ?」
「―――それは、儂のセリフじゃ――」
「あぁ?お前また喋り方おかしくなってんなぁ」
「元からこの喋り方じゃよ………」
「―――――まぁ、いいや!どうせお前はすぐに死ぬんだからな!!ははははははは」
「…哀れな王よ………」
「はぁ!負け惜しみのつもりか?…お前は今から死ぬんだよぉ!その首吊り台でな!!」
「――――――――」
鮫島が指した先には、首吊り台があった。
木で作られた首吊り台、……ギィギィとした不愉快な音をたてているそれは、教室の高さギリギリの大きさで作りは簡素であり、てっぺんには輪っか状のロープが括り付けられている。
俺の首を縛るためのモノだ。
これで首を吊られるのか…そう思いながら見ていると機械音が聞こえた。
どうやら鮫島の3ターン目が、終わったらしい。
『王の裁定』の発動を告げる。
〈『鮫島』のターンが3回終了しましたので『王の裁定』を発動いたします〉
【ギィィィ…】
機械音の後はすぐだった。
首吊り台の上部が、ゆっくりと折れ曲り俺の首にロープをかける。
正直、意識だけの俺にとってロープの感触は感じない。ただ自分の首にロープがかかっている光景を見ているだけだ。
一方、そんな俺とは違ってダンフォールさんは鮫島に声をかけていた。まるで『王の裁定』など取るに足らない……そう言わんばかりの態度だ。
「――鮫島よ――後悔はないのじゃな?―――」
「何を今更……後悔なんてした事ねぇよ!!」
「――そうか。分かった」
「気持ち悪いな!変な質問しやがって!お前は、今から死ぬの!!そんな事聞いてどうするの?…ははははは」
「――――――」
教室内に響き渡る鮫島の笑い声と、首吊り台のしなる音。まるで中世の処刑シーンのようだ。
いや、観客役のクラスメイト達は歓喜の声などあげていないから、中世の処刑シーンと多少は異なるか。
まぁ……後ろにいる火憐に至っては、心配そうな顔をしてこっちを見てたからな。今にも泣きそうな顔で。
各々(おのおの)が様々な感情で、首吊り台を見つめる中………遂に刑が執行された。
あれは本当に一瞬だった…って思うよ。
【ギィィィィィィィィ……ガッ!!!!】
首吊り台の上部が勢いよく上がり、固定される。
気づいたら―――俺の体は宙に浮いていた。それに、勢いよく上がったせいで、まるで振り子のようにブラブラと左右に揺れている。
――しかし
それでもなお、俺の意識はしっかりとあった。火憐の鳴き声と、クラスメイト達の悲鳴、鮫島の笑い声がちゃんと聞こえたんだ。
鮫島に至っては、俺を指差しながら火憐に向かってこう言ってたよ。
「お前の王子様を……てるてる坊主にしてやったぞ!!」って。
それを聞いた火憐は、大声をあげて泣き出していたね。机に顔を伏せて。
そんな姿を見るとすぐにでも、大丈夫!って叫びたくなるんだけど、ダンフォールさんは体をロープに任せて、本当に死んだような事するんだから。全く………
でも、しょうがないんだけどね……力が出ないんだよ、きっと。俺にも見えたんだ。首吊り台が動く前に、ダンフォールさんがスキルを発動していた所が。
『HP』を全て、『知力』に移していた瞬間がね。
要するに、ダンフォールさんは自分から仮死状態を作り出して、『王の裁定』が終わったらすぐにHPを戻すつもりだったんだ。
実際、機械音が話し終わった瞬間に、ダンフォールさんはスキルを発動していたよ。
〈『王の裁定』の効果により、『蓮』のHPを0にしました〉
【……ALL CHANGE…発動いたします】
【『知力』を全て『HP』に移動させます】
機械音が終わると同時に、首吊り台が消える……本来ならそのまま俺は、力なく床に叩きつけられるはずなんだけど………死んでないからね。
ダンフォールさんはしっかりと着地したよ。
鮫島を睨みながらね。
「やっと終わったか……」
「お、お前……何で生きてんだよ」
驚く鮫島、ざわつくクラスメイト達………火憐は……机に顔を伏せたまま泣いていた。
一言で言うとみんな驚いていたよ。鮫島に至っては俺の事を幽霊を見ているみたいに、怖がっていたんだ。
後ずさりしながらね。
そんな中でダンフォールさんは、話しかけてきた。最終確認ってやつかな……鮫島を地獄に落とす為の。
(少年よ……いいな?…)
(はい……鮫島君には永遠に戦い続けてもらおうと…)
(殺してやった方が楽かもしれんぞ…)
(いや、いいです。死なないなら……俺は…鮫島君に後悔をしてもらいたいんです)
(なるほど…少年は恐ろしいな……『呪怨』を使えば、何千ターン、何万ターンと繰り返すのじゃよ。幻の相手との戦闘を)
(………そうなんですか……でも、単に死んで終わりじゃ……ダメな気がするんです…)
(少年……鮫島は『呪怨』にかけられている間は永遠に、死ねなくなるんじゃよ…)
(―――――――)
(……ふっ、まぁよい)
ダンフォールさんの微かな笑い声の後、いつものあの画面が目の前に現れる。
〈コマンドを選択してください〉
――――――――――――――――――――――――――
選択時間:1分
→ ●戦う
●逃げる ――――――――――――――――――――――――――
―この画面を見るのがこれで最後になるなんて…この時は思いもしなかった。




