51 戦いを止める方法
鮫島が『拒絶』―――つまり、ゲームの続行を選んだ。
土下座のような事までして、俺に許しを請うたのに…反省などしていなかった。
俺はダンジョンの時と同じく………
―――裏切られたのだ
この鮫島のターンが終われば『王の裁定』が発動され……俺のHPは0になるらしい。
鮫島は、時間稼ぎの為に……俺が『攻撃する』を選択しないように、土下座までして反省するフリをしていたのだ。
ショックだったよ。
俺を虐めていた事も謝ってくれたけど………あれは全部嘘だったんだ。
それに……人を信じる事が、虐められる理由なんだよってバカにされたよ。学習能力がないってね。
目の前にいる鮫島は爽やかな笑顔で、語りかけてきた。罪悪感のカケラもない軽い口調で。
「蓮!お前は本当にお人好しだな」
「――――――――」
「無視か?…ははは。お人好しらしく、そこは笑って返してくれよ。そんな中途半端だから虐められるんだぞ?」
「――――――――」
「おいおい。まだ無視かよ。いいのか?…後ろにいる松尾に別れの言葉を言わないと。最期の挨拶だぞ?……ごめんなぁ!松尾!王子様を殺しちまうわ!!」
「―――鮫島君――嘘だったの?―」
「やっと喋ったか。嘘って何の事だ」
「さっき……虐められている者の気持ちが分かったって……」
「あぁ。あれ?……嘘だよぉ!分かるわけねぇだろ!虫ケラの気持ちなんてよお!!―――お前何考えてんだ。俺は王で、お前は奴隷!!!気持ちなんか、分かり合えるわけねぇだろ!」
「――そっか―」
「なんだよその返事。まぁ、いい。そう落ち込むな、王の施しを与えよう。この60秒間はお前にくれてやる―――コマンドを選択せずに待ってやるよ。感謝しろ」
「―――――――」
鮫島は本当に変わらないな――そう思いながら、俺は後ろを振り向いて歩いた。
さっきから聞こえている、すすり泣く声の元に近づいために。
勿論……すすり泣く声の持ち主は火憐だ。
鮫島と俺の雰囲気や、3ターンが経っている事から俺が死ぬと思い込んでいるんだろう。最初のターンで彼女に説明したからな。
『王の裁定』について少しだけ。
俺は、机にうつ伏せになって泣いている火憐に話しかけた。ゆっくりと優しい口調で。
「火憐……大丈夫だよ。俺は死なないから」
「何が大丈夫なのよ………」
「信じてくれ。後で詳しく説明するからさ」
「……いつもよ。後で、後でって」
「ごめん。でも信じてくれ」
「――――――」
火憐は最後まで、顔を机に伏せたままだった。泣いている所を見られたくないのだろうか。
クラスメイト達が教室にいっぱいいるからな。
仕方ない……そう思いながら火憐に背を向けて歩き始めた、その時だった。
「―――絶対に後で、説明しなさいよ」
「――――うん―」
火憐の言葉に対して、俺は振り向かなかった。鮫島をじっと見つめたまま心を落ち着かせていたんだ。
ダンフォールさんが大丈夫って言っても、HPが0になるって聞かされると怖いからね。
目を瞑って深呼吸をしていると鮫島の方から声をかけてきたよ。もう時間だぞって。
けど、彼の挑発に疲れていたから無視した。ここまで来ると鬱陶しいんだ。
「蓮。最期のお別れは済んだか?お姫様とのよぉ!」
「―――――」
それに……ダンフォールさんと意識を交換するつもりだったからね。
(ダンフォールさん……)
(もう、時間か………少年よ。意識を代わろう)
(お願いします……あと、聞きたいことがあるんですが)
(何じゃ?)
(『王の裁定』を防ぎきったとして…どうするんですか。鮫島は戦闘をやめないと思いますよ…)
(分かっておる。少々、手荒からも知れぬが……)
――鮫島という人物には、地獄を見てもらおう
(………え?……それは、どういう)
(安心するのじゃ。殺しはせんよ。それに……戦闘も終わらせるからの)
そう言うとダンフォールさんは、俺の体を操ってスキルを発動させたんだ。
【……ALL CHANGE…】
【………発動します…】
【…HPの値からMPに1000移動します……】
それを聞いて俺は思ったよ。
ダンフォールさんは………相手に幻を見せて戦闘を強制終了させる魔法………『呪怨』を鮫島に使う気だって。
鮫島を、幻の俺と永遠に戦わせる気なんだって………
ちなみに『呪怨』は、21話で使用しました。




