48 醜い虚勢
マントが粉々に砕けて消え……その場に座り込む鮫島、何が起きたのか分からずに、俺を見つめるクラスメイト達。
教室内は異様な雰囲気に包まれている。
何せ俺も何が起きたのか分からなかったからな。そのくらい意味の分からない状況―――その状況を作ったのはダンフォールさんだ。
ダンフォールさんは鮫島には向かって100万のダメージを与えた………最初は殺すつもりなんだって思ったけど、違ったんだ。
ダンフォールさんは、鮫島の装備を破壊するつもりだったんだと思う。マントを壊した技について自慢気に話しかけてきたから。
(少年よ。どうじゃ?これが技というものじゃ)
(すごいと思います……でも、こうするつもりなら先に行ってくださいよ。鮫島を殺すつもりかと思いましたよ)
(あれ?……技の説明をしとらんかったかの?……)
(してませんよ…)
(そうじゃったか。すまんのう)
(―――――――)
とぼけた喋り方だ。鮫島と話す時とは全く違う温和な雰囲気………こうやって話してみると、優しいお爺さんなんだけどな。たまに説明不足な点を除けば完璧なのに……
俺はそう思いながら溜息をついた。
すると後ろから火憐の声が聞こえる。先程の装備破壊について興味があるのだろう。机に前のめりになって明るい表情をしている。
「蓮!鮫島のマントを壊すなんて凄いじゃない!何したのよ」
「それはな。技を使ったのじゃよ、儂が30年の月日をかけて編み出した……」
「儂?30年?………蓮どうしたのよ…話の喋り方も内容もおかしいよ」
「あっ……ゴホンッ。すまんのう」
(少年よ、もう良いじゃろう。これであやつの戦意は喪失したはずじゃ。代わるぞ)
(分かった。ありがとうダンフォールさん)
俺は意識を外に向ける。自分の体を自分の意思で動かすためだ。そしてそれはすぐに叶った。自分の意思で手を動かせる事を確認すると、火憐を見つめながら話しかける。
といっても、答えになってないんだけどね。
「ごめん火憐!この事は後で詳しく言うから!」
「いつもの蓮に戻ったわね……まぁ、いいわ。待ってるから」
火憐はご機嫌斜めの様だ。口を膨らませて腕を組んでいる…足の方に目をやると足も組んでいた。
鮫島との戦闘を早く終わらせなきゃな……って思いながら鮫島の方向に体を向けたよ。するとどうだろう。
そこにいた鮫島は、戦意を喪失した力無い姿ではなく、無理矢理作った様なニンマリとした笑顔でこちらを睨んでいたよ。
しかも既に立ち上がっている。俺より低い目線にいるのが気に食わないんだろうか、全く……プライドの高い男だ。
鮫島はそのまま俺に向かって吠えた。こちらを指差しながらね。
「ふざけんなよ!どんなイカサマを使ったかは知らねえが……もう許さねぇ」
「イカサマなんか使ってないよ」
「嘘つけ!!どうして奴隷の分際で、王の装備を破壊できるんだよぉ!なぁ!お前らもそう思わねぇか?」
鮫島は、周囲にいるクラスメイト達に目配せをしている。まるで先程見られた自身のみっともない姿を忘れろと言っている様に。
でも残念。クラスメイト達もそこまでバカじゃない……鮫島の言い訳にも似た言動は、冷やかな目で返された。
「鮫島君……イカサマって言ってるけど本当かな?…」
「いや。違うでしょ。どうやってイカサマするのよ」
「それもそうだね。じゃあ、鮫島君の言ってる事って……」
「嘘でしょ…いつも馬鹿にしている蓮に、装備品を壊されたんだもん。恥ずかしくて嘘ついたんだよきっと」
「えぇ〜。鮫島君ダサッ!」
クラスメイト達の鮫島に対する冷たい視線……それは鮫島自身が望んでいたモノとは程遠いモノだろう。
実際に鮫島は怒りを表している。自らを小馬鹿にしながら話している女生徒を指差してこう言った。
「蓮の次は……お前だ…」
「――――――――」
鮫島に指を指された女生徒は、恐怖で体が震えて声が出せなくなってしまったようだ。何も言い返せていない。
いや彼女だけではない。教室内全てが静寂に包まれた。
―――鮫島への恐怖心によって。
その中で1人だけ笑っている鮫島。俺は強いんだ……と言わんばかりに大声を張り上げる。
「ははははは。いいよ見せてやるよ!俺の攻撃をな!3ターン目が終わるまでに、苦しみを味あわせてやる!」
そんな醜い鮫島を見つめながら俺はスキルを発動させた。
【……ALL CHANGE…】
【……発動します】
【HPの値を物理・魔法防御値に100万ずつ移動します……】
スキルを発動させた後、俺はいつのまにか右上に表示されていた画面を発見する。こんな所に表示されていても気付かないだろって位置にあったよ。全く……
そこには、鮫島の魔法【王の裁定】が発動されるまでのターン数が記されていた。
『現在・2ターン目前半、プレイヤー鮫島』
『王の裁定発動まで……後2ターン』




