47 番狂わせ
―――まるで、時が止まったみたいだ。
ダンフォールさんが鮫島に100万のダメージを与えた時……一瞬の間、沈黙がおとずれた。
鮫島の驚く表情と、周囲を囲むクラスメイトの視線、全てが永遠に感じられる。
ダンフォールさんはどんな表情をしていふんだろうな…そう思っているとダンフォールさんが鮫島に向かって話し出したんだ。ゆっくりと冷静に……
「…鮫島よ。期待されて無い者の一撃は、重いか?」
「お前…本当に蓮かよ………」
「答えになっておらんぞ」
「うるせぇ!重いとか軽いとかじゃねぇ!!なんで……なんでお前の攻撃で100万もダメージを受けるんだよぉ!」
冷静なダンフォールさんとは対照的に、鮫島の声は動揺していた。いや、声だけではない。
鮫島は、怒りと驚きでダンフォールさんの胸ぐらを掴んだ。その手は震えている。恐ろしいのだろう…HPが0になった場合どうなるのか……まぁ、死ぬって事は薄々感じているはずだけど。
HPを0にして、俺を殺すって言ってたからね。
俺は、鮫島の恐怖に怯える表情を見ていた。鮫島もこんな表情するんだな…初めて見たよ。いつもの自信に満ちた表情が、ここまで変わるなんて。
クラスメイト達も驚いているんじゃないかな。ほら、今だってザワザワと教室がうるさくなっている。
「ねぇ。今の聞いた?鮫島君が100万のダメージを受けたって」
「嘘でしょ〜。私達を楽しませる為の演技なんじゃ」
「でもさ鮫島君の表情見て。あれが演技に見える?」
「確かに…蓮の胸ぐらまで掴んじゃって。必死だね」
「本当に100万のダメージを受けたんだ……」
「HPが0になったらどうなるんだろうな」
「知らない……死ぬんじゃない?」
「へぇそうなんだ。ま、いいか。私達には関係ないし」
何処からともなく聞こえるクラスメイト達の声。彼ら、彼女らは俺達の戦闘には興味はあるが、俺と鮫島には興味が無いらしいな。
ただの暇潰し感覚で、群がっているようだ。
俺が虐められている時の反応と全く同じ……自分達には関係無いと思って、呑気にお喋りしてる。
まぁ…俺もそっち側だったら同じ様にしてたかもしれないけどさ。
俺はそう思いながら鮫島に視線を移した。するとダンフォールさんが、再び鮫島に語りかけていた。
「儂は少年であって、少年ではないのだよ。落ち着け鮫島よ」
「何言ってんだよ……」
「全く…王ともあろう者が情けない。これからどうやって化物達と戦うつもりだ?」
「これからどうやって……?………ふざけるな!!HPを0にしやがって!俺に未来なんか残されてねぇじゃねぇか!」
「何を言っとる。お主は、まだ死んでおらぬぞ」
「は?お前の方が何言って……」
「……………」
「おい!……まだ話はおわってねぇぞ!……」
ダンフォールさんはそう言って、鮫島の手を払い除けて元いた場所に歩き出した。鮫島の問いに答えずに……
でも大丈夫。代わりに機械音が、ダンフォールさんの言葉の意味を伝えてくれるんだから。
〈『奴隷の邪気』により100万のダメージを『鮫島の防具』へ移動。『胴の装備』を破壊します〉
【パリィン!】
ガラスが砕ける様な音……それが鳴ると、鮫島の装備していたマントは粉々に砕けて消えた。それを見るクラスメイト達や鮫島の表情は笑えたよ。
目と口を大きく開けて固まってんの。まぁ…俺もそれくらいびっくりしたけどさ。
でも、これで分かった。
ダンフォールさんは、最初から鮫島を殺す気なんか無かったんだ。鮫島に力の差を見せつけて、勝負を辞めさせるつもりなんだと思う。
そして…それは実際に上手くいったかな。鮫島は力なく崩れ落ちて、クラスメイトがざわつき出したんだ。
皆んなが驚きの表情で俺を見てる。改めて感じたよ。
俺は期待されてなかったんだなぁって――火憐だけは、笑顔で俺の事を見つめてくれたけどね。
その後に、ダンフォールさんが頭の中にある意識……俺に話しかけてきたんだ。自信に満ちた声で。
全く…最初から説明してくれよって思ったよ。口には出さなかったけど。
でも、やっぱりダンフォールさんの声は落ち着く。安心感があるんだ。
(どうじゃ少年よ。殺さなかったぞ)―――って




