46 期待されない
俺の中にいるダンフォールという老人……彼のステータスを見た時、正直驚いたよ。
Lv.9999って、上限は無いのかよ………
俺は、しばらく言葉を失った。
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●基本ステータス
・名前…ブレイン・ダンフォール
・性別…男
・年齢…100歳
●能力ステータス
・Lv.9999
・職業→『奴隷』
・魔法攻撃→『1000000』
・物理攻撃→『1000000』
・魔法防御→『10』
・物理防御→『10』
・知力→『1』
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こちらが黙っていると、ダンフォールさんの方から声をかけてくる。
何せさっきまで攻撃を止めてくれって、散々騒いでいた奴が急に黙り込んだんだからな。心配もするだろう。
(少年よ。どうした?黙り込んで……儂の技は見なくてよいのか)
(いや、ちがうよダンフォールさん。ステータスを見て驚いていたんだ。Lv.があり得ない数値になってるから)
(あぁ、確かにな。通常はLv.100までが限度のはずじゃからな)
(ダンフォールさんが特別なだけなんですか?)
(正直なところ……儂もよく分かっておらぬのじゃ。『奴隷』という職業自体が珍しいからな。他の『奴隷』にも儂のような奴がおるかもしれん)
(………………)
ダンフォールさんの言葉で、俺はまた黙り込んでしまった。ゲーム化されたこの世界は、まだ何が起こるか分からない。
期待と不安が入り混じったような気持ちだ。
そうやって考えていると、時間が来たようだ。ダンフォールさん……いや、俺の両手が黒いオーラをまとっていた。
恐らく、さっき言っていた技なのだろう。
ダンフォールさんは拳を握りしめて、鮫島の方向を真っ直ぐに見ている。
対する鮫島の方は、余裕があるようにみえた。
『奴隷』如きに何が出来るんだ?……と言わんばかりに顔がニヤついている。
「さっきからどうしたんだよ。奴隷君の攻撃なんかじゃ、俺にかすり傷すらつけられないぞぉ」
「………………」
「無視すんなよ!奴隷が!!」
「……鮫島…儂の攻撃が弱いと言っておるのか?」
「そう言ってんだよ!……誰もお前に何か期待しちゃいない!!周りを見てみろよ」
「ほぅ…なるほどな、儂に期待する者はおらぬか」
俺は、ずっと前から気づいている。鮫島と戦闘が始まってからクラスメイトは、ずっと鮫島を見ていた。
俺が勝つなんて……誰も思っちゃいないんだろう。
こういうのは慣れてるから、良いんだけどさ。文化祭や体育祭、修学旅行だって俺はいつも蚊帳の外……皆から気にかけられた事なんか無かったからな。
いや、でも今回はいつもと少し違う。火憐だけは、最初から俺をずっと見てくれていたな。
一人でも、自分を見てくれる人がいるのは心強い。自信を持って鮫島の目を見つめられるから。
今、鮫島を見つめているのはダンフォールさんなんだけどね………
そして、いよいよ。ダンフォールさんが動いた。
ゆっくりと鮫島の方向に歩いていき、真っ黒なオーラをまとった右拳で思いっきり鮫島の腹部を殴る。
そんなダンフォールさんを俺は止めなかった。いや、止めたかったんだけど諦めたんだ。俺には、そんな力ないから。
鮫島も余裕そうな表情のままだ。まさか、攻撃値が100万あるとは思っていないのだろう。
現実を知らない鮫島とって、機械音が知らせるダメージは、信じ難いモノだった思うよ。
〈プレイヤー『鮫島』に100万のダメージ〉
機械音が響いた瞬間、戦闘中の俺達2人の間にしばらく静寂が起きたんだ。
鮫島は、顔を歪ませて俺を見つめていたよ。
信じられない………って表情でね。




