44 体交換
俺の中に存在する意識……ダンフォールって名乗ってる優しい老人の声。俺のより前に『奴隷』に選ばれた人物みたいなんだ。異世界でね。
そんなダンフォールが、意識を交換できるって言い出すもんだから驚いたよ。
意識を交換―――つまり、体を貸す事ができるだなんて……
混乱している俺に、ダンフォールが話しかけてきた。
(どうした少年よ。何か返事をしておくれ)
(ごめん、でも……意識を交換って、交換している間の俺の意識はどうなるの?)
(あぁ、それはな。今の儂みたいに頭の中に移動するだけじゃよ)
(良かった。消えて無くなるわけじゃないんだね)
(ははは。心配しすぎじゃよ)
(で、俺はどうすればいいの?)
(簡単じゃよ。目をつぶって意識を頭の中へ集中させるんじゃ)
(分かった………)
俺はゆっくりと目をつぶった。頭の中に意識を集中させて……すると、どんどん視界がぼやけてくる。
気づくと外の景色だけ見えるだけで、体は自分の意思で動かせなくなっていたよ。
なんか不思議な感覚だな……
ここにいると、景色がいつもより鮮明に見える気がする。
初めての感覚に俺が言葉を失っていると、ダンフォールの方から声をかけてきた。
(少年よ。目の前の男に、殺さない程度のダメージを与えればよいのじゃな)
(う、うん。そうだよ……)
(分かった。あと一つ聞きたいのじゃが)
(何ですか?ダンフォールさん)
(目の前の男……もしや、『王』か?)
(はい。よく分かりましたね)
(あの装備は、『王』にしか扱えんからな)
(ダンフォールさんって、博識なんですね)
(博識というよりも、儂は一度戦った事があるのじゃよ。あの装備を身につけた人物とな)
(………あなたは一体、何者なんですか?)
(ははは。また後で話すさ。今はコマンドを選択する時間が無いからな)
そう言うと、ダンフォールさん………いや、俺の体は『戦う』のコマンドを選択した。
そして、そのまま鮫島に向かって語りかけたんだ。
「お主……名を何という?」
「はぁ?死ぬのが怖すぎて、頭おかしくなったのか。俺は鮫島だよ!」
「鮫島か…では鮫島殿……お主は、その力で何がしたいのじゃ」
「おい!蓮どうしたんだよ。喋り方おかしくなってねぇか?」
「ははは。この喋り方がおかしいか…そんな事、どうでも良いじゃろ!早く質問に答えぬか」
「あ!?…王の力を使って何がしたいか……そんなの決まってるじゃねぇか。全てを俺のモノにするんだ!」
「全てを自分のモノにする……浅はかな考えの持ち主じゃの」
「うっせえな!奴隷のくせによ。お前は弱いから妬んでるだけだろぉ」
「儂が弱いじゃと?……」
「お、おいどうしたんだよ………」
「…………」
ダンフォールさんは、鮫島が挑発してくると黙り込んでしまった。自分が弱いと馬鹿にされて怒っているのだろうか。
俺が頭の中に語りかけても、反応が無い。
(ダンフォールさん、どうしたんですか?)
(………………)
(ダンフォールさん!)
(………………)
どうしたんだ?…俺の呼びかけを一切無視するなんて。これまで一度も無かったのに……
相当怒っているのか…
そう思った瞬間だった。―――スキルの発動を知らせる文字の羅列が出てきたのは
【…ALL CHANGE……】
【………発動いたします……】
【…HPの値を、物理・魔法攻撃に……それぞれ100万ずつ移動させます】
俺は、それを見て驚いたよ。ダンフォールさんが鮫島を殺す気だって。




