43 意識の交換
鮫島の攻撃……それは単純にダメージを与える技じゃない。時間差で必ず殺せる、一撃必殺の技だったんだ。
あと3ターン後に、俺は死ぬ。こんな技ってありなのか?…俺が言えた立場じゃない事は分かるけどさぁ…
周りにいるクラスメイトもそう思うだろ…って周りを見てみたんだ。皆んなシーンて首吊り台を見ていた。
俺は忘れていたよ。機械音が聞こえるのは戦闘に参加しているプレイヤーだけだってな。
〈『鮫島』のターンが終了いたしました〉
〈コマンドを選択してください〉
おっと…俺のターンが来たようだ。
でも、自分のコマンドを選択する前にしなきゃならない事がある。さっきから火憐がうるさいんだ…何が起こっているの?ってさ。
「蓮!今、どうなってるの?あの首吊り台は何なのよ?」
「大丈夫だよ」
「大丈夫って……いつもそうじゃん…ごまかしてさ…」
「ごまかしてる訳じゃないって、本当に大丈夫だから」
「じゃあ、今の状況を説明してよ」
「………」
俺は応えられなかった。火憐を心配させたくなかったんだ…3ターン後に必ず死ぬ、なんて知ったら、彼女になんて言われるか……
俺が黙り込んでいると、鮫島が会話に割り込んできた。
「おいおい。王子様がだんまりかよぉ」
「鮫島は、黙ってなさい!」
「松尾も怖くなったな〜。俺とつるんでいた時なんか、いつもクールだったのによぉ」
「あの時は……人生に冷めてたのよ」
「へぇ〜。そんな中で、王子様に出会ったってわけか。うんうん、感動的だね」
「うるさいわね!」
「なぁ、王子様。お前は松尾の事どう思ってんだ?あいつは、いつも虐める側だったんだぜ」
「……それは、分かってる」
「ははは。松尾聞いたか?王子様は、お前の事嫌いだってよ!」
「……くっ………」
「違うよ!」
「はぁ?何言ってんだ、お前はMか?」
「それも違う……松尾は確かに俺を虐めてたけど、ダンジョン内で俺に魔法をかけなかった」
「ほぉ!それで虐められた事をチャラにしたって事か!」
「いや、チャラにしたわけじゃない。乗り越えたんだ。俺と松尾は、虐めっ子と虐められっ子の関係から、友達の関係になったんだ」
「意味わかんね〜。松尾は分かるのか?」
「私も、蓮の言ってる意味はよく分からない……けど、私の事を嫌ってないって事は、分かったわ」
「目がウルウルしてんじゃねぇか。全く!興醒めだぁ。ちっ!最後にいい事教えてやるぜ。俺が王子様に掛けたのは呪いだ。3ターン後に死ぬぞ!」
「蓮!本当なの?」
「…………」
「答えてよ!」
「……大丈夫…3ターン以内に倒すから…」
俺は火憐に向かって微笑んだ。出来るだけ安心して欲しい…そういう願いを込めて。
その願いは叶ったかな、心配そうな顔はしているが彼女から話しかける事は、なくなったんだ。
鮫島のお喋りは、止まらないようだけどね。
「どうよ…3ターンの間、死を待つ感覚は」
「最悪だね」
俺は、わざと苦悩の表情を浮かべた。鮫島の絡みがいい加減鬱陶しくなってきたのだ。
俺はゆっくりと自身のコマンドに目を移す。
――――――――――――――――――――――――――
選択時間:20秒
→ ●物理攻撃
●呪怨 ※MPが0のため使用不可
●身を守る
●アイテム ――――――――――――――――――――――――――
喋りすぎた……残り時間が全然ないじゃないか。
俺は悩んだ…力加減が難しいのだ。もし、スキルで数万単位の数値を攻撃値に移したら、鮫島が即死してしまうだろう。
俺は殺したい程、憎んでいるわけではないし、むしろ俺も鮫島も無傷のまま戦闘を終わらせたかった。
―――でも、3ターンという制限がついてしまった。
困り果てた俺は頭の中にいる、あの人に相談する。
(ダンフォールさん……聞こえる?)
(何の用じゃ少年、儂は眠いんじゃけどな)
(ごめんなさい。でも、相談したい事があるんだ)
(まぁ、ええよ。言ってみるのじゃ)
(実は今、プレイヤーと戦闘してるんだけど、力加減が分からなくて……)
(なるほどな。確かに今の少年が、攻撃したら下手すると相手を殺しかねんな。ははは)
(笑い事じゃないですよ……)
(すまんすまん、じゃあ代わるか?)
(何を代わるんですか……)
(意識をじゃよ!)
俺はまだこの時、知らなかった。頭の中の老人に、体を託す事が出来るなんて………




