04 奇怪な運命
鮫島達と学校を出た後、俺はひたすら山道を歩いていた。
何も無いただの山道を。
ザッザッザッ……
―高校から約数km離れた山中―
この山には普段は人などおらず、ましてや人の声などしないはずだ。
しかし、この日はやけに人声や騒音が多かった。
戦車のエンジン音、緑の服を着た自衛隊の行進、銃器の擦れる音、それらが全て山の一点に集まり、大穴に突入していく。
そう、この地点は大穴が出現した地点。
政府が言う所の『ダンジョン』が存在する地点なのである。
その『ダンジョン』に、一部の好奇心旺盛な高校生達も近づいていた。
『keep out』と書かれた黄色いテープを掻い潜り、『ダンジョン』の入り口、大穴までたどり着いたのだ。
そのグループの1つが、鮫島・松尾・蓮、3人のパーティーであった。
■□■□■□
ハァハァハァ……
「おい奴隷! さっさと来い」
「まってよ、鮫島君……」
クソ! なんで俺はこんな所にいるんだ……今頃は家でゲームをする予定だったのに。
見ての通り、俺は今家に帰ってない。
学校から抜け出して森の中にいる。
俺達がたどり着いた山奥には、大きな穴が空いていたんだ。しかも単なる穴じゃない。
穴の中を少し覗くと分かるけど、そこには暗闇を照らすように松明が左右にズラリと並べられている。
まるで貴族の館のようだ。
俺達はその大穴……いわゆるダンジョンに今まさに突入しようとしている。
虐めっ子の鮫島と松尾の手によって……強制的に。
それに、俺は嫌々ながら付いてきたのに、鮫島の態度はふてぶてしい。
いくら能力が高いと言ってもあんまりだ。
ほら……今も俺にダンジョンを発見した事を自慢してるよ。
何回聞かせるつもりだ!……なんて言えないからニコニコして適当に返事するけどさ。
「おい奴隷! 俺達がこのダンジョンを探してやったんだぞ! 感謝しろよな」
「あ、ありがと……」
何が感謝しろだ。
お前らが勝手に授業サボって探してたんだろうが……なんて事を口に出して言えたらいいのにな。
… ん?でもちょっと待て……なんで鮫島達は、俺を連れてきたんだ?
職業が奴隷って知ってるはずだろ。
……気になる。俺をどうするつもりだ?
ダメだ、考えても何も分からない。
俺は鮫島が怖くて、声をかける事が出来ない……いや、聞きたくても聞けないんだ。
だから、ずっと体をモジモジとさせていた。
自分でも気持ち悪い光景だと思うよ。
他にも黒歴史はいっぱいあるから良いんだけどさ。
……でも、あの時は体を動かしすぎたな。
鮫島じゃなくて松尾が俺の異変に気付いたよ。
「ちょっと、鮫島! 奴隷君がなんか気持ち悪い動きしてるわよ」
「あ? なんだ奴隷、トイレか?」
「いや! トイレじゃないんだ。あ、あの…鮫島くん、なんでおれを連れてきたの? 役に立たないよ」
「「……………」」
俺の言葉を聞いた松尾と鮫島は、顔を見合わせた。
そして……片方は笑い出し、もう片方は呆れた様子で言葉を続けたんだ。
「はははははは。松尾聞いたか? 奴隷の奴、自分の使われ方も理解できねぇみてぇだ!」
「全く……奴隷は馬鹿ですね」
……誰が奴隷だ……誰が馬鹿だ……
俺は小さな嫌がらせに精神が参ってしまったんだ……気付くと、自らの唇を血が出るまで噛んでいた。
もちろん、先程からずっと馬鹿にされ続けて悔しいと言うのもある。
でも、それ以上に何も言い返せない自分自身に苛立っていたんだ。
黙り込んだ俺……そんな俺を見ながら鮫島はニヤついて手を叩く。
「馬鹿な奴隷君に教えて差し上げよう! ははは。ヒントだ! ダンジョンは、何があるか分からない、そうだろ?」
「うん。そうだね……」
ダメだ……鮫島が何を言いたいのか理解できない。
「おい松尾! こいつまだ分からねぇ、みたいだぜ!」
「はぁ、ほんとに奴隷君は馬鹿ですね…… 」
「……教えてよ! どういうことなの!」
「ん〜。しょうがないなぁ、お前、ほんっとに馬鹿だなあ」
「……しょうがないわね、奴隷君には先頭を歩いて貰うのよ」
「え……」
松尾の言葉を聞いて、俺の表情は一瞬で変わった。
だって……先頭で歩かせるって事は、俺を囮にするつもりって事だろ?
流石の俺でも、その後に反抗はしたさ。反抗はね………
「ちょ、ちょっと待ってよ鮫島君! ダンジョンの中は危険だって言ってたよ。それに、俺の『職業』見たでしょ! 死んじゃうよ」
「は? じゃあ死ねよ」
「え?……」
「「…………」」
本気で言っているのか?
いや……鮫島はダメだとしても、松尾なら流石に止めてくれるんじゃ…
淡い期待を抱き松尾の方向を見ると、腕を組んでこちらを笑顔で見ていた。
………ダメだ……こいつらの目は本気だ。
きっと自分達の『職業』が上位だからって、地位が高くなったと勘違いしてるんだろう。
まるで、奈落に突き落とされたかのような絶望感だ。
このままダンジョンで死ぬかもしれない……そう思うと俺は、ゆっくりと瞳を閉じた。
すると、後方から女性の声を含めた人の会話が聞こえ始めたんだ。
最初は自衛隊や先生だと思ったんだけどさ、耳をすますとどうやら違う。
若い声だ。
ちょうど自分の声と同じくらいの……女の子の声……って、もしかして。
俺は気づいてしまった。
近づいてくる声の中に、彼女の声も混じっている。
「えぇ〜! みんな危ないよ、ほんとにダンジョン入るの?」
「氷華は『王』じゃん! 何かあったら助けてよね」
――氷菓の声が聞こえたんだ。