32 不穏な自衛隊大将
自衛隊の石黒大将と蓮は、鎧の出現に驚いていた。
特に石黒の方は後ろを振り向いて鎧姿を確認すると、眉間にシワを寄せているくらいだ。
蓮から説明を受けても、すぐに納得はできないであろう。
実際に全身を鎧で覆われた兵士の中身は、幼馴染である氷華なのだが、石黒大将にとって受け入れられないようだ。
顔を傾けて眉に手を当てた。
「友達?…君は、モンスターと友達なのかね」
「彼女は、人間です…全身鎧を身につけていますが、あれは装備らしいですよ」
「装備?…この世界にも装備があるのか」
「そうらしいです。正直、よく分からないですけどね、ははは」
蓮は石黒に苦笑いをして、自身の知っている情報を与えた。
その情報が有益なのかどうかは判断しかねるが、石黒にとっては重要なものらしい。
腕を組み、真剣な表情で何やら考えている様子だ。
石黒の反応を見た蓮は、表情の変化に違和感を感じて彼の顔を見つめている。
そんな蓮に対し頭の中で、気を引き締めろと老人の声がささやく。
(少年よ、今の言葉聞いたかのう?…あの老人、やはり怪しいわい)
(突然どうしたんですか?)
(気づいとらんのか…「この世界にも」なんて普通は言わんじゃろ)
(そんな事言ってましたっけ……)
(ちゃんと人の話は聞いておくものじゃよ)
(すみません…で、俺はどうしたらいいんですか、石黒大将の情報でも集めた方がいいんでしょうか?)
(いや、そこまではせんでいい。ただ、少年の情報は伝えるなよ。儂の声が聞こえる事も、スキルが使用できる事もな)
(何でですか?)
(儂がいた異世界には、魔王と呼ばれる存在がおってな…儂がここにいるという事は魔王も来ておるかもしれんのじゃ)
(その魔王が、石黒大将の可能性があると…おもっているんですね)
(念の為じゃよ。もしそうなら、少年が命を狙われてしまうからの。フォッ、フォッ)
『声』は笑って誤魔化しているが、会話中のトーンは真剣そのものであった。
魔王と蓮の中にいる『声』との間に、何か因縁でもあるのだろうか。
だとすると『声』は、一体どのような人物なのか。会話をする度に謎が深まるばかりだ。
そんな風に考えていると、蓮も自然と腕を組んで目を瞑っていた。
蓮と石黒、2人共が思慮に耽っている。
そんな特殊な状況の中、全身鎧姿のあれは遠慮なくこちらに進む。
ガシャンガシャンという鎧の音を響かせながら、彼女はその中間地点に辿り着いた。
「蓮…なにやってるの?あと、この戦車はいったい……」
鎧を全身に装備している彼女も、とうとう腕を組んで考え始めてしまう。
3人が三角形上で腕を組むという可笑しな光景が誕生した瞬間だった。




