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28 Skills activate《スキル発動》

 


〈『神猫(ゴッド・キティ)』が『蓮』を選択致しましたので、攻撃を開始いたします〉



 聞き慣れた機械音だ。

 もう二度とこんな音聞きたくないし、傷ついた火憐を見たくない。

 俺は、彼女を連れてダンジョンを抜け出すんだ。



「許さない……」



 彼女の血でベッタリと濡れた化け物の口。それを見たら冷静さを保てなくなったよ。

 化け物が、近づこうとする前にこちらから動いてしまったんだ。

 怒りで体を抑えられなくてね。

 けど、頭の中の老人は驚いていたよ。

 言うことを聞けって。



(おい少年よ!なんで勝手に動き出しとるんじゃ)

(俺は、化け猫が許せないんだ。火憐を痛めつけやがって)

(分かった、分かった!でも落ち着け、あの化け猫は腐っても、このダンジョンのボスじゃ)



 確かに、老人の言う通りだ。

 先程の相手ステータスにダンジョンの(おさ)という表記は確認している。

 そんな化け猫から、ダメージを受けたら100万や1000万程では済まないだろう。

 けど、どれだけ莫大なダメージを受けようとも俺には絶対に死なない自信があったんだ。




(分かってる。でも、俺には無限のHPがあるんだ。すぐには死なないはず…)

(無限のHP?…あっ!それ使い方間違っとるぞ)

(使い方?)



 老人の言葉に足を止めてしまった。

 HPの使い方って、相手のダメージをどれだけ受け切れるか、それだけじゃないのか?…

 他に使い道なんかないだろ。

 でも……気になる。だってそうだろ?皆もおかしな事を言う奴の話聞きたくなった事はないか?…

 興味の湧いた俺は、老人に聞き返してみたんだ。



(HPの使い方って…どう言う意味ですか?)

(ん〜。本当は、カウンターで化け猫を仕留めるつもりじゃったのに、、、まぁええわ!教えたる。少年よ、右手を前に突きだせ)

(え、、はい。こうですか?)

(そうじゃ。なかなか良いポーズじゃな。儂には見えんけど、ははは)



 この老人の声は、何を考えているのだろう。

 変なボケを時々突っ込んでくる。

 恐らく、冷静さを失っている俺の頭を冷やす為にボケているのかもしれない。

 ただ、ボケのレベルが低すぎるのだ。

 反応も適当なモノにどうしてもなってしまう。



(はぁ……そうですか)

(話の腰を折ってすまんな、では、心の中でスキル発動、と願ってみてくれんか?)

(分かりました……スキル…発動…)



 こんなモノで、一体何が変わるんだ。

 すぐ目の前に化け物がいるっていうのに……今、攻撃されたら直撃は免れないな。

 でも、俺の顔は不思議とニヤけていた。



 生きてダンジョンから帰れるかすらも、怪しい状況の中、敵の目の前で右腕を突き出して止まってるんだ。

 馬鹿らしくなってくる。

 でも、不思議と体が軽くなっていくような気がしたんだ。



 蓮の表情が温和なモノに変わっていく…

 そんな彼の目の前に、まるでゲーム画面のセリフのように、文字の羅列が表示された。




 なんだこれ?……




【スキル発動】




ALL CHANGE(オール・チェンジ)




【発動します………】





 蓮の目の前に現れる文字の羅列。想像の範囲を超える出来事に、彼は固まってしまった。



(フォッフォッ!流石に驚いておるな、儂も最初はそうじゃったよ)

(ダンフォールさん、これ何?…)



(スキルじゃよ…詳しい事は後で話す。とりあえず物理攻撃値を上げようかの。少年よ!心の中で、物理攻撃値に5万、と唱えてみよ)

(うん。分かった…)



 正直、意味がわからなかった。

 目の前にいる火憐は、まるで絶望に落ちたかのような表情をして、こっちを見ている。

 俺の頭がおかしくなったと思っているんだろう。



 自分も、自分自身をどうかしてると思うよ。

 こんな心の中で願うだけで、解決なんかでき………




【HPから物理攻撃値へ5万、移動】



【また、自動安全機能を稼働させ物理・魔法防御にそれぞれ100万、移動させます】




 え、目の前にまた文字の羅列が見える。

 まさかとは、思うが念のためだ。

 自分のステータスを確認しよう。



 蓮は、体を震わせながら自身のステータス画面を開いた。




(ほう、自動安全機能か。忘れておったわ。)

(……………)

(おい少年…どうした?……何か反応はないのか)




 正直、老人の声は聞こえていた。

 でも、ステータス画面をもっとよく見ていたかったんだ。

 これで化け物に勝てるという確証を、何度も確認するために。



 ――――――――――――――――――――――――――

 ●能力ステータス

 ・Lv.1

 ・職業→『奴隷(スレイヴ)

 ・魔法攻撃→『0』

 ・物理攻撃→『50000』

 ・魔法防御→『1000000』

 ・物理防御→『1000000』

 ・知力→『1』

  ↓↓↓↓↓ ――――――――――――――――――――――――――





 スキルを発動し、HPの数値を他項目に移動させた蓮の表情は、満面の笑顔に変わった。

 化け物の目の前で、満面の笑顔。



 想像するだけでも異常な光景だが、それを目の当たりにする火憐は、恐怖を感じたに違いない。

 自身が叫べる限界の声量で、蓮に向かって叫んだ。



「私の事は放っておいていいから、早く逃げて!蓮がおかしくなっちゃうよ!」

「へへへ。火憐、大丈夫だよ…」



「何が大丈夫なの……いくらHPがあるっていっても、死んじゃうよ」

「俺は、最強になったんだ。心配しなくてもいい、すぐに化け物をやっつけるから」



「え?…何言ってるの…」

「だから、俺は最強になったんだよ」



「うぅ…ごめんね蓮……私が、こんな状況にしちゃったから壊れたんだね…うぐっ…うっ…」



 突然意味の分からない事を、笑顔で口走る蓮を見て、火憐は泣き出してしまった。

 先程自分が、化け猫にさせられた行為よりも大泣きしている。

 自分のせいで、蓮がおかしくなったと思っているようだ。

 彼女にとって今の蓮は、狂人にしか見えないのだろう。



 彼女の嘆く声が洞穴に響き渡る中、機械の音声が、それに割って入る。



〈『神猫(ゴッド・キティ)』の攻撃、『神の刃(ゴッド・クロウ)』を『蓮』に実行致します〉



「うぅ…早く…逃げて!」



 泣きながら、再び叫び声をあげる火憐。

 彼女の瞳には、化け物の右爪が大きく長細く変形し、まるで日本刀のような大きさ・形状になる場面が映ったのだ。

 しかも周囲には、白いオーラのようなモノが(まと)わり付いている。

 遠くから見ても分かるのだ。

 この攻撃の破壊力は、甚大なモノであると。



 しかし、近くで見ているはずの蓮の表情は笑顔のままだ。体も正面を向いたままで逃げる気配すら感じない。

 むしろ、化け猫の瞳を見つめながら挑発までしている始末である。



「来いよ化け猫」



 化け猫と蓮の目が合った瞬間。

 猫の右手から伸びる刀状の爪が、蓮の腰から右肩にかけて、斜め上に振り上げられた。



 それは、一瞬の出来事だった。

 腰から爪が入り、右肩から抜けていくまで、まるでコマ送りのようにゆっくりと時が流れる。

 その光景は火憐にも見える程、鮮明なモノだった。



「ごめん。ごめんね蓮…」



 猫の爪が、彼の体を通過する場面をハッキリとみた火憐は、顔を地面につけて静かに泣いている。

 もう死んだと思っているのだろうか。

 地面の土を手で握りしめ、唇を血が出るまで噛み締めている。


 そんな彼女は、気が早いのではないだろうか。

 まだダメージ計算の報告を、機械がしていないではないか。



 泣き叫ぶ彼女の耳に、機械音が現実を伝えた。

 今度は希望の知らせを。




〈『蓮』に『10』のダメージ〉

〈プレイヤーにダメージを貫通させます〉




「え…ダメージが10って事はもしかして…」



 涙でぐしゃぐしゃになった視界を、制服の袖口でゴシゴシと拭いてから急いで前方を見る。



「あぁ……」

「10のダメージだと、やっぱ痛くないな」



 火憐が向けた視線の先には、蓮が平然と立っていたのだ。

 先程の笑顔のままで。



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