26 Cheat Manual【チート・マニュアル】
薄暗い洞穴のような場所で、少女の泣き声がよく響く。
それ以外に聞こえる音は何も無い。
蓮は、自分が置かれている状況を恨んでいた。
逃げれないし、倒せない。
最悪な状況である。
(俺にはただ、猫と、寄生された火憐を見つめる事しか…)
蓮が、苦渋の表情を浮かべながら、唇を噛んでいた時にそれは聞こえた。
老人のような暖かく、優しい声。
いや、聞こえるというよりも脳に直接語りかけられる、と言った方が正しいのかもしれない。
(おい少年よ。聞こえておるか?…)
「……え……誰だ?…」
蓮は、急にパニックになり辺りを見回した。
もしかしたら、新たな敵かもしれないのだ。しかし、モンスターの姿は、どこにも無い。
(気のせいだったかな…)
(気のせいじゃないぞ!早く、儂に語りかけんか!頭の中に響かせるイメージじゃ)
(こ、こんな感じですか?)
(そうじゃ、やれば出来るではないか!ははは)
(あの〜。どなた様でしょうか?…)
(儂は、お主じゃよ)
(はい?、、、)
(何も分かっとらんようじゃの。お主の職業『奴隷』の張本人じゃ)
(え!こんな機能もあるんですか?…職業1つ1つに、精霊みたいなモノが…)
(違うわ!元々、異世界で、その『職業』に就いた者の魂が、こちらの世界で活用されておるにすぎん!魂は、勝手に意思を持たんよ)
(え、じゃあなんで、あなたは…)
(それはな。儂は異世界でシステム上は『奴隷』をやっとったんじゃが、実際は、異なる職業として活動しとったんじゃ)
(で?……)
(あ〜。だからの、、、なんじゃったっけ?…あぁ、そうそう。システムと異なる職業で活動しとった者は、こっちに来ても意思があるかもしれんな)
(何か意味があるんですか?)
(あるとも。儂のような枠にはまらん奴はな。戦闘スタイルがちと特殊でな、チュートリアルが必要なんじゃよ。多分な)
(よ、よく分からないですけど、助けてくれるんですね)
(助けるとは、ちと違うな。教えるのじゃよ。おっ、ちょうど前に敵もおるな。神猫か、ちと手強いかもしれんな。ははは)
(…………)
蓮の表情は明るくなったが、どこか不安が混じる。
自身の頭が、おかしくなったのではないかと心の何処かで感じているからだ。
でも、安心して欲しい。
この出来事から、彼は最強としての階段を駆け上がっていくのだから。




