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25 奴隷令嬢《Slave daughter》


 


 どうなってんだ…

『プレイヤー』を寄生するってありなのかよ



 蓮の目の前には、本来なら使役されるべき猫が、人間を使役する異様な光景が広がっていた。


 猫の為に四つん這いになり背中を貸している令嬢、その上で寝転がっている猫、こんな構図は一生お目にかかれるものではないだろう。



 異様な光景を目の当たりにした蓮は、ひどく困惑していた。

 自分がどうすれば良いのか、全く分からないようである。

 


 当たり前だ。

 寄生という事実だけでも困惑するのに、彼女を寄生状態から解放するためにどうすれば良いのかが、全く分からないからである。



 それでも、何か解決手段はないかと相手ステータスをじっくりと見つめていた。


 ――――――――――――――――――――――――――

  ●神猫(ゴッド・キティ)

  Lv.999

 ○HP…『???』

 ○状態…『寄生《松尾まつお 火憐(かれん)》』

 ○殺人カウント…『???』


 全ての猫を従える、猫中の猫。ダンジョンの(おさ)

 その可愛い見た目に騙される者は、一生、猫の奴隷として地獄の日々を味わうことになる。

 ――――――――――――――――――――――――――



 ダメだ…

 何もヒントになるような事が書かれていない



 いや、放置しておけばずっと猫の奴隷とされる事が分かっただけマシなのか…



 彼女が、ずっと猫の奴隷になる…



 あまり上手く想像は出来ないが、ダンジョン内で一生を暮らすことになるのは確実だろう。

 蓮は、恐る恐る彼女の方を見てみる。



「うぐっ…うっ……ゔぅ…」



 彼女も気づいているのだろう。

 このままだと、一生ダンジョンでの生活になると、、



 唇を噛み締めて大粒の涙を流していた。

 体が自由に動かないので、涙は流しっぱなしになり顔が濡れている。

 何も話さずに、ただ蓮の瞳を見つめているだけだ。




 俺は、どうすればいいんだ…




 苦悩の表情で地面に顔を伏せた、その時だった。

 彼女が寄生されていると、実感できる出来事が起きたのは、、




「い……いやぁあああ……」




 火憐の弱々しい叫び声が聞こえる。

 自らの不遇に絶望してあげた声なのだろうか、それとも実際に何かされてあげている悲鳴なのか、、、、、



 答えは、後者だった。




 火憐の方向を見ると、彼女は、目の前に移動してきた猫の全身を自らの舌で舐め回していたのである。



「うぐっ…ゲホッゲホッ……」



 猫の足から、頭まで舐めている。

 恐らく毛づくろいの為なんだろう、猫は気持ち良さそうな表情をしているが、火憐の方は猫の毛や足についた砂利が口に入りむせていた。



 猫の足を一本一本丁寧に、自らの口に含んで汚れを落としている。

 俺は、見るに耐えかねて目を逸らしてしまった。



 ただ彼女も蓮の方を見もせずに地面の方をただ見つめている。

 令嬢である彼女が獣を舐め回しているなど、恥ずかしくて人様と目を合わせられないのだ。




 そんな彼女を見て蓮は、急いで自らの画面を見る。

 


 ――――――――――――――――――――――――――

   選択時間:20秒

→ ●物理攻撃

  ●呪怨(じゅおん) ※可能、残り1回

  ●身を守る

  ●アイテム ――――――――――――――――――――――――――



呪怨(じゅおん)』を、あの猫だけに使えれば解放する事は出来るんじゃないか…?


 いや、でも危険すぎるか…

 もし彼女も巻き込んで戦闘が終了してしまったら、それこそ一生奴隷のままになるかもしれない



 今は、猫の毛づくろいだけで済んでいるが……この先に彼女が何をされるか…




【ザッザッ】



 蓮が考え事をしている間に、敵の方が動き出した。

 先程まで前方にいた猫が後ろに、その前に火憐が膝をついて立ちはだかる。



 これで『呪怨(じゅおん)』が、使えなくなったわけだ。



 だが、まだ俺には無限のHPがあるじゃないか、、、

 時間を稼いで…




 蓮が、作戦と呼べるようなモノではないが、時間稼ぎに移ると、火憐に伝えようと顔を前に向けたその時だった。

 彼女の様子がおかしい。

 涙だけではない、明らかに恐怖を感じている表情をしている。




【ガブっ…】

「あぁああああ…」



 今度はなんだ、、、



 火憐の方から叫び声が聞こえたのは分かる。

 でも、彼女が前に立ちはだかっているので、後ろで何が起きているのか分からない。

 居ても立っても居られなくなった蓮は、前方に向かって叫ぶ。




「火憐、何かあったのか?!」

「うぅ…蓮…、、、私、太腿(ふともも)をかじられたみたい…うぅ…、、うぐっ…」


 


 そうだ、俺は忘れていた。

 ()()()()にとって、人間は食料なんだ。

 絶望に打ちひしがれる彼女も、理解したようである。

 いつの間にか、助けて、という言葉を口にしなくなった。




「うぅ…う、、、」



 痛みに耐えながら、涙を流している火憐の泣き声がダンジョン内に悲しく響く。








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