02 ゲーム化された世界
鮫島に蹴られた後、俺は自室のベッドで寝ていた。
でも、起きてみてびっくりしたよ……俺が目覚めると世界は変わっていた。
――ゲーム化された世界へと。
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「眠いなぁ……あれ?……」
俺が目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
いや……それは別に普通の事だな。びっくりしたのは時間だよ。
どのくらい寝ていたのだろうって、寝室の窓を見たら太陽の光が差し込んでいたんだ。
昨日はあのまま寝てしまったんだと分かったよ。
確認の為、ベッドの上に置いてある時計にも目を通したけど『AM:8:00』と表示されている。やっぱり朝だ。
けど、おかしいな……母さんが起こしに来ない。この時間なら来るはずなんだけど。
俺は、寝ぼけている体を無理矢理起こすと、階段を降りて母がいるはずの一階へと降りていった。
〈……本日のニュースです………〉
階段を降りると、リビングからテレビの音声が聞こえてくる。
母さん……テレビに夢中なのかな……なんて思いながらリビングに入ると、案の定テレビを見ていたよ。
「母さん、今日なんかあったの?」
「………」
「母さん?」
息子の声にも反応しないほど、ニュースに夢中になっているのかよ………俺は少しショックを受けた。
しかしそれは同時に、それほど重大なニュースであるともいえるんじゃないかな。
ってな訳で、俺はテレビに視線を向けたんだ。
テレビに目を向けると、いつも通りスーツを着たお兄さんがキビキビと原稿を読んでいる。
ただ、話している内容はいつも通りじゃなかったんだ。
『え〜。ただいま入りました政府発表によりますと。――X国の宇宙研究センターでの実験中に、機械が暴走した事によって現在の状況が発生した次第であります』
なんだ現在の状況って?母さんがこんなに驚くなんて一体何が起きているんだ。
俺は困惑したさ。
ニュースキャスターのお兄さんは、世界中の人々がこの出来事を知っている………そんな風に語っていたんだもの。
でも、その出来事を伝えるのが私の役目……と言わんばかりにニュースキャスターは言葉を続けた。
『テレビをご覧の皆様……繰り返しますが、現状の説明を致します。―――現実世界と電脳世界……いわゆるゲームの世界が現実世界と融合してしまいました。――日本政府の公式発表では、本事件を『ディストーション』と命名し、つきましては……』
俺は耳を疑ったよ。
だってさ、ゲームの世界と現実世界が混ざったって言う事だろ?……そんな馬鹿な話、信じられない。
まぁ……たしかに、母さんが集中するのも頷ける内容の
ニュースだけどさ。
もしかしたら、ドッキリなんじゃないかって思ってたんだけど……謎の映像がテレビに流れ出して考えが変わったよ。
こんな大掛かりな事は、流石にしないはずだから。
「なんだこれ?…」
『繰り返します。政府発表によりますと少なくとも、日本においては――統計学的視点から【職業】の分布割合と特徴は、以下の表にまとめられるとの事です。繰り返します……』
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職業分布図『20xx年 日本政府公式発表』
①【商人(マーシャント】・貴重なスキルを持つ可能性大
②【 村人(ヴィレジャー】・全てが平均のステータス
③【騎士】・物理的なステータスが上位傾向
④【魔道士】・魔法ステータスが上位傾向
99.99%が上記4つの職業に属する。
⑤【王】・全てのステータスが異常高値
⑥【奴隷】・全てのステータスが異常低値
残りの0.01%が上記2つの職業に属する。
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画面がアナウンサーの姿に戻ると、また原稿を読み始めた。
本来ならこの時間はアニメーションが流れるはずだが、このニュースをずっと取り上げるつもりなのだろう。
終わる気配が全くない。
それもそうだろう。
【職業】だけじゃなかったんだ……他にも、世界には異変が起きていたんだから。
テレビはその後も報道を続けた。
『また、国中に出現したダンジョンについても政府は自衛隊を派遣し……』
「ゲームの世界と混ざった? ダンジョン? 一体どうなってんだ…」
俺は驚きのあまり独り言を言ってしまった。
【職業】だけじゃない……【ダンジョン】まで……この世界はどうなるんだ、って思うだろ?
でも、ちょうど良かったかな。
その独り言のお陰で、母さんが息子の存在に気づいてくれたからな。
「あら!蓮おはよう。あんたもさっきのニュース聞いてたかい?」
「聞いてたけどさ……どうなってるの? 職業ってなんなの」
「まだよく分からないみたい。でもね、世界中の人達の能力はステータスとして表せるようになったらしいわ。――母さんもさっきやってみたけど、職業・村人で他数値は全て100の超平均だったわ。ははは」
「母さん! おれもそれ見れる?」
「見れるわよ。外に表示したい時は胸に手を当てればいいけど、自分で見るだけなら――ステータスを見たいって意思を持てば、自分だけ目の前に見えるはずよ」
「よし! やってみるよ」
この時、俺の目は希望に満ちていたと思う。
もしかしたら自分が騎士や王ではないかと、淡い期待を抱いているからね。
優秀な幼馴染と疎遠になりたくない……胸を張って、氷華と接せられるようになりたい。
そんな単純な理由で、俺は自分自身のステータスを見た。
期待は、もちろんしてたさ。
でも……心の何処かで、どうせ村人なんだろって思ってた。
――そんな俺の目の前に現れたステータスには。
「なんだよこれ……」
俺は目を疑ったよ。これは夢なんじゃないのかって……
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●基本ステータス
・名前…市谷蓮
・性別…男
・年齢…17歳
●能力ステータス
・Lv.1
・職業→『奴隷』
・魔法攻撃→『0』
・物理攻撃→『0』
・魔法防御→『10』
・物理防御→『10』
・知力→『1』
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俺は甘かった。『村人』ですら無かったんだ。
まさか『奴隷』だなんて……これでいよいよ幼馴染と疎遠になる事が現実味を帯びてくる。
でも、攻撃値が全部0ってどうなってんだよ俺。
……いや………待てよ。
目の前に見える、映像の下側にも下矢印が見える。
もしかして、他にも表示される能力でもあるのか?って俺はもう一度淡い期待を抱いたんだ。
頼むなんでもいい……何か1つでも人並みの能力があってくれ……って、俺は必死な顔をしていたのかもしれない。
とりあえず、体を震わせていたのは覚えているよ。
焦る気持ちを抑えつつ、ゆっくりと視線を下げて残りの能力ステータスを閲覧したんだ。
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・知力→『1』
・HP→『99999999…』
・MP→『0』
↓↓↓↓↓
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––––HPの値がバグってるじゃねぇか!
一瞬そう思ったが、少し考えるとこの状況はマズいと言う事が分かった。
HPが無限大で攻撃力0なんて事が、鮫島達の耳に入ったとしたら……俺は間違いなくサンドバッグになるだろ?
ショックすぎてさ。思わず心の声が、僅かな音量ではあるが外に出てしまった。
「HPだけじゃダメなんだよ…」
下手をすれば、みんなに殴られ続けるかもしれない…
このステータスの事は黙っておこう。
でも、もう一度前を見るとステータスが表示しきれていないことに気づいたんだ。下矢印が出ているからさ。
――でも
もう見るの怖いや……今までのステータスでクソ雑魚決定だし、自分のダメさを見るのが辛い
俺はそこで見るのを止めてしまったんだ。
……今でも後悔してるね。意地を張らずに見とけばよかったって。
あの時はそのままステータスの表示を消して、前を向いたんだ。
すると、母親の姿が映ったんだ。いつもとは違う眼力でこちらを見つめている母親の目が。
きっと、息子の能力が気になったんだろ?
あのステータスを見た後は、人と話す気分じゃなかったけど流石に母さんを無視するわけにはいかない。
俺の方から会話を切り出したよ。
「母さん……終わったよ」
「蓮! あんたどんなステータスだった?」
「はは。母さんと全く同じ! 全て平均値の『村人』だった」
俺は笑顔で答えた。
心は笑っていないけどね……罪悪感でいっぱいだったよ。
俺は一体、何回嘘をつけばいいのかって。
本当は俺……『奴隷』なのにさ。
落ち込んでいる様子を見れば分かると思うけど……この時はまだ気づいていなかったんだ。
自分が最強だっていう事に。
自分のスキルが、チート級なんだって事に。
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↑↑↑↑↑
・スキル→『All CHANGE』:::ステータス上の数値を、全て自由に振り分ける事が出来る。―――――――――――――――――――――――