16 裏切りの王《Betrayer》
電脳世界、いわゆるゲームの世界と現実世界が混ざり合う……そんな訳が分からない状況の中、手探りで俺たちは戦わなくちゃいけなかったんだ。
――『コマンド』の意味もよく分からずに
〈ダメージ貫通、終了いたしました〉
〈コマンドを選択してください〉
――――――――――――――――――――――――――
選択時間:1分
→ ●戦う
●逃げる
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クソ！休ませてくれないのか
目の前のコマンドを睨みつけながら、蓮は現状を確認した。
1番左端が鮫島『王』、真ん中が松尾『魔道士』、そして1番右側が蓮『奴隷』である。
しかし、真ん中にいる松尾はさっきから気を失っていて眠っていた。
あぁ！早く意識を取り戻してくれ
彼のこの感情は、彼女を戦力として扱えるように、、、という考えから来るものではない。
先程から、化け物の攻撃の際に上半身が裸同然になってしまった彼女が視線に入らないようにしている。
そのため、鮫島と会話しづらいのだ
松尾さん、早く意識を取り戻して服を着てくれ
俺は慣れてないんだよ…
鮫島は、流石と言うべきか、、、松尾の裸を見ても何とも思ってないように見えるけど
こいつら付き合ってたのか？…
蓮は初めて見る松尾の体のせいで、変な想像をしてしまっていた。
いかんいかん、俺はこんな大変な時に何考えてんだ、、
そんな想像をしている間にも『コマンド』の選択時間がどんどん過ぎていく。
実際、時間が残り少ないかのように、鮫島が大声で先程の確認をしてきた。
「おい！奴隷くん！『魔法』でMPをお前に移すけど、次のターンで化け物が俺を選択したら助けてくれよ」
「あ、う、うん。もちろんだよ！」
鮫島から、助けてくれ、なんて言われる事になるとはな…
これまであいつから虐められた事を許す気は無いけど、俺の言う事を聞いて、MPを分けてくれるって言うんだから多少は許してやるか
蓮は、少し顔をニヤつかせながら、『戦う』の『コマンド』を選択する。
鮫島が、MPを分けてくれるんだから『呪怨』を選択できるはずだ、、、
あれ？…
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選択時間:20秒
→ ●物理攻撃
●呪怨 ※MPが0のため使用不可
●身を守る
●アイテム
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彼の目の前に映った画面では、まだ『呪怨』の『コマンド』は選択不可のままだった。
なんで？… まだ使えないんだ、、？、
もしかしたら、他人から移譲されるMPは無効なのか…
慌てた蓮は、鮫島の方に顔を向けて震えた声で話しかける。
「さ、鮫島君… MPがまだ使えない事になってるんだけど」
「ん、、あぁ、まだ俺のターンが終わってないからな」
「あっ… そうか」
そうだった、まだ鮫島は魔法を使っていないんだった、、
じゃあしょうがないか
さっきと同じで、このターンは耐える、、、
蓮は、先程のターンと同様に『身を守る』を選択した。
しかし、すぐには機械音は鳴らない。
鮫島と蓮が選択を終了したとしても、松尾が気絶しているので選択時間いっぱいまで待たなければならないのだ。
待っている間そんな気絶している彼女を見ていると、不謹慎かもしれないが笑えてくる。
俺は、強気な性格の彼女しか見てこなかったけど、優しくて弱い一面もあるんだな…
早く意識を取り戻してくれ、、令嬢だからって気を使ってたけど、もう一回話してみたい、、、
あ、意識を取り戻した後に、裸を見たわね！って殴られるかもしれないね、
――まぁ、生きて帰れたらの話だけど
もうそろそろかな
蓮の予想通り、不気味な機械音が頭に鳴り響いた。
〈プレイヤー『松尾』は、選択時間内に『コマンド』を選択しませんでしたので、このターンは行動出来ません〉
〈プレイヤー側の選択が終わりましたので、プレイヤーのターンを開始いたします〉
いよいよか
このターンが終われば、『呪怨』を発動する条件が整うわけだけど…
もし役に立たない、『コマンド』だったら、、
正直、これがダメならもう方法が無い
眉間にしわを寄せる蓮。
そんな彼の耳に、可笑しな笑い声が聞こえ始めた。
「はははははははは」
この笑い声、、鮫島か？…
でもなんで笑って、、、
横を向いて確認すると、そこには腹を抱えて笑っている姿があった。
状況を理解出来ていない蓮に、機械音が現実を教えてくれる。
〈ブー！〉
〈プレイヤー『鮫島』は、『逃げる』を選択致しましたので実行します〉
――え？… 嘘だろ…
蓮の視線に気づいた鮫島は、満面の笑みを見せた。
