15 Decoy《デコイ》
やっちまった…
だってしょうがないだろ？… 体が勝手に動いちゃったんだから
今まで俺を虐めてた松尾が、気を使って誘導魔法を使わなかったってさ！凄い嬉しいんだよ、、、
それに、今彼女が命の危険に晒されているのは、俺を守ったからなんだ
そんな人を見捨てる事は出来ないよ
蓮は注意を引くために、化け物目掛けて石を投げたのである。
なんとか頭に当たってくれたようだな
さて、ここからどうするか、、、
そう、通常ならばこの程度で化け物の気を引く事は出来ない。
――はずなのだが
『ヴヴヴヴヴヴウゥ』
急に様子がおかしくなる。
まるで食事を邪魔された時に、怒りを表す猫のようだ。
あと、もう1発石を投げればいけるか…
蓮は、足元にある石を拾ったがそれは無意味になってしまう。
〈ブーッ！〉
〈『呪猫は、攻撃対象を『蓮』に変更致しました』〉
突然響いた機械音に少し驚いてしまったが、すぐに顔をニヤつかせる。
やった
成功したんだ
これで、松尾を助けられる
蓮の狙い通り松尾は救われた、だが、またあの苦痛に耐えなくてはならない。
〈『呪猫』は『蓮』に『噛み付く』をした〉
化け物は先程と同じように、全く同一箇所を噛む。
嫌がらせか？…
化け物の顔に備えられている多数の口がほくそ笑んでいるように見える。
だが、本当の試練はここからだ。
これからまた、あの堪え難い痛みに耐えなければならない。
歯をガッシリと食いしばり、機械音の進行を待つ。
この時間は永遠に思える。
しかし、永遠ではないとすぐに体験する事になるのだ。
〈ジジッ！…〉
来た、機械音が… あの痛みがまたやってくる。
〈『蓮』に『3500000』のダメージ〉
〈今からダメージをプレイヤーに貫通させます〉
機械音の後に噛まれた箇所がジワジワと痛くなってくる。
そして、何回も骨を折られ、火に直接つけられたような痛みや熱を感じるのだ。
クソ！… またか…
「く、あぁああああぁあああ」
蓮は、痛みに耐えかねて地面の上でのたうち回っている。
それを笑いながら見ているのは鮫島だ。
お前は何をそんなに笑っているんだ…
蓮の目は憎しみに満ちている。
松尾を助けようともしなかった奴が……
鮫島は上を向いて笑っているので蓮の強烈な視線を感じることはない。
軽い調子で話しかけてきた。
「お前もよくやるわ、、もしかして松尾のこと好きなのか？ははは」
「違うよ、、、」
ダメだ、この男が憎い
いつまでヘラヘラしているんだ
松尾の命なんて、お前にとってはどうでもいいのか？…
流石に会話中は、蓮の怒りの眼が目立つ。
気まずくなった鮫島は、雰囲気をかえるために真面目な話に切り替える。
「で、どうするよこの後、奴隷君に何か考えはあるか？俺は一応、用意して…」
「あるよ。ねぇ鮫島君、MPを味方に移す『魔法』って存在する？」
俺は昂ぶる気持ちを抑えきれずに、鮫島の言葉と被せた。
まだ、俺には攻撃手段が残っている事に気付いたのだ。
HPがバグっているように他の能力もバグっている可能性がある。
そう、俺が気になっていた『コマンド』はMPを消費するあれだ。
「あるけど、そんなんどうするんだ？」
「少し試してみたい事があってね。3人とも助かる方法は、これしか無いと思う」
鮫島には濁して伝えたよ。
だって、それは存在しないはずの『コマンド』、『呪怨』なんだから
言ってもどうせ信用してくれない。
蓮は、以前に見たコマンドを思い浮かべていた。
――――――――――――――――――――――――――
選択時間:20秒
→ ●物理攻撃
●呪怨 ※MPが0のため使用不可
●身を守る
●アイテム――――――――――――――――――――――――――
一体何なのか分からないけど、もうこれに頼るしかないか
あれ？…そういえば
蓮は思い出したかのように、鮫島に向かって質問をした。
「そういえば鮫島君！さっき君にも何か考えがあるって言おうとしてたような」
「ん？、いや！何でもないわ。俺の勘違いだった」
「そうなんだ… あっ、さっきは被せて話しちゃってごめんね」
蓮が視線を外すと、鮫島は化け物のように口角を上げてニヤついていた。
「奴隷は、お人好しだな」
――全員で生還できるわけないだろ
