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116 チュートリアル


ーーザワザワ。


 聞こえる。


 先ほどまでいた森の静けさから、人の活気ある声に周囲の音が変わっている。

 心地よい光のに包まれていたが、いつのまにか地に足がしっかりと着いた感覚に戻っていた。


「いつまで目を閉じている? もう我の魔法は終わったぞ」

「え?……」


 目が覚めると辺り一面の景色は変わっていた。

 一面の緑色に覆われていた草木は視界から消え去り、目の前に現れたのは白色のブロックで積み上げられた綺麗な街並みであった。

 広場と思わしき場所には噴水が設置されて綺麗な弧を描いて水が出ている。


「ダンジョンに入る前に薬草はいかが〜!」

「テメェ。何勝手に俺と商売被らせてんだ」

「う、うるせぇ。薬剤売りなんて誰でもやってるだろうが」

「なんだとぉ!」


 国民と思わしき人達が忙しなく動いているのだ。

 ある者は食物を、そしてある者は銅や鉄製の武具を広場で並べて売っている。

 そして露天商どうしでイザコザを起こしているところもああった。


 見たことのない食材。

 獣の骨が並べられ、禍々しい雰囲気の怪しい店など、所狭しと並んでいる露店が広場に訪れる人々を誘う。


「すごいな。ここが王都か」

「今のうちだ……」


 サシャが呟いているのが聞こえた。

 蓮の肩の上で何やらモゾモゾ動いている影がある。

 彼が王都の光景に圧倒されているうちに、サシャはなんとか蓮の肩から抜け出したのだ。


「ふぅ」


 彼女は額から流れ出る汗を拭い。ニヤリとした顔つきを見せた。


「ようやく離してくれたか。にしても危なかった。偉大な狩人が弱そうな男に担がれているなど見られたら一族の恥になってしまう」

「なんか言ったか?」

「ん? いや何でもない。ははは。ここまで運んでくれてありがとうな」

「そうか……」


 蓮のそっけない態度にサシャは少しムッとした表情を見せた。

 彼女の戯言に付き合うよりも、蓮は目の前の光景を理解することに集中したかったのだ。

 蓮は広場の辺りを見回した後に、近くの露天商に声をかけるために小走りで移動していた。


「おいおい勇者様。あいつを好き勝手に行動させてもいいのか? 正直、我も早く教会に行きたいのだが。魔力を使いすぎた」

「あのスレイブは王都に来たことがないらしい。少しは好きにさせてやろう」

「勇者様はそういうとこ甘いなぁ〜」

「大魔導師様ほどではないですよ」

「え?」

「転移魔法いがいにも回復魔法でみんなを回復させましたね」

「バレてたか〜。ははは」


 大魔導師カレンは、頭をポリポリとかいて照れ臭そうに勇者アーサーに向かって話した。


「面と向かって、回復してやったぞ。と思われたくなくてな。みんなには黙っててくれよ。MPは回復できてないしな」

「ははは。分かってますよ」


 2人が微笑ましい会話をしている。

 そんな中で、蓮が興味を持ったのが武具の露店だった。


「武器は売ってるのか」


 蓮は地面に並べられた武具を見ていた。

 すぐそばにそれぞれの武具の価値を表しているのであろう、安っぽい鉄に刻まれた数字がかかれていた。


 ・木の棒  500G

 ・獣骨のナイフ 1200G

 ・銅製毛皮 800G


「この街はゲームで言うと出発地ってところか?」


 蓮が興味深々で武具を手に取っている。

 どうやら、ここ王都はチュートリアルが終わって冒険を始めたばかりのプレイヤーが集まる場所のようだ。

 武器も1つ1つが簡素なもので、使用されている材料も安価で粗末なものだと分かる。


「お客さん。そんなにベタベタ触らんでくれるかね?」


 子供のように武具を触りまくる蓮は、鋭い眼光の爺さんが睨んでいる事にようやく気付いた。

 腕を組んでムスッとしている。随分と怒っている様子だ。


「あんたの身なりからして、奴隷(スレイヴ)だろ? 元々ダンジョンに入るような職業じゃない。買うつもりもない奴に商品をベタベタ触られたら困るんだよ」

「え?」

「ははは。すみませんね。どうしても商品がみたいなら、このステータス測定器(スカウター)で能力を教えてくれ。攻撃値が100を超えてない奴に売る武器はないんでねぇ!」


 武具の露天商が少し怒り気味で、拳ほどの大きさの石をこちらに出してきた。

 ニヤニヤとした顔つきで。

 恐らく、攻撃値が100を超えないと知っていて渡しているのだろう。

 確かに通常の奴隷(スレイヴ)なら不可能な数値だ。


(全く……。この奴隷はなんて図々しいんだ。ふはは。恥をかけ。このスカウターは触れると自動的に空中に攻撃値が浮かび上がる仕様になっている。この広場で笑い者にでもなってしまえ!)


「なんでそんなにニヤニヤしてるんだ?」

「い。いやぁ。ワシは最初からこの顔だ。さぁ。さっさとスカウターを手にとらんか! 攻撃値が測れんじゃろうが!」

「この石を握れば測定されるんだな?」


 蓮もニヤリとした表情をして石を握ろうとした。

 露天のジイさんは、その表情を不思議そうな顔をして見ている。

 なぜこの奴隷は余裕そうな表情をしているんだってな。


 不思議そうな顔をしているジイさんを見ながら、蓮はスキルを発動した。


ALL CHANGE(オール・チェンジ)発動……】


(攻撃値が100を超えなければならない。か……。さて、どうしたものか。このくらいにしとくこうかな)


 蓮は考えていた。

 攻撃値を高く設定しすぎても、王都で目立ってしまう。

 リリアンという化物がこの国のトップとするならば、今はまだ存在を隠した方がいい。


「どうしたのじゃ。早く石を握れ」

「あぁ。すまない」


 なかなか足を握ろうとしない蓮を見て、露天商のジイさんはさらにニヤついた表情を見せた。

 いや、広場のある一定の人数が蓮に視線を移しているのだ。

 人の不幸は蜜の味というのは世界が変わっても同じらしい。


 もちろん蓮は、自らの攻撃値を晒す事が嫌で留まっているわけではない。

 どのくらいの攻撃値にするかを調整していたのだ。


(このくらいでいいよな?)


 蓮は少し不安な表情を見せながら、石を受け取った。

 すると石から少し上の空間に数字が映し出されている。

 それを見た露天商のジイさんは腹を抱えながら笑い出したのだ。


「ふはは。お客さん! 攻撃値が10なんてダメダメ! 帰った帰った」

「「え?……」」


 笑っているジイさんとは対照的に周囲はどよめいている。

 むしろ、周囲の人間は笑っているジイさんを見て驚いているのだ。

 あなたが間違っている。。。と。


「……なんじゃ。みんな何故笑っていないんじゃ」


 露天商のジイさんは蓮が石を握った瞬間。

 最後の桁の数字だけ見て勝手に判断していたのだ。


「10? ちゃんとよく見てくれよ」

「へ?」


 奴隷を馬鹿にしていた露天商のジイさんは、徐々に顔が青く染まっていった。

 ありえない数字が石から映し出されていたからだ。


――職業  【奴隷(スレイヴ)

  攻撃値 10000


 映し出されている数字を左へとゆっくり見ていくジイさんの口があんぐりと開いていく。


「嘘じゃろ?……。 攻撃値が1万?!!!」

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