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115 光へ

 

「肩から下ろして!」



 サシャの必死な声が森に響き渡る。

 蓮の肩の上からなんとか降りようと体をジタバタさせている彼女。

 腕をどかせようと、もしくは自身の体をすり抜けようとするがうんともすんともいかない。

 蓮は、そんな、う〜う〜と唸っている彼女を気にも留めていなかった。

 目の前で起きている事が信じられなかったからである。



 空に青く輝く魔法陣が展開されて、この世のものとは思えない光景が広がる。



「す、すげえ」



 巨大な魔法陣を1人で、しかも軽々とやってのけているカレン。

 そんな彼女は涼しげな口調で蓮の方を見ていた。



「どうだ。すごいだろう。我の魔力は!」

「本当に大魔導師だったんだな」

「ふっ。ははははは〜!」



 蓮の方をじっと見た後に顔に片手を覆い被した。

 カレンは驚きを隠せない蓮を見て大きく笑っているのだ。

 そこには少し照れのようなものも混じっているのだろう。笑い終えると、蓮から目線を少し外しながら会話を続けた。



「空間転移魔法を見るのは初めてか?」



 小さな声で尋ねる彼女に、蓮はこの地に飛ばされた時を思い出していた。

 ガリウスとか言う宰相に会った時の記憶だ。



「いや、一度だけ。ここに来るときに大勢の魔導師達にかけられたことがあるけど……」

「王国の魔導師どもか。あやつらは粗悪な真似事をしているにすぎない」



 蓮は、ここに来る前の空中に浮かんだ大量の魔導師達にかけられた魔法を思い出していた。

 確かに、あの時の魔法もすごかったが。大勢の魔導師がいないと空間転移などできないと言っていたはずだ。



「まぁ。我が特別なのだから仕方ないが」



 驚きを隠せない蓮を見たカレンは、ニヤついている姿が布越しにも分かるほど表情を歪めていた。

 そんな彼女を勇者アーサーはなぜか心配そうな顔をして見つめていた。

 そして、腕を組みながら蓮に向かってこう言った。



「もうそろそろ発動するぞ」



 勇者が術の発動を読み取った瞬間。

 森の空気の流れが変わり、木々に止まっていた動物たちが一斉に散っていく。

 動物たちも本能で分かるのだろう。

 大きな魔力が凝縮されていることに。



 煌々と光り輝く魔法陣はさらに激しく光っていく。

 そして、蓮達は青い光に包まれていったのだ。



「ふふふ。我の魔法は王国の魔導師どもとは精度が違う。きちっと王都の広場に移動させてやる」

「カレン。あまり侮るなよ、君はいつも……」

「うっさいなアーサー! 勇者様はじっくりと我の魔法を見ていてくれ」

「分かったよ」



 カレンは苛立ったようにアーサーに向かって言った。

 さっきのアーサーの心配そうな顔といい、カレンにはどこか弱点があるのかもしれない。

 少し気になった様子の蓮だったが、担いでいるサシャの様子がおかしかったのでサシャに話しかけていた。



「どうした? ぐったりして?」

「う〜。もう諦めた。このまま空間転移していいや……」

「疲れてるんだろう。教会で回復するまで担ぐよ」

「そうだな。もういいや」



 サシャは少し悲しそうな顔をしながら、蓮の肩の上でうなだれていた。



「ふふふ。では、発動しますよ」



 その様子を見ていたカレンは少し微笑むと杖を天空に突き刺し、魔法を発動させた。



 ――空間魔法・精霊の軌跡!



「あ……? れ?」



 魔法が発動すると蓮の視界が真っ白になった。

 でも、不安にはならない。それどころか、どこか心地よい。

 眠ってしまいそうだ。



 意識が遠のきそうな中で蓮は、過去のことを思い出していた。



 早く起きなさい。

 氷華ちゃんが待ってるわよ。



 あれ? お母さんの声が聞こえる……。

 そういえばいつもこんな風に1日が始まってたっけな。



 異世界に来る前の事を思い出しながら、蓮の意識は魔法陣の光の中へと吸い込まれていった。

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