114 大魔導師
「我のことを舐めとるのだろぉ!!!」
ーー魔導師とは、
古来より異質な存在であった。
簡易な魔法を使う者は少なからず存在したが、複雑な魔法式を組んで高度な魔法を操る者は魔導師と呼ばれ人々から尊敬の念を受けていた。
特に、伝説の魔導師と呼ばれていたカフロスは大樹から削り出した大振りな魔法の杖を持ち、帽子を深く被り、素顔をあまり見せなかった。
カフロスが若い頃は王都にも呼ばれ、さまざまな災厄から国を守る為に動いたが、晩年は森の中にこもって隠遁生活を続けたと言う。
「まぁいい。我の偉大さも分からぬとは、我は頭いいからの〜」
大魔道師と自らを名乗る少女は、真っ暗なローブから分厚い本をわざと見せ、ニヤっとしながら読み始めた。
「我は頭いいからの〜。こ〜んな難しい書物もペラペラするだけで頭に入るのじゃ〜」
「あっあの、、、」
「ほう、どうした? 我のすごさが分かったか?」
「いや、魔道師ってただのヤバい奴なんですか?」
「んっ……」
蓮は苦笑いをした。対して、魔導師の顔はどんどん赤くなっていく。
「やばくないわ! この本は伝説の魔導師カフロスの伝記じゃ! ちなみに伝説の魔導師カフロスは我の師匠だぞ! 我はすごいんだ!」
どうやら、この本に出てくる伝説の魔導師カフロス。
この人物が自身の師匠であると言いたいのだろう。実際に彼女が手にしている大きな魔法の杖は、随分と古いものだ。
「無学なスレイヴも、伝説の魔導師カフロスの名は聞いたことはないのか!」
今にも泣き出しそうな顔で、蓮を見てくる彼女は、口元に本を持ってきて崩れた表情を隠そうとしている。
驚いてそうな反応をとって欲しいのだろうが、蓮は反射的に素直に答えてしまった。
「カフロス? 聞いたことがないな」
「な! なんだと!? 我が師匠の名を聞いたことがない者などこの世界に存在するのか? 我、ほんとはすごくないのか? これからは小魔導師と名乗ればいいのか?」
(まぁ、厳密に言えば俺はこの世界の人間じゃないけど)
一度、落ち込んだ魔導師であったが、急に彼女の周りを明るい光が包むと、彼女の元気が取り戻された。
実は彼女、ネガティブな自分のために気持ちが落ち込んだらハイになる魔法を自動的に発動するよう設定しているのだ。
元気になった大魔導師様は、蓮に向かって意気揚々と杖を振り上げる。
「ふっ。まぁいい。私が言いたいのは、私は伝説の魔導師の弟子だと言うことだ! この魔法の杖が何よりの証拠」
そういうと彼女は大きな杖を地面に勢いよく刺して蓮に向かって言った。
「我が名は大魔導師カレン。よく覚えておけよ」
「……カレン?」
蓮は驚いた表情を見せてカレンの方向を向いた。
現実世界にいた時の同級生、火憐と同じ名前だ。
リリアンといい、この世界と現実世界には変なつながりがあるみたいだ。
まぁ、もともと火憐はこの世界の住人じゃないから本人と違うけど、どこか懐かしく思えてくる。
「ふふっ」
「何がおかしい!? 我が名がおかしいか?」
「いや。いい名前だなって思ってさ」
蓮はカレンの方向を向いてニコッとした。
そういえば、身長も体格もどことなく火憐と似ている。
怒りっぽいところまでそっくりだ。
顔は、布で巻かれてるので似ているのか分からないが、雰囲気だけでも安心できる。
「ふふふ。そうか。やっと我の偉大さに気づいたか」
カレンの方は自身の名前が褒められたことが嬉しかったらしい。
腕を組んで顔を縦に振っている。
「これで、勇者の仲間は全員か?」
「そうだ。我、大魔導師カレン。そこにいる勇者アーサー。そして、貴様の肩の上でくつろいでいる狩人サシャ。これで全員だ」
カレンは腕組みながら蓮の質問に答えた。
すると、蓮はサシャがボソボソ言っているのが聞こえた。
「くつろいでるわけじゃない……」
「サシャ。無理をしなくてもよいぞ。このまま、我、大魔導師が空間転移魔法を用いて王都まで連れて行ってやる」
「え?!」
「なんだ。礼はいらんぞ。街の広場に転移してやる」
そういうとカレンは魔導の杖を天へと大きく掲げた。
そして、目を閉じて呪文を唱え始めた。
杖の先端から円盤状の魔法陣が広がる。蒼く光っていて美しい。
どうやらカレンは空間転移魔法を発動し始めたようだ。
しかし、サシャは慌てた様子で叫んでいた。
――肩から下ろしてよ〜!!!




