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112 皇女


「離せ! 離さんか!もう1人で歩ける!」

「はいはい」


 ザッザッザッ

 ビンタされた事でイライラしていた蓮は、サシャを下ろそうとせずにゆっくりと歩いていた。


「重いなぁ……」

「はぁ? なんだと!?? もう動ける! 降ろせ」

「無理しなくていいですから」

「お・ろ・せ!」


 蓮はサシャの言葉をスルーして歩き続ける。

 ミシッミシッと森の腐葉土を踏みしめながら、前へ進んでいく。

 いつもならスピードを出して進むのだが、力を使い果たしたサシャを担いでいるので、普通の歩くスピードを維持している。

 疲れているサシャを思って蓮はこの対応をとっているが、サシャは納得いかないようだ。

 蓮の左肩に担がれた彼女は、嫌そうな顔をしながら、下ろせ!と喚いている。


「離せってば!」


 自分の肩でうねうねと動くサシャをみて、蓮は少し笑っていた。

 誇り高き狩人が奴隷に担がれているのが、恥ずかしいのだろう。サシャは顔を赤らめて蓮を睨んでいる。


「……お前は本当に奴隷(スレイヴ)なのか?」

「急に大人しくなったな」


 サシャのこの言葉で空気が少し変わった。

 蓮が彼女の方を見ると、恥ずかしそうな表情から眉間を寄せて疑っている表情に気づいた。


「私の狩人の神器をもろともせず、筋肉の塊である私を軽々と持ち上げるその膂力(りょりょく)。とうてい奴隷(スレイヴ)のものとは思えない」

「まぁ……。それはよく言われる」

「本当は上位職なんじゃないのか?」

「いや、俺は正真正銘の奴隷(スレイヴ)だよ」

「う〜ん。納得できない」


 サシャは顔を捻らせて、納得できない様子で目を瞑っていた。

 モノを担ぐように運ばれている状態で、真剣に考えている様子はなんとも滑稽である。

 少し笑いそうになっていた蓮は気を紛らわすために話題を変えた。


「そういえば、王都ってどんなところなんだ?」

「ん? 貴様、王都を知らないのか〜? 田舎者め」


 ニヤリとしたその表情はどこか嫌味ったらしく、可愛げなものでもあった。


「田舎者で悪かったな」

「ははは。そう怒るな。私も王都にはあまり行かないんだ。詳しくはないが分かることは教えてやる」

「頼む」

「まず、王都にはもちろん王様がいる……。だけどな」


 サシャはそう言うと途中で言葉を止めてしまった。

 地面を見つめて何かを考えているようだ。どうやらこの国の王様も何やら問題があるらしい。

 蓮がサシャの方を見つめていると、少ししてから会話を始めた。


「王様はいるんだが。今は事情があって、その娘の皇女が実権を握っている」

「皇女?……」

「あぁ、まだ若く、年端もいかない娘だが強権で政治を支配している」

「皇女か。でも、若くて綺麗な子だったら国民も喜んでるんじゃないのか?」

「……」


 蓮が呑気に話しているのとは対照的に、サシャは歯を食いしばり、目は憎しみに満ちていた。

 その皇女に対して、余程の恨みでもあるのだろうか。


(話す話題を間違えたかな?)


 蓮は気まずくなった雰囲気になってしまったので、無言のままで歩き続けた。


 ザッザッザッ。


 それから、しばらく歩いたおかげであともう少しで勇者の元にたどり着く地点まで来た。

 先ほどの雰囲気を変えようと蓮はサシャに話しかける。


「あともう少しで、下ろしてやれるぞ。はは」

「すまないな」

「え?」


 サシャは地面に顔を向けたまま声を出していた。

 自分が雰囲気を悪くしてしまった事を、気にかけているようだ。


「変な雰囲気になってしまったな。貴様の言う通り、国民は皇女を慕っている……。いや、騙されている。あの悪魔に」

「皇女が悪魔なのか?」

「あぁそうだ。貴様も覚えておくといい。その悪魔の名は……」


 ――皇女リリアン。

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