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106 狩人

 


 弓使いのサシャ。

 勇者アーサーのパーティーに加入したのちは数々のダンジョン攻略を補佐。

 彼女の腕前は百発百中で王国一の弓取り、と呼ばれている。

 その正確性は言うまでもないが弓矢の速度も化け物級だ。

 放った弓矢は岩盤に深く突き刺さり、高速で飛ぶドラゴンにも劣ることは無い。



 その落ち着いた性格からパーティーの中では参謀としての役割も担っている。



 ◆◇◆◇◆◇



 一本の弓矢が蓮の顔のすぐ近くを通り過ぎた。

 まさに一瞬。早すぎて蓮も反応が出来なかったのだ。

 まだ勇者のパーティーに弓使いがいると確信できない蓮は混乱していた。



(俺を殺そうとしたのは誰だ? まさか勇者の仲間……)



 おおよその検討はついているが確信は持てなかった。

 だってそうだろう。

 勇者と握手をしようとしているのに、なんで攻撃してくるんだ。

 真っ青な顔で考える蓮。

 反応できない速さだ。次、当てに来られたら確実に当たる。

 冷や汗の止まらない蓮は、最悪の事態を考えてスキルを発動した。



ALL CHANGE(オール・チェンジ)発動します】

【HPから防御値に100万移動】



 念のためだ。

 100万の防御力なら仮に脳天を弓矢で狙われても弾き飛ばせるだろう。



(でもなんで攻撃なんかしてきたんだろうか?)



 殺される、という憂いは消えたが攻撃される理由が見当たらない。

 どういう事だ?と言わんばかりにアーサーに目で訴える蓮。

 しかしそれはアーサーも同じだったようだ。



「今、矢が飛んできましたね。ははは」

「……」



 苦笑いをするアーサー。

 彼は蓮に声をかけた後に、後ろを振り向き口に手を当てて大声を出した。

 綺麗な顔立ちとは思えないほど大きい声だ。



「彼は敵じゃない!」



 森中に響く声。

 それは一つの方向に向けて発せられたものでは無いように感じる。

 どうやら勇者自身もサシャの居場所が分からないようだ。

 いや、分かるわけが無い。

 サシャは……。



 数キロ離れた場所にいたからだ。

 その地点。通常の視力では見えない位置で、彼女は小さく呟いた。



魔法(マジック)……。狩人強化(パワー・ハンター)



 サシャの脚力が増強されていく。

 そして、彼女は獣から剥いだ毛皮を身にまとって颯爽と駆け抜けてくる。

 まるで矢のような速さだ。



 ズシャズシャズシャ!



 サシャが地面を蹴り飛ばす音が森に響く。

 この強靭な脚は、まさに魔法の影響だ。

 一歩一歩踏みしめていくたびに地面は(えぐ)れ、数メートル先へ自身の体を飛ばしている。

 通常時のマダムのような口調からは考え付かないほどの野蛮な見た目、動作だ。



「勇者さん。本当にその奴隷は大丈夫なのですか?」



 移動中にサシャは何かを呟いた。

 そして……。

 あろう事かサシャは大きな弓を背中から取り出したのだ。

 片手に持って再度弓矢を蓮に向かって構える。



 走りながら弓矢を構える姿は、まさに神話に登場するケンタウロスだ。

 しかも彼女の放つ弓矢は移動中も百発百中。



 ビュンッビュンッビュンッ!



 さっきまでとは違う。

 蓮を狙う弓矢は確実に彼の体を狙っている。一本目の弓矢はただの威嚇ようだったらしい。

 一本一本が蓮の頭、腹、足を狙ってきている。

 だが蓮も何も対策してこなかったわけじゃない。



 キンキンキン……。



 弓矢は蓮に当たると弾き飛ばされた。

 スキルで防御力を上げたおかげである。



「ふぅ……」



 弾き飛ばされ、地面に転がった矢を見て蓮は大きく息を吐いた。



(助かった)



 安堵している蓮は弓が放たれた方向を見て改めて驚く。

 なぜなら蓮には未だサシャの姿が見えていないからだ。

 森の中という事もあるが、一体どれほどの離れた所から打っているのか想像もつかない。



(なんで俺に当てることが出来るんだ。石黒大将と同じスキルの持ち主か?)



 蓮が疑問に思うのも無理はない。

 弓使いのサシャの名声には、その弓の腕前もさることながら、彼女の保有スキルも影響している。

 彼女の目をよく見て欲しい。

 常に綺麗な青色をしているだろう。



 これは単なる遺伝でも無いし魔法でも無い。

 蓮がALL CHANGE(オール・チェンジ)というスキルを保有しているように、サシャもスキルを保有しているのだ。



 彼女の保有しているスキルは狩人の眼(かりゅうどのまなこ)

 数キロ離れた場所も鮮明に写すことが出来る、という能力を持つ。

 石黒大将のスキルは命中率を100%に上げる事だったけどサシャのスキルは命中率を上げる事にはならない。



「何、私の矢が弾かれただと?……」



 当然。遠く離れたサシャからも蓮が弓矢を弾いた光景が見えている。

 それを確認したサシャは顔をしかめた。



(勇者さんの斬撃を止めて私の弓矢も弾くなんて……)



 奴は危険すぎる――。



 サシャが勇者の言葉を聞かずに蓮への攻撃を開始したのには理由があった。

 何も闇雲に攻撃をしているわけでは無い。

 彼女は思ったのだ。



 この世界で忌み嫌われる奴隷(スレイヴ)という存在。

 そんな奴隷(スレイヴ)である男が強大な力を持っていたとしたら。

 復讐の為に世界を襲うのではないかと。



(私達で彼を食い止めなきゃ……)



 覚悟を決めたサシャは足を止めた。

 木々が生い茂る中で重心を落として、弓矢を水平に構えたのだ。

 そして彼女は、なぜか矢を持たない右手で弓の弦に指をかけた。



「まさか奴隷(スレイヴ)にこれを使うなんてね」



 苦笑いをするサシャ。

 彼女が笑う頃には右手には、綺麗な青色をした真っ直ぐな矢が形成されていた。



魔法(マジック)……。狩人の神器……」



 その矢は美しく光っているが、どこか荒々しさを感じる異質なものであった。



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