101 勇者パーティー
ードラゴンの巣、入り口ー
ガリア王国が国家機密の一つとしている、ドラゴンの巣、の場所。
この世界で最も攻略が難しいと言われているダンジョンの一つである。
その場所はガリア王国が最高峰の高さを有する恐山。その頂上付近にある。
「レイヴン公の仰っていた奴隷はまだ来ないのですか?」
「知らねぇよ勇者」
「コラコラ。汚い言葉遣いはダメですよ、ホホホ」
その過酷な恐山……ドラゴンが潜むエリアに入るギリギリの所で、三つの人影が岩場に腰掛けて話していた。
一人はマントをかけた若い男だ。剣を背中にくくりつけている、その容姿は中世で男が惚れるほど美しい。
丁寧な言葉遣いにシンプルだが美しい剣。
勇者として相応しい風貌だ。
「なんだよ、言葉遣いなんてどうでもいいだろ!」
対して仲間に諌められ、逆ギレしているのは背が低めの魔導師である。
大きな杖を片手に持ち、ハットを顔深くまで被っている。そのせいで表情が見えない。
長い髪と高い声が女性である事を示しているが風貌の特徴はそれだけだ。
「ホホホ。どうでもいいわけないでしょう?」
そして、その諌めている本人は大きな弓と矢を背中に備えている。
片手を口に添えて笑う仕草はまさにマダムである。
容姿からみるにお姉さんといった所なので、その口調には少し違和感を感じる。
そんな三人が仲良くも賑やかに会話をしていると、勇者がスッと右手を掲げた。
「どうしました勇者さん?」
「トイレでも行きたくなったか?!」
弓使いと魔導師が勇者の方を見て少し微笑んだ。二人してトイレだと思っている様子である。
それを見た勇者は、やれやれ、という感じで呆れた表情をするとゆっくりと立ち上がった。
「違います……音を立てすぎたせいか敵に気づかれたんです」
「「え?……」」
勇者の言葉を聞いて弓使いと魔導師は二人して目を合わせた。
驚いている様子である。
そして、二人の言い争いを止めた後に勇者は目を閉じた。
敵の気配を感じた勇者は腕を組んで精神を集中させているのだ。
しかし周囲に敵の姿は見当たらない。
辺りをキョロキョロ見回しているのは弓使いだ。弓と矢を手に取ると左右を交互に見て警戒している。
しかし、一向に敵の姿が見えない。
「く。敵はどこにいるんですか?」
「……」
「勇者さん! 無視しないで下さい!!」
「クハハ。全く、お前は弓使いの癖に周りが全く見えないんだなぁ」
敵を捕捉できない弓使いとは対照的に、魔導師と勇者は発見したようだ。
二人は落ち着いた様子で自らの武器を握りしめている。
「よっと」
魔導師は岩場から降りると杖を前に突き出して、詠唱を始めた。
「我を守る精霊よ……草木に宿る精霊よ……精霊の加護……」
「ちょ、ちょっと! なんで魔法を唱えてるの。それにそれって防御魔法じゃ」
「……うるさいなぁ! お前の目は節穴か? 敵は上にいるんだよぉ!」
「え?」
弓使いが恐る恐る顔を上げると、それはそこにいた。
生い茂る木々の隙間から見える真っ赤な体に鋭い瞳。
成体のドラゴンだ。
「ウォオオオオオオオ!!!」
地面が揺れるほどの咆哮が三人を襲う。
「う、うるさい……貴方が言っていた攻撃ってこれ?」
「違う!!」
勇者以外の二人は耳を塞ぎ、歪んだ表情で会話をしている。
勇者の方はというと未だ動こうとしない。
「……」
「勇者さんも黙っちゃって……何が来るんですか?」
「もうくるぞ!」
魔導師が叫び声を上げると、ドラゴンも大きく呻き声をあげた。
そして……。
【ボオオオオオオオオ!!!】
ドラゴンの口から炎のブレスが放たれたのだ。
一体の木々を焼き尽くしそうな強烈な炎。それが三人の頭上から襲いかかった。
「ちっ。詠唱を華麗に決めたかったんだけどな……。魔法! 精霊の盾!」
魔導師が杖を高く掲げると、空中に透明な巨大な盾が出現して炎を遮った。
三人だけではなく周辺の森の木々を全て覆うほどの巨大なものだ。
そして……。
「魔法……勇者の斬撃」
勇者は剣を背中から抜くとドラゴンの方向に向かって斬撃を飛ばした。
風圧を切り裂いて生じるその斬撃は肉眼でもハッキリと見える。
【ザンッ!……】
斬撃がドラゴンに当たるとドラゴンは怯んで山の奥深くへと飛んで行った。
それを見た後に勇者は二人に礼を述べた。
「ありがとう。流石は我が仲間だ。弓使いのサシャに……」
魔導師のカレン――。




