100 勇者と女兵士
「勇者御一行?」
蓮は兵士の女に向かって尋ねる。
勇者なんて職業は無かったはずだ、一体、どんな奴なのか想像もできない。
ただ、レイヴンと女の顔を見ていると、どうやら勇者と呼ばれる者は相当に手練れのようだ。
「知らないんですか? かの勇者パーティーはダンジョンをいくつも攻略して、身につける防具は希少なものばかり、誰も勝てません」
「へぇ。そんなに強いのか」
「当たり前です。私も以前、助けてもらいましから……」
女の顔がポッと紅くなる。
勇者に惚れているのだろう、と言わんばかりの表情だ。勇者は力だけではなく顔も凛々しいと容易に想像できる。
「な、なにジロジロ見てるんですか?」
「はは。何でもないよ」
蓮は混乱している頭の中を整理した。
まず第一に、蓮達奴隷はレイヴン公の依頼を達成すれば解放される。
第二に、その依頼とはドラゴンの巣食うダンジョンから貴重な薬草を持ってくる事。
第三に、ダンジョンに侵入するのは蓮と女の兵士、それに勇者のパーティーである事。
(とりあえず、俺はダンジョンに行けばいいって事か)
蓮が首を傾げているとレイヴンが女に話しかけてきた。
「兵士よ。名は何という? 我が頼みを聞いてくれた者の名は知っておきたい」
「恐れ多い言葉です。私の名はミサと言います、どうぞお見知り置きを」
「ではミサよ。その奴隷が逃げぬようしかと見張っておくのだぞ」
「はい!」
女は軽く会釈をすると、キリッとした顔立ちでレイヴンを見た。
レイヴン公は一国の宰相。どこか抜けているミサでも、緊張は隠しきれない。手が震えているのが分かる。
蓮はレイヴン公の威厳を見た後に口を開いた。
「レイヴン公。ちょっといいか」
「なんだ奴隷?」
「一体いつに出発するつもりだ。ガリア帝国の精鋭とやらを待っていたら、何日も待つことになるんじゃないか」
「はは。余計な心配だ、もう準備はしてある」
「準備だと?」
「外に出てみてくれ」
レイヴン公の手招きで蓮とミサはあばら屋の外へと出ようとした。
すると……。
「お兄ちゃん……」
心配そうな声を上げる子供達は蓮をただ見つめていた。
自分達も付いて行きたいが、それはただの足手まといになると理解している。
どうしようもない気持ちを押し殺して、見つめていたのだ。
それに気づいた蓮は子供達の方を見て一言。
「すぐに帰ってくるから」
にこやかな表情を見せて、そのまま外へと出て行った。
絶対に任務を完了させる。そして子供達を解放させる、そんな思いを胸に秘めて。
「ん?」
外に出てみると山の中であった。
どうやら、あばら屋は山中に建てられたものらしい。
しかし遠くに街が見える。ミサは毎日あの街から見回りに来ていたのだろう。
蓮が辺りを見回しているとレイヴンが声をかけてきた。
「山がそんなに珍しいか」
「いや、周りに馬が見えないと思ってな。どうやってダンジョンに案内するつもりだ」
「ははは。馬など使わんよ。空を見てくれ」
「……」
蓮は絶句した。
空には数百人ほどの人が浮いていた。一人一人が仮面を被り魔導師のロープを羽織っている。
魔術で飛んでいるのだろう。
「どうなってんだよ」
「……ぷはは!」
驚く蓮を見てレイヴン公は大笑いをした。
「いや失礼。田舎者の奴隷は魔術も知らないのかと思ってね」
「なにしろ。奴隷は魔法が使えないんでね」
蓮は澄ました表情で受け流すと話を戻した。
「で、俺とミサを魔法でダンジョンまで飛ばそうって事か?」
「大当たりだ。勇者達ももうダンジョンの入り口についているだろう」
レイヴン公のこの発言に食いついたのはミサであった。
「本当に勇者様が来られるんですね!?」
「あぁ……そうじゃ」
はしゃぐミサを横目に蓮は目を細めていた。
(頼むから。ダンジョンでこんな大声あげるなよ)




