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97 約束

 

「私達も連れて行って……」



 過去の異世界へと転移した蓮が、最初に話した相手は助けを請う奴隷の子供達であった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 同じボロボロの服を着た子供達。

 彼らは蓮に助けを求めてきた。

 どうやら、蓮は奴隷として捉えられているあばら屋からの脱出を彼らに話していたらしい。

 黙り込む蓮に対して、子供達は必死にせがんできた。



「このままだと私達、奴隷として売り飛ばされちゃう……」



 ウルウルとした目が太陽の陽に照らされて悲しく反射する。

 困った蓮が顔を背けると、ほかの子供達も同様に怯えていた。肩を震わせてこちらを見つめている。

 奴隷としての末路を彼らは分かっているのだろう。

 正直、蓮にとっては初めての世界だ。この世界のヒエラルキーも文化も分からない。



 ただ予測出来ることがある。それは、こちらの世界にも【職業】という概念があるのだろうという事だ。

 奴隷(スレイヴ)(キング)など、人々にはステータスが割り振られダンジョンが出没しているはずだ。

 蓮のいた世界がこちらの世界に同化していたのならば……。



「わ、分かった。何とかする。でも教えてもらいたい事がある」

「何?! なんでも教えるよ! 私はソフィア」



 蓮の返答に目を輝かせる少女。

 銀色の長髪をたなびかせて抱きついてきた。他の二人の子供達も同様に近づいてくる。

 それにビックリして後ずさる蓮。彼の反応を見てソフィアはクスっと笑った。



「何が聞きたいの?」

「この世界についてだ」

「へ?……」



 今度はソフィアが驚いてしまった。

 当然だろう。例えるならば、日本人が日本とはどういう国なのかも尋ねる様なものなのだから……。

 記憶喪失で記憶が全くないか、哲学的な思考をしているのか、とりあえずこの質問は一般的ではない。

 しかし、ソフィアはクスっと笑うと説明を始めた。



「お兄ちゃん変わってるね。お兄ちゃんが何日か前にここにきた時から、思ってたけど」

「は、はは」



 何も分からない蓮はただ苦笑いをする他ない。

 どうやら、ダンフォールがこのあばら屋についてから日はまだ浅いらしい。



「何を聞きたいのか分からないけど、職業とダンジョンについてかな?」

「うん」



 蓮の顔が引き締まった。

 やはり、と言うような顔つきである。彼の想像通りこの世界はゲームに似た異世界の様である。

 真剣な眼差しの蓮を見て、ソフィアは驚いた様子だったが説明を続けてくれた。



「こ、この世界の職業はね。何種類かあるんだけど……私たちは奴隷(スレイヴ)、最弱の職業。お兄ちゃんもだよね?」

「そうだね。俺もそっち側だ」

「だからお兄ちゃんも、この奴隷商の小屋にいるんだもんね」



 ソフィアはまたクスっと笑った。

 ここから脱出できる、淡い希望のおかげで心に余裕が出来たのだろう。その瞳にもう絶望はない。

 後ろにいる二人の子供も決意を固めた表情で、勇ましく立っている。

 そんな様子を見て蓮は、にこやかに笑った。



「この世界についての質問は後にしよう。今はここからの脱出が優先だ。俺が君達を外に出そう、約束だ」



 蓮がそう言うと子供達3人は互いに目を合わせて、さらに和かな表情になった。

 ダンフォールはこの子供達を助けるつもりはなかったんだろうか?

 そんな不可解な疑問を持ちながらも、蓮は腕を組んで考え始めた。



(どうやってここから出ようか?)



 蓮は顎に手を当てて考えている。

 ハッキリ言ってスキルを発動させ、攻撃力を上げてこのあばら屋を破壊すればいいだけなのだが、ダンフォールがそれをしなかったのには何か意図があるのだろうか。

 ここからの脱出など簡単すぎるのだ。

 それに、この場所がどこにあって周りがどうなっているのか?

 川なのか、森なのか、それとも街の中なのか、それだけは確認しておきたい。

 蓮は子供達の方を向いてゆっくりと口を開けた。



「なあソフィア。この小屋の周りはどうなっているんだ?」

「う〜んとね。分かんない……」

「そうだよな」



 やはり分からない様子である。

 恐らく、この小屋に連れて来られる際も馬車の様なモノで輸送されたのだろう。

 脱出を防ぐ為の常套手段である。そこで蓮はある事を考えついた。

 それは……。



「ソフィア。この小屋には誰か見回りに来ないのか?」

「来るよ! 兵隊さんがいつも人数を確認しているの!」

「そうか……」



 蓮は不敵にわらった。

 そう。彼は考えついたのだ。看守にこの世界の事を……俺達がこれからどうすれば良いかを尋ねればいいと。

 そして、その時は遠くなかった。

 あばら屋の扉から、ガシャンッ……という鍵を開ける音が響いたからだ。





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