その6 「※今回はネタバレが含まれております。これまでのお話が未読の方は、先に過去本編をお読みになってからご覧ください」 「うんうん!」
「前から私は、……自分では、何をしていいのか、わかりませんでした」
少女の眠たげな目が、伏し目がさらに影を落とし、見て分かるほど、明らかに俯いていた。
「気が付くと、よく、人から頼みごとをされ、進んで動く自分がいました。ですが……」
淡々と語る少女。こんな顔も出来るのか、と息を呑んでそれを見守っている少年。
「ああ、きっとこれが、私の生まれて来た意味なのだろう、と、いつからか、思うようになりました」
それこそ、正しく、勇者と呼ぶに相応しいのではないだろうか。
その行動が全て正しいのかどうか、はっきりとは分からないが、例えば、世界を救え、と言われたとしたら、この少女は喜んでやってしまうのだろう。それほどの真の強さを持っているに違いなかった。
――だから、
「うん、いいんじゃないの? それで、さ」
少年は言った。
「正義とか悪なんてのは、分からないけどさ……、誰かの為に自分から進んで何か出来るってヤツが、やっぱ、勇者なんじゃないの?」
「そぉ、なのでしょうか……?」
……まぁ、バカ正直とも言うけどね。
「それにさ、ここには自分が何者か分からないヤツだっているんだしなぁ~、ふはははは!」
と、少年はおどけて見せる。
だが、少女は笑わない。
「…………」
「? どうしました?」
「い、いやっ、なんでも、ないよっ。――ってかさ、病を治す泉でも、こんなに浴びたら風邪引いちまうよ? ったくなぁ」
そこで、――はっ! と、何かを思い出したような少女。
「初めてなのです。自分から、こう、何かをしたい、という衝動は……!」
「え? ちょ、まっ、なに、その手ッ?」
なんと!
両手のひらを構え、少女はこちらに詰め寄って来る! 無表情なのがこれまた恐ろしい。
「いやーもういいっしょ、泉ポチャは! な? 押すなよ?」
「 → はい
いいえ」
「……ん? なに、今の?」
しかし!
あるいみ とても ゆうしゃっぽいと いえなくもない!
不安になりながらも、再度、少女に確認の少年だ。
「まぁ、とにかく、さ、なんつーの、こう……うん、ね、押しちゃダメだから、……ね?」
「 → はい
いいえ」
「えぇー……ちょ……、まさか……?」
「…………」
ゆうしゃは みがまえている!
「…………」
「…………」
ゆうしゃは ようすをみている!
と、
「…………………………ぜったい、押すなよ?」
「 はい
→ いいえ」
「せい!」
どっばっしゃーんッ!
「――あんのじょうだよおおおおおおッ!」
少年は三度、泉に落とされた!
もがきながら、彼が見たものとは……?
「ああっ……!」
「なに――、その――、恍惚とした、ため息は――ッ!」
やはり!
しょうねんは およげない!
そして、間。
「あのねぇ、勇者がそんなことしちゃダメぢゃねッ?」
「いえ、だから、勇者などではありませんってば」
「いいよ、もぉ! みんなもそう呼んでるんでしょ?」
「呼ぶのは、人の勝手、ですが……」
「とにかくねぇ、人をさぁ、いきなり泉に突き落とすなんてね、ありえないよッ?」
……なんだこれ、めっさデジャヴってるんですけど……。つか、無限ループ? いやいやいやいや……!
と、ずぶ濡れのまま抱えていた頭を不意に上げれば、身悶える少女の姿がそこに。(ちなみに、やはり顔は無表情のまま)
「なぜでしょう、ああっ、あなたを見ていると、なんとうか、こう……、血が騒ぐ? みたいで、どうしても、いぢめたくなるのです……、そろ~り、そろ~り」
「押そうとするなっ、声出てるし! てか、いぢめたいっつっちゃったよ! なんなの、それっ? ドSなのッ? ――――はッ!」
「おや? どうしました?」
「……い、いま、なにか、また、過った気がする!」
――にじみ出てるよ、生き生きしてたもの、顔が! 目が! ドの付くSだよ!
「……ッ!」
「だいじょうぶですか?」
「あの、さ……、きみの、使命って、なに……?」
「私の使命ですか? ですから、この水を使い聖なる衣するため都で職人さんを――」
「ああそうじゃなくって! ええと、その、なんつーか、こう……最終的な目標、みたいな? 一番の大目的って、……な、なにかなぁ?」
「それならば、決まっています、――魔王を倒すことです」
淡々と、しかし、それでいてきっぱりと、少女は答えた。
「…………ああ、やっぱりね……うん、勇者だもんね……」
「? それが、なにか?」
「思い出したことが、ひとつ、あるんだ……」
「それは一体、なんなのでしょうか?」
「――余は、魔王だ」
「……ッ! ……ああっ、なるほどっ! わかりましたっ!」
「わかって、くれたか……」
「やっぱりあなたは――、ドMさんだったのですね?」
「ちっがーうッ!」
つづく!